少女A②
ゆらゆら燃えるロウソクの火。
神社の薄暗い本堂の中を優しく照らす。
赤いロウソクの火を見ていると気持ちが落ち着つきます。
今日あった嫌なことも全部、ロウソクの火にくべて燃やしてしまいましょ…
あぁ…嫌なことを思い出してしまった……
私の下に水たまり……
ぽたぽた垂れる雨の水。
私の髪から滴る雨の水。
濡れたセーラー服から滴る雨の水。
私の頬を伝う水。
ぽたぽた落ちるのは、雨の水だけではないのです…。
「ううぅ…っ!ひっく…っ。うぇえええん…っ!」
涙が止まりません。
どうせ、ここにいるのは私だけ…
泣いたっていいでしょう。
私は、声を上げて泣きました。
ここで、いっぱい泣きまくって、涙が全部枯れるまで泣きつくして…
笑顔でうちに帰るんです。
ママに心配は、かけられません。
泣き虫な私は、ママに嫌われているから……
また泣いて帰ったら…ママにもっと嫌われてしまうから……
ガラガラ…ピッシャンッ!
引き戸を開けて、誰かがここへやって来た。
誰…!?
私は、濡れたハンカチで濡れた瞳をこすってから、後ろを振り向いた。
「―――あっ…。あっ、えっ…えぇっと!そっ、その…っ!あっ、あっ、あの…!えっ、あっ…そのぉ…」
やって来たのは、知らない男の人だった。
男の人は、緊張?しているのか「あっ」と「えっ」しか言わなくて…
私の方をチラっと見ては視線を外して、もじもじと身をよじっている…
男の人は、全身びしょ濡れだから(あっ。それは私も同じだ…。)きっと、寒くて震えているのかしら…?
寒くて、呂律が回らないのかしら…?
「グスッ…。あなたも、ここへ雨宿りに来たんですか?」
私は、垂れてきそうな鼻水をすすってから、男の人に話しかけた。
さっきまで泣いていたなんて思われないように、できるだけ明るい声で。
「あっ…そ!そそ、そう…っだよ…。い、いやぁ~、すっ、すごい雨だ、だねぇ…。」
「ほんとうによく降りますねぇ…。」
「あっ、あっ、あははっ…、じゃ、じゃあ…さ、さよならっ!」
男の人は、ひきつった顔で笑いながら引き戸を開けて、外へ出ようとした。
「あっ!待って、ください。まだ、雨降ってますよ。」
「あっ…!でっ、でも…あの…っ、おっ、俺は…えっ、えぇっと……っ!」
男の人は、女子の私と二人っきりでいるのが悪いと思って気を遣って出て行こうとしているのかも。
「もう少し雨が弱まるまで待った方がいいですよ。」
「あっ…!で、で、でも…っ!」
「この神社、古臭くて薄暗くってなんか、おばけとか出そうじゃないですか?私、さっきまでひとりぼっちで、ちょっと心細かったんです…。良かったら、雨が止むまで一緒にいてくれませんか?」