第35話 魔王を倒したが?
日は落ち、星々が輝いている。まるで魔王討伐を世界が喜んでいるようだ。
「ならば今一度問おう。ラウル。男に戻りたくはないか?」
偉そうに後頭部から話しかけてくる神。
俺は少しイライラするが、アルカがいるせいか神に怒りをぶつける気はない。
そもそも、俺の目的は叶えられた。
アルカを見ると、少し寂しそうな顔をしている。これは決まりかな。
「アルカが戻ってきたし、今すぐ男に戻りたいってことはないかな」
「そうだろう? なら……おい、少し待て。今なんて言った?」
「お? どうした? 動揺してるのか?」
珍しく神が俺の言葉を聞き逃したらしい。
新しいおもちゃを見つけた時のように思わず口角が上がる。
こんな面白いことなかなかないぞ。
「おいおい。神様? 人間に動揺させられるとはどういうことですか?」
「まさか貴様に女装へ」
「ちげーわ! そうじゃねぇから! 俺が男に戻るより、アルカと一緒にのんびり暮らす方が大事なだけだから! それに、お前当初の目的果たしたんだからもういる理由ないだろ。なんで帰らないんだよ。まだ面倒なのいるってのか?」
「みっともないぞ。神をバカにするなど」
「いいから質問に答えろよ!」
あー。暑い。ここ暑いわ。顔も熱いし。
マジでビビったわ。急に変なこと言うから。
「神、まだ面倒なのがいるのか?」
「その通りだ」
「は? 本当か? 俺で遊ぼうとしてるんじゃなく?」
「ああ」
俺はてっきりこの世の悪は魔王だけだと思っていた。
死神はダンジョンから出てこない。被害が出るとすれば冒険者だ。冒険者ならば仕方がない。
もちろん、魔王がやったように一般人を入れるなら話は変わってくる。
だが、悪意の範囲を人間にまで広げたら、それは確実に俺の出る幕じゃない。
俺は首に神経を集中させた。
「どんなのだよ」
「邪神だ」
「それ、お前らの問題だろ。自分でなんとかしろよ」
神様は神様同士でなんとかするんだろう。
魔王についてはこの世界のことだから人間に干渉してるんであって神のことは神がやってくれって話だ。
「なんで神の問題まで持ち込んでくるんだよ」
「そう思うことも無理はない。だが、この世界に魔王のようなモンスターが現れるのは邪神のせいなのだ」
「ほう。つまりあれか、死神みたいな自称神ってことか」
「いや、そうではない。邪神は実際に我々と同じ神だ。だが、力を与える対象が人ではない」
「なに?」
「わかってきたか? そう。我々が人に力を与えるように、邪神はモンスターに力を与え、魔王のような強大なモンスターへと変える。それが邪神の力だ。いくら魔王を倒そうとも邪神を倒さなければ魔王は現れ続ける」
「……」
つまり俺は、一時的に魔王を倒しただけで、放置すればいずれ邪神が新たな魔王を生み出し、俺と同じような被害者を出てしまうってことか。
「うーん」
だが、やはり神の次元の話は神が決着をつけることのように感じる。
「別に俺じゃなくてもいいんじゃないか?」
「そうだな。貴様はそう思うかもしれん。だが、邪神はこの世界に現れている。力を与える先がモンスターだからなのか、我々と違い実体化している。今は力を制限されているようだが、力を与えることはできるようだ」
「アルカはどう思う?」
「わたしは正直、姉妹に憧れてたから。おにいが嫌じゃないならもう少しお姉ちゃんでいてほしい、かな」
「え」
邪神をどうするか聞いたつもりだったが、そうか。
寂しそうな顔は俺が旅に出ることじゃなく男に戻る方だったか。
まあアルカがそう言うなら、より男に戻らなくてもいいことになりそうだが。
「家族を生き返らせるのでも構わないぞ。我なら形がなくとも蘇生ができる」
「いや、それはいい。な、アルカ」
「うん」
「どうしてだ?」
「アルカは少し事情が違うだろ? 神の力なんてのよくわからなかったしな。けど、今さら生き返らせるのは命を冒涜してる気がして嫌だ。それに、今さら巻き込みたくないし」
「そうか。ではどうする? 他の願いにするか?」
「なんでそもそもやる前提なんだよ。俺は勇者でもなんでもないし、これから先俺より強いやつが現れると思うぞ。そいつに任せたらいいじゃないか」
「それは限りなく可能性が低い。勇者が倒れ勇者の剣が使えなくなった今、一番強いのは貴様だ。これから先も貴様以上の存在が現れるとは限らない。我は貴様のスキルと肉体の相性がこれまでの勇者以上だと踏んでいる」
「買い被りすぎじゃないか?」
「そんなことはない。事実、魔王を倒したではないか。邪神は封印されている。倒すのは今がチャンスなんだ。貴様としてもこれ以上魔王の被害は出したくないだろう。我は貴様の心を信じているぞ」
信じている、か。きっと今までの神なら俺に対しそんなことを言わなかった。
魔王を倒したことは、神も評価しているのかもしれない。
せっかくアルカと再会できたんだ。俺が無理にやることじゃない気がするが。
「なあ、神」
「なんだ」
「男に戻るってのじゃアルカの期待に答えられないらしい。だから代わりに男にもなれるってのはどうだ?」
「それくらい容易い。その条件ならばやるのだな?」
「ああ」
確かに、俺が無理にやることじゃないかもしれない。
だが、俺が目指していたのは、決して魔王討伐だけではない。
自分でわかる範囲の人間が同じ目に合わないようにすること。
封印だけではダメで邪神にトドメを刺さないといけないのなら、それがもし俺にできることかもしれないのなら、やってやろうじゃないか。
「アルカ。今の俺はアルカの姿だ。少なくとも邪神を倒すまではこの見た目だと思う。それでも、一緒についてきてくれるか?」
「あったりまえじゃん! お姉ちゃん一人で行かせるなんてできないよ」
「ははは。お姉ちゃんか。まあ好きに呼んでくれ」
楽しそうに笑うアルカ。
本当はどこか安全なところにいてほしいが、おそらく俺のスキルは元に戻っている。アルカがいなければ俺は何もできないだろう。
「そんなことはないぞ」
「神様、何が?」
「ラウルの心を読んだのだ」
「それじゃ」
「ああ。スキルは孤軍奮闘のままだ。その代わり、アルカのスキルはラウルとの距離により能力が上下する阿吽の呼吸だ」
「は? どうなってんだよそれ」
「ラウルはこれまで通り戦えるよう調整してある。アルカもラウルがいれば戦える。悪くないだろう」
「だって。よかったね。お姉ちゃん」
よかったのか?
俺が疑問に思うなか、アルカは俺の左手にある魔王の体を払い除け、ギュッと握ってくる。アルカにとっては俺が女の子だということがよかったのだろう。
本当に姉妹がほしかったんだな。
そんなアルカに俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「ん?」
俺はふっと右手に視線を向けた。俺の持つ魔王の首が急に動いた気がしたからだ。
「ふふふ」
いや、気のせいではない。確実に動いている。言葉を発している。
「いやはや、神を手懐けるとはな。なかなか面白い人間じゃあないか」
魔王は首だけの状態でも流暢に言葉を発していた。
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