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021 この対決に俺が勝ったら、俺と結婚してくれ

「すげぇ声がしたぞ」


「どうした? 何かあったのか?」


 役人の仰天した声に反応して付近の漁師や役人が集まってきた。


「見てくれよ、この嬢ちゃんらの木箱。タコが30匹も入ってらぁ!」


「おお、本当だ!」


「というかタコしか入ってねぇ!」


「すげぇなこりゃ」


 私達の木箱を見て、周囲の連中が騒然とする。


「嬢ちゃん、どうやってこれだけのタコを手に入れたんだ?」


 漁師の一人が尋ねてきた。


「いやぁ、普通に漁をしたらこうなりました。これってすごいんですか?」


 あくまで偶然を装い、とぼける私。

 同業者の参入を少しでも遅くしたいからだ。


「なるほど、デビルブレイクに当たったわけか」


「デビルブレイクって何だ?」とアーサーが耳打ちしてきた。


 私も分からなかったので、「それは何ですか?」と尋ねる。


「タコばっかりかかることをそう呼ぶんだ。稀にあるんだよ。こんな感じでタコばっかりかかって魚が入らないことがな。前までタコは『デビルフィッシュ』って呼ばれるくらい嫌われていただろ? それにちなんでデビルブレイクと言われてたんだ」


「そうだったのですか! 知りませんでした!」


 本当に知らなかった。

 前世でも一部の国ではタコを「デビルフィッシュ」と呼んでいたので、まさかの偶然に驚く。


「昔はデビルブレイクといやぁ漁師にとって最悪の厄日だったが、今じゃ最高の大当たりだ! やったなぁ二人とも! おめでとさん!」


 役人を始め、皆が「おめでとう」と祝ってくれる。

 嘘をついていることの気まずさを押し殺して「ありがとうございます」と頭をペコペコ。


「全部で30匹。鮮度もいいしサイズも申し分ない。90万になるがいいか?」


 役人が尋ねてくる。

 私達は「もちろんです!」と頷いた。


「なんだ嬢ちゃんら、今日が初めてだったのかい。デビルブレイクを当てたのに初顔とはついてねーなぁ。おっさん、前途有望な若いもんにサービスして1匹5万で買ってやれよ!」


「そうはいかんよ。子爵様にバレたら俺の首が飛んじまう」


「それもそうだなー、がはは!」


 漁師と役人が親しげな様子で話す。

 どうやらここの役人はダシエほど腐っていないようだ。


「これが90万の小切手だ。あとは嬢ちゃんか(あん)ちゃんの名前と指紋をペタリとやってくれりゃ完了だよ」


「私がやります!」


 手続きを済ませて小切手を受け取る。

 それを銀行に持っていき、90万ゴールドを受け取って取引完了だ。


「やったー!」


 銀行を出た私は両手を上げて叫んだ。

 アーサーも「うおおお!」と歓喜の叫びを轟かせる。


「雑貨屋の時とは比べものにならない稼ぎだな!」


「タコさんは供給不足だからねー! お祭り状態よ!」


 大興奮の私達は銀行の前で「いえーい」とハイタッチ。


「これからが勝負よ、アーサー」


「分かっている! 漁具を量産して荒稼ぎしないとな!」


「その通り! でもその前に贅沢しましょ! 高級レストランでお昼ご飯よ!」


「おー!」


 この日の私達は夜までハイテンションだった。


 ◇


 その後も私達は連日に渡ってタコを売りまくった。

 蛸壺の数は30、60、90と日を追うごとに増えていき、収入もそれに比例して上がった。

 1週間もすると、1日当たりの収入は数百万ゴールドに達していた。


 そうなると周囲の反応も変わってくる。

 漁師や役人は、私達に対する評価を「デビルブレイクを引き当てた幸運なヒヨッコ」から「謎の技術でタコを乱獲する新進気鋭の漁師」に改めた。


 そして、ある日の朝。

 懸念していた問題の一つが発生した。


「後ろの船、明らかに私達を追ってきているわね」


 何人かの漁師が、自らの漁をほっぽり出して私らを尾行し始めたのだ。

 タコ漁の方法を知る為だろう。

 いよいよ同業者が動き出したか、というのが私達の感想だった。


「どうするんだ? 漁を中止するか?」


「いいえ、気にしないで続けるわ。今が稼ぎ時なんだから」


 アーサーが必死にオールを漕ぐ。

 いつもよりスピードが出ているのは、後ろの船をちぎりたいからだろう。

 もっとも、それはどうやっても不可能だった。

 こちらの推進力は手漕ぎのオールだが、相手は魔石で動くスクリューだ。

 その気になればこちらの数倍・数十倍の速度で動ける。


「やっぱり特許を取ったほうがいいんじゃないか?」


 アーサーが言う。


「何の特許? 蛸壺漁法?」


「そうだ。特許があればあいつらも真似できないだろう」


「前にも話したけど、それは愚策よ。今、蛸壺漁は一攫千金のネタなの。そんなネタで特許を取っても、貴族が難癖付けて奪うのが目に見えているわ。腐ったこの国で特許を申請するなんてのは、技術を無償で公開するに等しいのよ」


「でも……」


 焦燥感を漂わせるアーサー。

 私は優しく微笑みかけた。


「そんなにヤキモキしなくても大丈夫よ。仮に後ろの連中が私達の模倣をするにしても、今日・明日でどうにかなるもんじゃないから。どれだけ連中がスピーディーに動いたとしても、あと1週間は私らの独占が続く。だからその間にがっつり稼ぎましょ。その後のことはその時になってから考えればいいわ」


 私達は既にたんまり稼いでいる。

 最初に「このくらい稼ぎたいね」と決めた額は優に上回っていた。

 だから、今すぐにこの漁を放棄したって問題ない。

 そういうこともあり、私はアーサーほど気にしていなかった。


「そうだ、お金と言えば……」


「ストップ。先に作業を済ませるわよ。着いたわ」


「承知した」


 100万で買った魔石式ローラ-で蛸壺を高速回収。

 アーサーと手分けして壺からタコを出し、生け簀に放り込んでいく。

 漁を始めて1週間と数日だが既に慣れたものだ。


「さ、次のポイントに行くわよー」


「おう!」


 蛸壺を海に戻したら次の移動再開。

 早朝の海を駆け回り、私達は蛸壺の回収に明け暮れた。


 ◇


「そういえば、さっき何を言おうとしていたの?」


 小切手の換金が終わり、銀行を出たところでアーサーに尋ねた。


「お金を使っていくほうがいいんじゃないか」


「それは名案ね」


 今、私達のお金は銀行が管理している。

 この国の銀行は国営のものしかない為、そこに全額預金だ。

 つまり、私達の全財産は腐敗した国が握っているということ。

 生殺与奪の権利を国に与えているようなもので安心できない。


「アーサーは何か欲しい物とかある?」


「馬が欲しい」


 即答だった。


「馬? あなた、馬に乗れるの?」


「乗れるもなにも俺は馬術の達人だぞ」


「そういえば、ルータウンに国の人をぞろぞろ連れてきた時も馬に乗っていたわね。えらく美しい白馬に」


「うむ」


「じゃ、今から馬屋に行って馬を購入しましょ。私も自分の馬が欲しいし、2頭まとめ買いね」


「クリス、君は馬術の腕もあるのか」


「ふふ、こう見えてなかなか達者よ」


「では愛馬が手に入ったら馬術対決をしよう」


「よほど自信があるのね――っと、ダメだ」


「む? 馬術対決と聞いて怖じ気づいたか?」


「ううん、それはないけど、馬の前に買う物があった」


「なんだ?」


「馬小屋のある大きな家よ。せっかくの愛馬なんだから自分達で世話をしたいでしょ? 乗る時だけ馬屋へ取りに行くのではなくて」


「たしかに。だが馬小屋がある程の家となれば高いぞ。数千万はするはずだ」


「なら賃貸ね。月100万くらいで借りられるでしょ?」


「だな」


 少し前までなら月100万なんて支払えるはずもない額だった。

 100万が端金のように感じるとは、私達の金銭感覚も狂ったものだ。


 ◇


 不動産屋に行き、二人で使うには大きすぎる館を借りた。

 家賃は土地も含めて月120万。

 想定より僅かにオーバーしたが問題ない。


「何気にこれが私達の初めての家なんだよね」


「ついにクリスと同棲か……! 胸が熱くなるな!」


「お馬さんの為なんだけどね」


 家の調達が済んだので馬屋にやってきた。

 馬商人に案内してもらい、販売用の馬を確認する。


「なかなかいい馬が揃っているじゃないの」


「なかなかいい馬が揃っているじゃないか」


 私とアーサーの言葉が被った。


「馬術に自信があるというだけあり、馬を見る目はたしかなようね」


「クリスこそ!」


 販売用の馬は6頭いて、私達はそれぞれ気に入った馬を選択。

 私が選んだのは鹿()()の牡馬で、体躯が大きくてしっかりしている。

 アーサーは漆黒の如き青毛の馬を選んだ。こちらも牡だ。


「購入した馬で馬術コーナーを体験することは可能ですか?」


「もちろん可能です。されていきますか?」


「はい! 勝負ね、アーサー」


「負けないぞ!」


 こうして、アーサーとの馬術対決が始まった。


 馬術といっても、競技種目は色々ある。

 障害物をより速くより正確に飛ぶ〈障害馬術〉や、走りながら的に矢を射る〈()(ぶさ)()〉などが有名だ。


 今回は全ての競技で勝負することにした。


「クリス、この対決に俺が勝ったら俺と結婚してくれ」


 久しぶりのプロポーズだ。


「いいよ」


 私は即答する。


「これは燃えてきた! 絶対に負けられない!」


 そして、勝負が始まった。

 先攻はアーサー。


「行くぞ! おりゃー! そいや! せいやぁ!」


 アーサーが愛馬で障害物を飛び越えていく。

 馬術の達人と豪語するだけあり、その腕前は相当なものだった。


「これは……思っていたよりも手強いわね……」


「まだまだこんなものじゃないぞ!」


 続く流鏑馬でも素晴らしい成績を叩き出すアーサー。

 その後も危なげなく進めていき、全ての競技が終わった。


「さぁクリス、君の番だ! とはいっても、これはもう抜きようがないと思うがな!」


 アーサーは勝利を確信して浮かれている。

 そんな中、私は自らの馬に騎乗し、手綱を握った。


「始めるわよ」


「いつでもいいぞ!」


 深呼吸をして集中力を高めてから馬を走らせる。


「やーっ! どりゃあ! いっけぇー!」


 そして――。


「全ての競技で私の勝ちね、アーサー」


「そんな……ありえない……」


 どれも僅差ではあったものの、私の完勝だった。

 アーサーは信じられないといった様子で崩れ落ちる。


「私との結婚はまだまだ先のようね」


「うぅ……ついに結婚できると思ったのに……」


 おーほっほと高笑いの私と、絶望に打ちひしがれるアーサー。

 果たして私達が結婚できる日は訪れるのだろうか。

 それより先に愛想を尽かされそうだなぁ、と思う私であった。

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