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027 エピローグ

 彼のプロポーズが静寂に包まれた謁見の間に響く。

 皆は口を閉ざし、ただ静かに私達を見ている。


「…………」


 私は何も言わず、正面に立つアーサーを見た。

 彼は跪き、顔を下げたまま、私に向かって右手を伸ばしている。

 その手を掴んで応じるか、それとも掴まずに断るか。


 軽い気持ちで決められることではない。

 応じたら、私は王妃として残りの人生を過ごすことになる。

 アーサーのプロポーズを受けるには、王妃になる覚悟が必要なのだ。

 彼と共にこの国を背負う覚悟が。


 それでも――。


「アーサー、私はよく分からなかった」


「え……」


 顔を上げるアーサー。


「あなたに対する私の感情が、ずっと分からなかった。ひとえに『好き』と言っても色々あるでしょ。家族に対して抱く『好き』だったり、友達に対して抱く『好き』だったり、同じ言葉でも『好き』の意味は異なる。その中で、私があなたに抱いている『好き』という感情が、ずっと分からなかったの。友人としてなのか、気の合う仲間としてなのか」


「クリス……」


「でも、ようやく分かった」


 そこで言葉を止め、一呼吸。


「あなたが『王妃の玉座に座ってほしい』と言った時、私は思ったの。自分以外の女性があなたの隣に座っているのを見るのは嫌だって。それではっきり分かった。この気持ちは、友達とか気の合う仲間とかそういうのじゃない。この『好き』は恋愛感情、もっと言えば、あなたに対する『愛』なんだって。だから――」


 私は手を伸ばし、アーサーの右手を掴んだ。


「――謹んでお受けいたします」


 アーサーの目に涙が浮かぶ。

 それを見ていると、私の視界も何やらボヤけてきた。


「クリス、ありがとう。大好きだ! 愛している!」


 アーサーは立ち上がり、抱きついてきた。


「ちょっと……皆が見ているでしょ」


 私は照れ笑いをしながら、彼の背中に両手を回す。

 そんな私達を、その場にいる皆が拍手で祝福してくれた。


「殿下! ここはキスですよ!」


 列の前のほうにいるルキウスが笑いながら言う。

 最前列のお爺さん――おそらく公爵が「いいですのう」と便乗。


「おいおい、茶化すなよ」


 と言いつつ、アーサーは何やら期待した顔をこちらに向ける。

 どうやら彼はキスしたいようだ。


「もー、仕方ないなぁ」


 私は呆れたように言って目を瞑る。

 その数秒後、唇に柔らかい感触が伝わった。

 彼の唇が重なったということは、目を開けなくても分かった。


(これがキスかぁ)


 なかなかいいものだ、と心の中でニッコリ。


「ありがとう、クリス」


「こちらこそ。私を選んでくれてありがとう」


「君しかいないよ」


 アーサーは嬉しそうに微笑み、神官長に顔を向けた。


「すまない。王位継承の宣誓を始めてくれ」


 これに対し、神官長は「待っておりましたぁ!」と上機嫌で宣誓の儀を執り行い、アーサーは王子殿下から国王陛下になる――と思いきや、実際は違っていた。


「い、いえ、それが……」


 神官長が申し訳なさそうな顔をする。

 首を傾げる私とアーサー。

 そこへ――。


「ようやく男になったなぁ! 我が息子アーサーよ!」


 ――国王がやってきた。

 血色のいい顔にリズミカルな足取り、どう見ても健康体だ。


「父さん……?」


「皆の前では陛下と呼べと言っているだろ!」


「し、失礼しました、陛下」


「おう! それでいい!」


 国王は満足気な表情で玉座に腰を下ろす。


「それで陛下、これは一体、どういう……?」


「まだ分からぬか? そなたにプロポーズの場を設けようとワシが仕組んだのじゃよ! つまり感染症も危篤も嘘じゃ! 嘘! ぜーんぶ嘘!」


「「えぇぇぇ……」」


 愕然とする私達。


「あの、陛下……」


「どうした? クリス」


 私は恐る恐る尋ねた。


「これは純粋な疑問なのですが」


「申してみぃ」


「頭おかしいんじゃないですか?」


 たちまち場がどよめく。

「流石にそれは言い過ぎだ」と怒る者から「殿下が選ばれただけあって豪胆な女性だ」と愉快げな者まで、周囲の反応は様々だ。


「クリス、そなたには申し訳ないと思っておる。本当に、心からそう思っておる。じゃがな、こういう機会でもなければ、そなたらの関係は友達以上恋人未満から進展しなかったじゃろ?」


「それはそうですけど……」


「そこらの若者ならそれでもいい。そういう焦れったいのも青春というものじゃ。しかしアーサーはそうも言っておられん。此奴は未来の国王じゃ。いつまでも皮の剥けない男では困る。そなたが気を悪くするのはもっともだが、国の将来を考えれば最善の決断だったとワシは確信しておる」


「だからってこれほどの一大事を仕組むなんて……。というか、大貴族や騎士団長まで巻き込むとかあり得ませんよ、普通」


 国王はニカッと笑い、悪びれる様子もなく言い放つ。


「だってワシ、王様だもん!」


「ハハハ、なるほど、なるほどなるほど……」


 私はニッと笑い、国王に近づいた。

 そして、国王の頭に全力の鉄拳をお見舞いする。

 ドガッと鈍い音が謁見の間に響いた。


「「「陛下!?」」」


 皆に緊張感が走る。

 アーサーも「おいおい」と焦っていた。


「イタタタ、何をする!?」


「このゲンコツでチャラにしてあげます」


「なんじゃと……」


「国のトップがふざけた考えをしている時は正してあげなくてはなりません――だって私、未来の王妃ですから!」


 国王は驚いて固まった後、ブッと吹き出した。


「これは一本取られたわい! アーサー、そなたはワシと同じで女を見る目があるな! クリスが相手ならワシも安心できる!」


 私が認められたからか、アーサーは嬉しそうに「ふふふ」と笑った。


「ま、見ての通りワシは元気だし、この座を譲ってやるつもりもない。お主らもまだまだ遊びたいじゃろうし、今後も他の国を回ってくるといい。ハネムーンにもなってちょうどいいだろう」


「それは名案だ! 流石だな父さん!」


「ここでは陛下と……まぁいい。クリス、そなたも異存はないな?」


「はい。ただ、一度ルータウンに戻らせてください。両親や店の様子が気になりますし、何より婚約について報告しないといけません」


「うむ、そうじゃな。向こうもそなたに報告することがあるだろうし、ちょうどいい」


「私に報告?」


「行けば分かる」


 そんなこんなで、アーサーと共に故郷ルータウンへ戻ることになった。


 ◇


 私とアーサーの乗る馬車がルータウンに到着。

 客車から降り立った瞬間、国王の言っていた「向こうもそなたに報告することがあるだろう」の意味が分かった。


「ここ、本当にルータウン!?」


「はい、ルータウンでございます」と御者。


「いやいや、どう見ても……えぇぇぇ……!」


 故郷ルータウンは、私のいない間に大きく変わっていた。

 人口が数十倍・数百倍レベルで増えていて、町も異常に発展している。

 片田舎の小さな町だったはずが、今ではそれなりの街になっていた。


「おー、クリス! 戻ったかー!」


「町の英雄クリスじゃないか! 久々!」


 顔馴染みの町民が私に気づいて声を掛けてくる。

 そのやり取りで、馴染みのない町民達が群がってきた。


「あの方がクリス様!」


「お隣にいるのはアーサー殿下よ!」


「きゃー殿下ー! カッコイイー!」


 かつてのルータウンではありえなかった光景だ。


「何がどうなっているの……」


「さぁ? とにかくクリスの雑貨屋に行こう」


「そうね。でも、どこが雑貨屋か分からないわね」


 かつての残り香も微かにあるけれど、殆ど見知らぬ街だ。


「クリスの雑貨屋はあっちのようだぞ。ほら、あそこに道案内の看板がある」


「本当だ!」


 クリスの雑貨屋はこちら、と書かれた立て札や看板がそこらにあった。

 どういうわけか私の雑貨屋は観光名所と化しているようだ。


 私達は道案内に従い、クリスの雑貨屋という店を目指す。

 そうして辿り着いたのは、案の定、見慣れないお店だった。


 私の雑貨屋とは思えない程に大きな店構えをしていた。

 だが、看板にはしっかり「クリスの雑貨屋」と書いている。

 広々とした店内は女性客で溢れかえっていた。


「これで貴方もクリスになれる! クリスセットはこちらだよ!」


 訳の分からないセットを販売しているのは――私の父だ。


「お父さん、何しているの!?」


「お、クリス! クリスじゃないか!」


 このやり取りで、店内の女性客が私達に注目する。

 が、私は彼女らを無視して、カウンター越しに父と話した。


「クリスじゃないか、じゃないよ。何がどうなっているの。ルータウンは意味が分からないほど開発が進んで巨大化しているし、私の雑貨屋もなんだかすごいことになっているし、変わっていないのはお父さんがお金の亡者ってことくらいだよ!」


「そりゃお前が殿下と婚約したんだからルータウンだって発展するさ。おかげでこの店は月に3000万ゴールドの売上だ! お父さんな、もうウハウハでたまらないよ! 母さんなんて友達のブレンダさんと王国一周旅行を満喫中だぞ!」


「婚約したのは昨日だよ! 昨日の今日でここまで発展するわけないでしょ!」


「何を言っているんだ? 婚約したのは数ヶ月前だろ?」


「えっ」


 私と父の認識には齟齬があるようだ。


「お父さん、ちょっと話せる?」


 父は了承し、バイトの子らに店を任せる。

 そして私達三人は、変わり果てた私の実家に移動した。

 かつてはボロボロの木造だった家が、今では立派な石造りの館だ。


「お前が王宮へ行った翌週のことだ――――……」


 リビングで父から詳細を聞いた。


 それによると、私とアーサーがソネイセンに送られてすぐ、私達の婚約が王国政府から発表されたという。

 その発表によって私と私の出身地であるルータウンの名が国中に広まり、大量の観光客が押し寄せる事態になったそうだ。


 商魂の逞しい町長はこれ幸いとルータウンの観光地化を決断。

 町を挙げて観光客の取り込みを図った。


「平民のお前が王国一の美青年と名高い王子殿下をモノにしたのだから、そりゃもう世の女性達はお前のようになりたくて必死さ。だから俺はお前にまつわるグッズをアレコレ作り、『クリスセット』として売っているんだ。いやぁこれが飛ぶように売れてな、笑いが止まらないったらありゃしないぜ! がははは!」


 そういうことだったのか、と納得した。

 私はため息をつき、隣で静かにしているアーサーに言う。


「あなたのお父様って本当にイカれてるわ。もし私があなたのプロポーズを断っていたらどうなっていたんだろうね」


「父さんならどうにかするだろう。それが父さんのすごいところだ」


「もう一度言うけど、本当にイカれたお父様よ」


 なにはともあれ、ルータウンの現状は把握した。


「さて、来てすぐだけど私達はそろそろ行くわ。お父さんが元気で良かったよ。お母さんにもよろしく伝えておいてね」


「おう! クリス、くれぐれも殿下に迷惑をかけるんじゃないぞ!」


「むしろ彼と彼の父親が私に迷惑をかけるのよ」


 その後、父と少し話してから馬車で王宮に向かう。


「なぁクリス、次はどこの国に行く?」


 客車の窓から外を眺めていると、アーサーが話しかけてきた。


「んー、とりあえず役人が腐っている国はごめんだね」


「ははは、たしかにそうだな」


「ま、どこの国でも私達が一緒なら楽勝よ」


 私は彼の太ももに右手を置いた。

 彼はその手に左手を重ねる。


 私はぎゅっと彼の手を握った。

 すると彼も何食わぬ顔で握り返してくる。


「手を繋ぐのっていいね」


「だな」


 王宮に着くまでの間、何度も手を握り合う。

 それがたまらなく幸せだった。


本編、これにて完結です。


お楽しみ頂けた方、

【ブックマーク】と【評価】で応援していただけると嬉しいです。


残念ながらご満足いただけなかったという方も、

【評価】で本作品の採点をしていただけると幸いです。


既にそれらが済んでいるよという方、

ここまで応援していただきありがとうございました。


また、【お気に入りユーザ】の登録もありがとうございます。

こちらも執筆のモチベーションに繋がっており、感謝しています。


それでは、ご愛読いただきありがとうございました!

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