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017 私は君が欲しいのだよ

 アーサーのイケメンパワーもあり、開店日以降も店は繁盛した。

 どのくらい繁盛しているかというと、1ヶ月の目標収益を僅か2営業日で突破した程だ。

 最高のスタートを切れたと言っても過言ではない。


 客の比率は今でも女性客が圧倒的に多い。

 ただ、収益に大きく貢献しているのは男性客だ。


 女性客の多くはアーサーと話すのが目的だから客単価が安い。

 買うとしても小物を1品のみで、回転率も悪くて収益面では微妙なのが本音。

 中には商品が目的の人もいるけれど、そんな女性はかなりの少数派だ。


 一方、男性客の目当ては商品に特化している。

 ありもしない私の美貌には目もくれず、入店即購入&退散が多い。

 客単価・回転率共に高い。


 男性客にウケているのは竹製の商品だ。

 特に蓋付きの水筒と大きめのバスケットが好評を博している。


 補充する度にこれらを買うのは行商人だ。

 聞いた話によると、行商人のコミュニティで情報が広がっているそうだ。

 軽い・丈夫・使いやすいの三点が揃っていて、しかも安いと評判がいい。


 私達からしても、大型バスケットが売れるのはありがたかった。

 なにせバスケットは1つ3000ゴールドもする。

 ウチの商品の中では高価格帯に位置しており、利益率も高い。


 おかげで私達の懐事情もホクホクしていた。

 開店には諸々込みで80万ほど費やしたが、このペースなら数ヶ月で回収できそうだ。


「クリス、商品棚はこんな感じでいいか?」


「うん、ばっちりだよ!」


 朝、私達はいつもと変わらぬ調子で営業の準備を進めていた。


「アーサー、気づいてる? 今日で店を始めてちょうど1ヶ月よ」


「もうそんなに経つのか! 忙しくて気づかなかったな!」


「ま、1ヶ月だからって特に何かあるわけじゃないけどね」


「ははは、クリスらしいな」


 私は箒で店内を掃き、チラリと外に目を向ける。

 かなり減ったとはいえ、まだまだ女性客は健在だ。

 今でも営業が始まる前から並んでいるアーサーのファンがちらほら。


「1ヶ月も経つと客足も落ち着いてきたよな」


「女性客が日に日に減っているからね」


「レディ達も俺に飽きてきたようだ」


 私は小さく笑う。


「それはあなたの接客態度が最悪だからよ」


「冗談だろ? 俺は丁寧さを心がけているはずだが……」


「たしかに対応自体は丁寧なんだけど……いや、気にしないで」


「むむっ?」


 首を傾げるアーサー。

 私は笑うだけでそれ以上のことは言わなかった。


 自分で言う通りアーサーの対応は丁寧だ。

 女性客の長話に嫌な顔をすることなく応じている。

 ただ、誘われた際の断り方が下手だった。


 女性客はしばしば、アーサーを食事やデートに誘う。

 慣れている人間なら「機会があれば」などと濁すだろう。

 しかし、アーサーは違っていた。


「すまないが、俺には愛する女性がいる。そこにいるクリスだ。だから君の誘いを受けることはできない」


 とまぁこんな感じでぶった切る。

 脈がない上に意中の相手がいるとなれば、大半の女性は諦めてしまう。

 稀に「クリスより私の方がいい!」と粘る女性もいるけれど、最終的には「クリスのどこがいいのよ! 見る目のない男!」とプンスカして消える。

 結果、今でも残っているのは、アーサーをアイドルとして見ているファンが大半だった。


「アーサー、準備はできた?」


「おう、いつでもいいぞ」


 私は頷き、「準備中」の立て札を横にスライドさせる。


「雑貨屋リュミエール、営業開始です!」


「「「アーサー様ぁ!」」」


 女性客が雪崩れ込み、私は吹き飛ばされる。

 この流れも1ヶ月続けば慣れたものだ。


 きっと次の営業日でも私は吹っ飛ばされるのだろう。

 その次も、またその次も……。

 ビスネル王国に帰るその日まで、こんな日々を送り続ける。

 ――はずだった。


 ◇


 夜になり、本日の営業が終わった。


「いやぁ見事に()けたね! 商品棚がすっからかん!」


「こりゃ明日から数日は商品作りで忙しいぞ!」


 掃除などの締め作業をしながら、今日は何を食べようかと話す私達。


「1ヶ月記念にちょっと贅沢しちゃう?」


 ウキウキでそんな話をしている時だった。


「やぁやぁお二人さん」


 ふくよかな体型の中年男性が店に入ってきた。


「すみません、本日の営業は終了しちゃいました!」


「ああ、私は客じゃないよ」


 男は店内を歩き回り、それから私に言った。


「この店、無許可営業だよね?」


「えっ」


「私の名はゴードン。ダシエの商業課で課長をしている者で、ここのような無許可営業を取り締まっている」


 ついに来たか。

 この展開は馴染みのバーでも聞いていたので予想できていた。


「無許可だなんて酷いな。俺達は許可を取りに行っただろ。申請書がないから勝手に営業しろと言ったのはそっちじゃないか!」


 ゴードンに食ってかかるアーサー。

 私は慌てて止めに入った。


「アーサー、黙っていなさい。私が対応するわ」


「わ、分かった……」


 ゴードンはニヤニヤしながら私達のやり取りを見ている。

 その目を無視して、私はカウンターに行って麻袋を取り出した。


「ゴードン様、こちらで見逃していただけないでしょうか?」


「これは?」


「この街で商売させていただく為の謝礼金になります」


 要するに賄賂だ。

 腐敗した国で商売をするには必須の常套手段。

 馴染みのバーもみかじめ料を収めていると言っていた。

 麻袋に包んでいる額も、バーのマスターから聞いた相場だ。


「こんな小さな店から端金を受け取っても仕方がない」


 ゴードンは袋の中を軽く確認すると、私に突き返してきた。


「だったら、どうすれば見逃していただけますか?」


「そうだなぁ」


 ゴードンは舌なめずりをすると、私の腰に手を回してきた。


「君が私のことを気持ちよくしてくれれば目を瞑ろう」


「「なっ……!?」」


 驚愕する私とアーサー。

 なんとこの男、私に性的な奉仕を要求してきた。


「その朱色の髪に気の強そうな顔、実に私の好みだ」


 ゴードンが私の髪に触れてくる。

 あまりの気持ち悪さに吐きそうだ。


「やめてください!」


 ゴードンの手を振り払い、麻袋に包むお金を増額する。


「相場の倍支払いますので、どうかこれで手を打ってください」


「いいや、断る。この店から賄賂は受け取らない。私は君が欲しいのだよ」


「そんな……」


 ゴードンはニヤニヤしながら距離を詰めてきて、私の顎を指で摘まみ上げた。


「どうする? 決めるのは君だ。そこの青年とこの店を守るか、それとも我が身可愛さに全てを捨てるか」


「それは……」


 すぐには答えられなかった。

 ここが私だけの店なら迷うことなく捨てている。

 ゴードンに鉄拳をお見舞いしていただろう。


 しかし、ここは私とアーサーの店だ。

 二人で必死に切り盛りしてきた大切なお店。

 おいそれと捨てることはできなかった。


「じゃあ、せめて……彼が見ていないところで……」


 私は覚悟を決めた。

 自らを犠牲にし、この男に性的な奉仕をし、お店とアーサーを守る。

 悔しさのあまり涙がこぼれるけれど、他に選択肢はなかった。


「賢い子だ。それでは行こうか」


 ゴードンが私に腰に手を回して店の外に向かう。

 ――その時だった。


「待て」


 扉の前に一人の男が立ちはだかった。

 アーサーだ。


「君、そこをどきなさ――」


 アーサーはゴードンの顔面を殴った。


「ブヘボッ!」


 ゴードンは吹き飛び、派手に転んだ。


「アーサー!」


 反射的に名を呼び、そして彼の顔を見て固まった。

 今までに見たことのない鬼のような形相をしていたのだ。


「貴様、よくもクリスを泣かしたな!」


 アーサーは、本気で怒っていた。

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