第4話〜熊と相撲を取るのは金太郎だけで良いと思う〜
第4話です
ちょっと吾郎爺パートから入ります
「初日から災難続きですなぁ」
「そう思ってるなら止めてくださいよ吾郎爺さん…」
翌日の朝。寝た気がしないまま俺は居間で吾郎爺と話していた。
ちなみにあの後倉庫のほとんどが埋まるくらいに薪割りを手伝わされた。
冬の暖房のために今のうちから準備しとくんだと。
「……彼女、俺の名前知ってたんですけど」
「あぁ……そうでしたな。小紅はね、貴方が来ることを心待ちにしていたのですよ」
そう言って微笑む吾郎爺。
その言葉を聞いて少し驚いた。
あんな凶暴な鬼娘が俺が来ることを楽しみにしていたとは…。
少し驚いた表情を見た吾郎爺は、ほっほっほと朗らかに笑う。
俺の表情を見て、少し愉快そうだ。
「少し荒っぽいですからなぁ。驚いてしまうのもしかたあるまいて。
あの子はね、少しばかり可哀想な子なのです」
そう言って緑茶を啜る。
「生まれると同時、母を無くして天涯孤独の身。
私はあの子の面倒を見ると同時、この集落の者たちは皆、あの子を迎え入れることを反対しておりました。」
なんせ鬼の子……いや、鬼そのものでしたから。
そう続ける吾郎爺。
正直、想像のつく話だ。
人間にとって彼女の力は、とてもじゃないが人智を遥かに超えている。
怖がられても…仕方ないのかもしれない。
「この辺りに若いもんはもう居らん。あの子を怖がり、小さい子供のいる家庭はほとんど出ていってしまった。
人は分からないものを怖がる。だからこそ、あの子から離れたかったのかもしれんなぁ…。
少々理不尽に感じても、それを責めることは…」
小さく息をつき、小さく首を横に振る。
「だからこそワシは、彼女の家族として生きることを決めた。貴方のお父上からはできる限りの援助をすると毎月それなりのことをして頂いているのです…」
あの親父、仕事ばっかりで今まで父親らしいことはしてもらった記憶もないが…。
そんな義理堅い一面があったとは。
しんみりとした空気になりかけたその時
「おはよぉー。何話してるの?」
噂をすればなんとやら。寝ぼけまなこで子紅が入ってきた。
肌色が見えた瞬間、全力で首を横にひねる。
寝相があまりよくないのか、肩の当たりがはだけていたからだ。
一瞬だけ見えたがセーフ…!これはセーフ…!
「おはよう小紅。大したことじゃぁありゃせんよ。顔を洗ってきなさい。朝メシの支度はできているよ」
ふぁーい、と生返事をしながら立ち去る小紅。
…とりあえず難は去った。
「……吾郎爺。正直俺、命がいくつあっても足りない気がするんだけど」
「………………まぁ、根はいい子ですからね」
待てなんだその間は。
よっこいしょ、と立ち上がった吾郎爺は朝メシの準備をしに台所へと立ち去った。
「…天涯孤独、か」
俺は母はいないが、親父がいた。
仕事でそこかしこを飛び回ってたもんで家族らしいことをした記憶はあまり無い。
最近だって親父の仕事の雑務を細々こなすだけで、親子らしい会話もした記憶がほとんどない。
でも。
肉親は生きていて、
学校に行けば友達がいた。
そんな当たり前も彼女は……。
想像するだけで、少し切ない気持ちになった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前言撤回。
「飛んでっ…けぇええええええ!!!!」
大の大人の身長ほどある熊を150cmくらいしかない華奢な少女が投げ飛ばす。
グォオオオオオオオオオォォォェェ…………
哀れ、熊は宙高く舞い、木に激突しながら地面に落ちる。
段々と細くなっていく断末魔が更に哀愁を誘うようだ。
「よっし!今日は熊鍋ね!!」
「…死んでる…」
素手で熊を投げ飛ばした彼女は赤と黒の作業着姿。
暑いのだろう。上だけはだけさせた姿は中々扇情的ではある。
しかし相手は鬼。油断したらミンチよりひでぇやみたいな状態になるに違いない。
「ほら、運んでよ。」
無茶言いなさる。
白目を向いて舌をだらんと垂らしたそのクマは優に100キロは下らないだろう。
それを持てと。なるほど。
無茶言いなさる。
「マコトあんた、そんなことも出来ない訳?非力ねー」
口の端を釣り上げニヤニヤ笑う鬼。
「いや普通に無理なんだけど」
「は?吾郎爺はできるわよ?」
うっそぉ!?!?!?あの爺さんが!?!?
はぁ!?と驚きを隠せない俺の顔が余程面白かったのだろう。キャハハと無邪気に笑う。
「まぁ吾郎爺は昔から私より強かったし〜?吾郎爺くらいしか話したことないし〜?みーんなあれくらいできると思ってたけどな〜????」
ざっこぉ!プークスクス!!
めっちゃ煽るやんコイツ。
思わず頬が引きつってしまうが……まぁ事実、彼女の言うことは間違ってない。
がしかしいくら何でも理不尽すぎやしないか……!?
「しょーがないわねぇ」
よいしょーっと、軽い調子で熊を担ぎあげる小紅。
「全身は無理でも、後ろ足くらいは支えてくれない?引きずっちゃうから。」
それくらいならアンタでも出来るでしょ?
そう言ってフフンと笑う。
…こいつ…いつか目にものを見せてやる…!
後ろ足を支えながら歩き出した時
あ、そうそう、
と、軽くこちらを向いた子紅は
「次の熊狩りは貴方ひとりでやってもらうから。ナタくらいは渡してあげるから安心してね?」
やめてくださいしんでしまいます
━━━━━━━続く━━━━━━━━
ここまでご覧いただきありがとうございます!!