第1話 遭遇
どこから話そうか
「で、申開きは?」
ない。っていうか俺が悪い。何も言えない。
「いえ…ありません…」
「あっそ。じゃ、さよなら」
華奢な腕から放たれる渾身の一撃。
迫り来る死の風切り音と凶器を前にして動けぬまま、僕の今までの人生が脳裏に走っていく。
人は死の瞬間時間がゆっくりになるって言うけどこのことかと、レクイ○ムを食らったボスもこんな感じだったのかと
そう思ったがそんな呑気なことを考えている間にも目の前には棍棒型の鉄塊が迫っt
瞬間、頭に思い浮かんだ言葉は
──神様、俺がなにかしましたか?──
そうして俺は……
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────現代日本─────
例年より短かったように思える梅雨が終わりを迎え、初夏の風を身に感じながら自転車を走らせる。
目的地は行ったこともない田舎の集落。そこにある1件の家。その家人。
某県某所から電車で9時間。そこから駅に用意されていた自転車で2時間。田舎のだだっ広い田園風景を自転車でひた走る。車くらいは用意しとけって思ったがそこまで優しくは無いらしい。
なぜこんなことをしてるかって思う方もいるだろうが、別に俺だって好きでこうしてるわけじゃない。
親父がやれって言うからやってるだけなのだ。
……いや別に逆らえばいいじゃないかとも言われそうだが。
俺の名前は楠木誠。今年で17になる。
親父はとある仕事の長で、俺はその手伝いをしている。半ば無理やり。
金払いがいいから別に気にしてないがそうでなければ普通に学校に行きたいところだ。
中学の成績は中の上か上の下くらいだったし、ある程度進学校とか言われるようなところにも行けるくらいには頭が良かった、と思う。
しかしそんな教育がなんの役に立つのかということで早くに親父から仕事に関しての「お勉強」を叩き込まれた。
高卒だとか大卒だとかその辺の資格は親父が何とかしてくれるらしい。だから集中して家業に励め、という訳だ。いやはやなんともご都合主義的。
「…長いものには巻かれろ、かっ…」
そんなつぶやきも遥か後方に流れて消えていく。
そんなこんなで汗びっしょりになりながらも、何も無い道をガッシガッシペダルを漕いで行く。
何も無い田舎道、カンカンに照りつける陽の光、たまに遠くで農作業をしている人。
そうこうして午後3時を回ったところ。
見えてきた。
奥まったところにある1件の家。つーか御屋敷。
古めかしい日本家屋が今回の目的地である。
玄関先に自転車を停めさせてもらい、額の汗を拭った。その時。
「おぉ、いらっしゃい」
「どぅわっ!?」
唐突に真横から声を掛けられ、驚愕の声を上げてしまった。
「ほっほ、申し訳ない。驚かせてしまいましたな」
カラカラと笑いそう言うのは、穏やかな表情をしたお爺さん。立派な藍染の着物を身につけ、しゃんとした背筋。
「貴方のお父様からお話は聞いております。マコト様、でいらっしゃいますね?こちらへどうぞ。はるばるようこそお越しくださいましたね」
そう言って爺さんは、固まった俺を後目に門をくぐって行ってしまった。
「……気配、なかったよな……?」
親父、俺に何させようってんだよ
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「いやはや、遠いところ、迎えも寄越さずに申し訳ありませぬ」
客間に向かう間、爺さんはそう話しかけてくる。
「なにぶん、2人で暮らしているものですから…昔は使用人も数人雇っていたのですがここ数年で皆辞めてしまったのですよ」
こんな広い屋敷だと言うのに2人で暮らしてると、そういう爺さんに怪訝な目を向けてしまう。
2人、というと、奥さんとか?老夫婦で暮らしてると言うのだろうか。
だとしたら不便極まりないだろうな…。
そう思っていると察したのだろう。
「妻には何年も前に先立たれてしまいました。今は娘と二人暮しなのですよ」
そう言う爺さんに、罪悪感を抱いてしまう。
「いえいえ、気にしていませんよ。ふべんはしていませんからねぇ」
……………………………………エスパーかな?
「エスパーではありませんよ」
「いやなんで分かるんだよ」
ほっほっほとカラカラと笑う爺さん。
顔色を見て察してしまうとは何者なのだろうか。
「マコト様、お疲れでしょう。本日からはこちらのお部屋でお過ごしくださいますようにお願い致します」
客間に着くと、そんじょそこらの旅館より豪華な部屋が目に入る。
「あぁ、どうもすいません!こんな綺麗でいい部屋を用意していただいて…!」
「いいんですよ、当然のことですからね」
密かにテンションを上げながらワクワクとしてしまう。
部屋に入って荷物を置くと、
「着物に関しましてはそちらの箪笥に入っております。湯を張っておりますので、旅の疲れを癒してくだされ」
そう言ってくれた。
「あぁ、すいません、ありがとうございます」
とりあえず、風呂だな。
話はそれからだ。
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ガラリと開けた瞬間目が合った。
「「……………………………………………………………………」」
服を着ている最中だったのだろうか。
上気した肌。長く艶やかで赤みがかった黒髪。
額から伸びる──1本の角。
鬼のような、上に向かって伸びる、ツノ。
鬼のように美しい少女がそこにはいた。
永遠にも一瞬にも思えるような沈黙の後、動き出したのは少女の方だった。
「出ていけぇえええええ!!!!!!!!!」
パッッッカーン!!!!!!!!!!
殴られた、と自覚するのに偉く時間がかかった気がする。
グワングワンと揺れる視界の中、浴室の扉がピシャリ!!と勢いよく閉められてしまうのであった。
━━━━━━━━続く━━━━━━━━━
はい、初めましての方は初めまして。
東雲緋色と申します。
不定期になってしまうかもしれませんが、生暖かい目で見守ってあげてください……!
誠君が割と酷い目にあってしまうギャグラブコメディを目指しています!
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