第3話 鬼の力は結構強いらしい
名前の読み方です
楠木→くすのき
吾郎爺→ゴロジイ
小紅→こべに
「それはそれは。災難でしたなぁ」
ほっほっほ、と笑う爺さん。
「笑い事じゃないですよ…」
居間にて。あれから何とか入浴を終えた俺は、先程の投球(?)によりジワジワギシギシと痛む身体を引き摺って客室へと戻ってきたのと同時、爺さんがお茶が入ったからと俺を呼びに来た。
あの鬼娘は自室へ引っ込んでったらしい。
「いやはや、普段はとても良い子なのですがね、感情が高ぶってしまうと少々荒っぽくなってしまうようでして」
「はぁ……」
あの鬼娘……彼女はこのお爺さんの娘だと言う。
「申し遅れました。わたくしの名は坂田五郎左衛門と申します。これからよろしくお願いしますよ。わたくしのことは、そうですなぁ、吾郎爺とでもお呼びください」
「わかりました…。でも、吾郎爺さん。あの子…人間じゃないですよね…?娘って…」
当然の疑問を口にすると、顎に生やした真っ白な毛を骨ばった右手で撫ぜながらゆっくりと話し出した。
「そうですなぁ、どこから話したものでしょうか…今から約10余年前でしょうかねぇ。ワシはこの辺の山で猟師をしておりました。獣を狩り糧とし、害をなすモノあればソレをこの手で仕留めて来ました。
あの子を見ればわかるかと思いますが、昔は山に色んなモノが居たもんです。」
それは俗に言う妖怪の類なのだとか。
にわかには信じ難いが、彼女が持つ角を見れば否が応でも信じざるを得ないだろう。
「貴方のお父上は、あなたが生まれる少し前に、この村に住んでおりましてね。ここいらの噂、鬼に興味を持っていらしたようでした。しかして、都会から来られた方にはよくある事なのですが、山に関してはてんで素人。あっという間に遭難してしまったのですよ。
村の情報は、最近のいんたーねっと、とか言うものより速く良く回りますれば、村の皆が私に捜索を頼みに来たのです」
あーの親父、なんて迷惑を…
「あぁいえいえ、迷惑なんてそんな。
人がまず踏み入れない奥地へ足を踏み入れたところ、あなたのお父様はすぐ見つかりました。
1人の妊婦を連れて、なにかから必死で逃げているところを…」
…………………………え?
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「アンタこっち来なさいよ」
屋敷の中、襟を掴まれズルズルと引きずられている。
「今日から私の下僕だって言ったのに吾郎爺とずーーーーーーっとはなしこんじゃって!どれだけ私を待たせるつもりよ!」
「グゥ…いや、そんなこと言われてもっ!」
「口答え禁止」
ハイすいません。
ピシャリとそう言われてしまった俺はすぐに黙ってしまう。
「そういや私アンタの名前聞いてなかったわ。なんて言うのよ」
「おっ、俺は」
「私は坂田小紅。でもアンタはお嬢様って呼びなさい。吾郎爺の娘ってことになってるけど血は繋がってないの。
アンタみたいな下郎100回殺しても私の裸を見た罪は1ミリたりとも償えないけど特別に許したげる」
こいつさては言語が通じないタイプだなぁ!?
何はともあれ許しては貰えたらしいが、中々強引なようだ。
この理不尽さ、まさに鬼と言って差し支えないだろう。
「よし、着いた。」
「…こ、ここは」
「ん、ここは薪割りするとこ。見たらわかるでしょ?」
なるほど確かに。屋敷の裏手には大きな薪割り台と木材置き場、割ったあとの薪の保管用倉庫らしきものがあった。
「マコトは薪割り、やったことある?」
「…いや、ないけど。てか名前なんd」
「んじゃ教えたげるからこっちね」
聞く耳を持ちゃしねぇなぁおい!
薪割り台の横には斧があり、軽々とそれを拾うと俺に手渡してくる。
「薪割り台の奥にこうやって置いて…ほら、やってみな?」
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十数分後……
「アンタセンス無いね」
グサリ。
「腰は引けてるし力も弱いし」
グサグサリ。
「1本割るのにどんだけ時間かかってんの?」
グサグサグサリ。
「いやだってやった事ないし…」
「それでもアンタ男なの?」
グサァッ!!!!!!!
俺の心に渾身の一撃!俺は力つきた…。
「全く、仕方ないわね。貸してみなさい?」
涙がちょちょぎれるような思いで斧を渡すと、新しい薪を置くように言う小紅。
言う通りに手頃な薪を置くと
「あー、違う違う。それじゃない。そっちのおっきいやつ。」
…人の胴程もあるこれを??????
言われた通りに置いた瞬間。
ビュッッッッッバカンッ!!!!!!
真っ二つ。一刀両断。四面楚歌。
いや四面楚歌は違うか。
パラパラと木屑が落ちる音を聴きながら呆然とする俺を見てニヤリと笑う鬼は
「どう?私がこれから鍛えてあげたらこれくらいはできるようになるかもよ?」
そう言った。
…………やめてくださいしんでしまいます。
サァッと血の気が引く音を聞いたような気がするが
「さ、これをあと何等分かにするからどんどん置いて頂戴な」
バカンッ!バカンッ!バカンッ!バカンッ!!
静かな山にしばらくその音が木霊する。
……鬼って、こえーなぁ……
「なんか言った?」
「いえ何も。」
俺はこの鬼娘と上手くやっていけるのか。
一抹の不安を覚える1日になった。
━━━━━━━━続く━━━━━━━━━
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