026 ビスネル王国の騎士団長だ
時間いっぱい祭りを楽しんだ私達は、宿屋で夜を明かした。
そして翌日、朝食を済ませると愛馬に乗ってロザルバへ帰還する。
「それにしてもクリスはすごかったなぁ!」
「何が?」
「何をやっても達者なところがさ! 金魚すくいまで極めているとはな!」
「金魚すくいはコツがあるのよね」
「コツ? 普通にすくうのではだめなのか?」
「フレームを使うの。機会があったら教えてあげる」
「よし! 家に戻ったら金魚を仕入れて金魚すくいだ――って、ん?」
「家の前に誰かいるね」
ロザルバの町外れにある私達の屋敷。
その門扉の前に、鎧に身を包む凜々しい男がいた。
年齢は30代後半ないしは40代といったところか。
顔に深い切り傷があり、歴戦の強者ぽいオーラが漂っている。
どういうわけか、私は彼の顔に見覚えがあった。
男の後ろには彼の愛馬と思しき栗毛の馬。
毛並みが非常に綺麗で大事にされているのがよく分かる。
「ルキウスじゃないか!」
アーサーが男に向かって声を上げる。
「知り合い?」
「ああ、ビスネル王国の騎士団長だ!」
「なるほど、それで見覚えがあったわけね」
前に見たのはルータウンだ。
アーサーが初めて私にプロポーズした時、彼と一緒に来ていた。
「殿下! クリス様! 大変でございます!」
アーサーの声によって、騎士団長のルキウスはこちらに気づいた。
その途端、これまでの余裕そうだった表情が慌てた様子へ変わる。
「どうしたんだ? 言ってみろ」
アーサーが近づくと、ルキウスはその場で跪いた。
「国王陛下が危篤状態にあります! 直ちに王宮へお戻りください!」
「「なんだって!?」」
私達に衝撃が走った。
◇
ルキウスと共に馬を飛ばし、私達はビスネル王国へ向かった。
ソネイセンとビスネルは同盟国ということもあり、国境は悠々とパスした。
ロザルバを発ってから約3時間後、ビスネルの王都に到着。
王都内で馬を走らせるのは禁止されているが、緊急時の特例としてかっ飛ばす。
そうして王宮に着くと、三人で国王の部屋に向かった。
「陛下、ルキウスです。殿下とクリス様をお連れいたしました!」
開きっぱなしの部屋に入り、寝室の扉をノックするルキウス。
中から「入れ」という言葉が返ってきた。
「失礼いたします」
ルキウスが寝室の扉を開ける。
そこには大勢の医者――はおらず、国王ウォルターだけがいた。
白いレースの天蓋カーテンは閉められていてシルエットしか見えない。
国王は上半身を起こしているが、ベッドから出る気配は感じられなかった。
医者がいないのは悪い兆候だ。
打つ手立てがある時なら誰かしらが傍にいる。
つまり、誰もいないというのは……。
「殿下とクリス様をお連れいたしました」
改めて言うルキウス。
「ご苦労じゃった。そなたは下がるがいい」
「はっ!」
ルキウスは深々と頭を下げ、その場を後にした。
「父さん、何があったんだ!」
「それ以上こっちに来るな!」
近づこうとするアーサーを国王が止める。
「ワシは感染症に罹っている。近づけばそなたにうつってしまう」
「そんな……!」
愕然とするアーサー。
(それで近くに医者がおらず、窓を開けっぱなしにしているのね)
寝室も含め、国王の部屋は全ての窓が開いていた。
各部屋の扉も寝室以外は開いた状態だ。
これらは換気する為の措置だろう。
「クリス」
「は、はい! 陛下!」
「息子の教育係を押しつけてしまい、そなたには迷惑をかけたな」
「いえ、そんな、そんなことはございません。私もたくさんのことを学ばせていただいています」
「そうか。じゃが、そんな日々も今日をもっておしまいじゃ」
「えっ……」
「主治医によるとワシはもう長くないそうじゃ。だから、急ではあるがアーサーに王位を継承させることにした。王となった此奴は特段の事情がない限りこの国を離れることができなくなる故、今までのようにソネイセンで過ごすことはできん」
心臓を貫かれたような衝撃が走る。
頭の中が真っ白になった。
私は何も言えず、ただただその場で固まる。
「俺が……王に……?」
「既に調整は済ませておる。あとはお前が謁見の間で宣誓するだけだ」
「そんな、俺、まだ……」
「覚悟を決めろ、アーサー。お前は今日にいたるまでソネイセンで過ごしてきたんだ。クリスにくっついていただけかもしれんが、それでも立派に生き抜いた。そんなお前なら、王としての務めも十分に果たせるはずじゃ」
アーサーはしばらく何も言わなかった。
そして次に口を開く時、彼の顔つきが変わった。
「分かったよ、父さん。この国は俺が守る」
それは覚悟を決めた男の顔だった。
「それでいい。あとは頼んだぞ。ワシは疲れたからちと横になる」
「そうしてくれ」
アーサーはこちらに振り向いた。
「行こう、クリス」
「うん」
部屋を出て、堂々とした足取りで歩くアーサー。
私はその後ろに続いた。
◇
謁見の間には、大貴族を筆頭に国の重鎮が揃っていた。
重々しい空気が場を支配している。
「さて――」
アーサーは玉座の前に立つ。
私は彼の隣――王妃が座る椅子の前に立っていた。
そこに立つよう彼に言われたからだ。
「――神官長、前へ」
「ハッ」
重厚なローブに身を包む男が列から出て、私達の間に立った。
「殿下、今から行うのは王位継承の宣誓です。よろしいでしょうか?」
「その前に一ついいか」
「なんなりと」
アーサーの顔が動き、私を捉える。
そして彼は、私に向かって言った。
「クリス、俺はこれから王位を継承する。そこの玉座が俺の席となり、その隣には王妃が座る」
「うん」
「王妃の玉座には君に座ってもらいたい」
「アーサー、それって……」
「俺はまだ君に何も勝っていない。だが、いずれ何かしらで追い抜くと誓おう。それが何になるかは分からない。しかし、いつの日か、必ず君に相応しい男になってみせる。誰よりも強い君を守る、君よりも強い男になってみせる。だから、クリス――」
アーサーは跪き、そして。
「――俺と結婚してくれ」
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