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015 オスのライオンを作ろうとしたらこうなった

「三味唐辛子!? そんなの聞いたことないぞ!」


 驚くアーサー。

 無理もないことで、この世界に三味唐辛子なんて商品はない。

 この世界で唐辛子と言えば一味か七味――前世の世界と同じだ。


「唐辛子は一味か七味ばっかりだもんね。だからこその三味よ!」


 焚き火の炎で小鍋を熱したら調合開始だ。


「三味唐辛子の作り方ってね、基本的には粉からしと同じなの」


「ほう」


「まずは材料を綺麗にするんだけど、それは戻る前に済ませておいたわ」


 この近くにある小川で洗っておいた。


「次にこれらを細かくカットしたら、焙煎して水分を飛ばす」


 焙煎の方法自体は簡単だ。

 鍋に蓋をして炎の上で適当に振ればいい。

 ただし……。


「上手く焙煎するには技術が必要よ。アーサーは私の粉からしを絶賛していたけど、それはたぶん私の焙煎が良かったんだと思う」


「なるほど。焙煎のコツは?」


「特にないかなぁ。私って感覚派だから、コツとかあんまり分からないんだよね。焙煎にしたって鍋を振った時の音とか感触? みたいなので何となく『このくらいかなぁ』って判断している感じだし」


 こうして焙煎が終わったら、後は粉末にして混ぜるだけだ。

 初日に買っておいたすり鉢を取り出し、それで材料をすり潰す。

 赤唐辛子の種が硬くて思うように砕けない。


「よし、種は捨てちゃおう!」


「捨ててもいいのか?」


「種はどっちでもいいんだよね。基本的には種も砕いて入れるものだけど、中には種を除外して作る人もいるわ」


 ということで、砕けなかった種は取り除いた。


「あとはこれを竹の筒に入れて……」


「完成だな!」


「まだよ」


 筒に蓋をしてシェイクする。

 唐辛子、ミカンの皮、大葉の粉末を混ぜる為だ。


「余談だけど、焙煎やら天日干しやらで乾燥させたミカンの皮は『陳皮(ちんぴ)』って呼ばれているの」


「ほう、知らなかった。陳皮は唐辛子以外に使い道あるのか?」


「色々あるわ。例えばサラダにかけるとか」


「サラダにミカンの皮をかけるのか!?」


「陳皮だけをかけるのではなくて、オリーブオイルの後にかけるの。そうすればミカンの風味が加わって爽やかな味わいになるよ。それに彩りもよくなる」


「おお! そう説明されると食べてみたくなったな!」


「いつか自炊するようになったら試しましょ」


「おう!」


「さて、混ぜるのはこのくらいでいいわね」


 筒の中を確認して、材料がしっかり混ざったのを確認。


「これで完成よ。こぼさないよう気をつけて瓶に移していきましょ」


 アーサーの籠から小瓶を取り出す。

 親指の第一関節程度の本当に小さい瓶で、コルクの蓋が付いている。

 これは私達が他所で買った唯一の物で、価格は1つ30ゴールド。


「アーサー、次の瓶を――あ、いや、これで終わりね」


「1回の調合で瓶4個分か」


「鍋が小さいからそれが限界みたいね」


 空き瓶の数は残り8個。

 なので追加の調合を2度行い、同じ要領で瓶詰めを進めた。


「コルクの蓋をキュキュっと付けまして……はい、おしまい!」


 全ての瓶がいっぱいになり、記念すべき一つ目の商品ができた。


「この三味唐辛子、いくらで売る予定なんだ?」


「1個300ゴールドかな」


「そんなに安くていいのか!?」


「むしろ高いでしょ。料理数回分なんだから」


「そういうものなのか……。ま、1個300ゴールドでも全部売れたら3600ゴールドなわけだし、悪い稼ぎではないな!」


「残念、全部で3000ゴールドよ」


「え? 瓶の数は12個あるが」


「2個は私とアーサーの分よ」


 瓶を二つ手に取り、一つを「はい」とアーサーに渡す。


「もらってもいいのか?」


「もちろん! 一緒に作ったんだから!」


「うおおおお! クリスからのプレゼントだだぁああ!」


 アーサーは両手で小瓶を掲げて大喜び。

 唐辛子にここまで喜ぶ人間も珍しい。

 私は「大袈裟だよ」と笑った。


「大袈裟なものか! 家宝にさせてもらう!」


「いや、使ってね? あと服が乾いたから着てね?」


「勿体なくて使えん! 服の着方も分からない!」


「服の着方は分かるでしょ!」


 干してある服を取り、アーサーに渡した。


「あ、そうだ、売る前に味見しておかないとね」


 私は自分用の瓶を開けて、三味唐辛子を手のひらにかけた。

 それをチロリと舐めてみる。


「うん、完璧! やっぱり三味唐辛子が一番!」


「クリス! 俺も! 俺も舐めたい!」


「いいわよ。手を出してちょうだい」


「え、クリスの手にかけたものを舐めるんじゃ……」


「変態か!」


 アーサーの左手首を掴み、グイッとこちらに引っ張る。

 手のひらを上に向けて、そこへ三味唐辛子を振りかけた。


「はい、どうぞ」


「おう!」


 アーサーは大喜びで三味唐辛子を舐め、「うおおお!」と叫んだ。


「素晴らしい! 絶品だなこれは! 程よい辛味に陳皮のまろやかさが加わり、青紫蘇が風味を豊かにしている! 実に素晴らしい!」


 舌の肥えているであろうビスネル王国の王子も太鼓判を押した。

 平民の私と王子のアーサーが絶賛しているのだから、幅広い支持を得られるだろう。


「味も見た目も問題なし! 商品として十分に通用するわ」


 改めて三味唐辛子を商品に認定した。


「小さい商品を作ったわけだし、次は大きな商品ね」


「大きさはバラバラのほうがいいのか?」


「いいかは分からないけど、私はバラバラのほうが好き。雑貨屋って色々な物が売っている場所なわけだし、大きさも色々あるほうが見ていて楽しいかなって」


「クリスはよく考えているなぁ」


「そんなことないよ。自分が客ならどんな店がいいかって考えているだけ」


「客の目線に立つというやつだな」


「いい感じに言えばそんなところね」


「では戻って大きな商品を作るとしよう! 何を作るかはもう考えているのだろ?」


「もちろん! でも、戻りはしないわ」


「戻らないだと? ここで何か作れるというのか? 付近に竹があるわけでもないのに」


「たしかに竹はないけど――」


 私は地面を指してニヤリ。


「――土なら無限にあるからね」


「土だと?」


「そう、次に作るのは土器よ」


「土器だって!?」


 と驚いた後、アーサーは言った。


「土器ってなんだ?」


 ガクッと崩れる私。


「粘土を焼成して作る器のことよ。ルータウンにある私の雑貨屋でも売っていたでしょ?」


「言われてみればあった気がする。たしか札には花瓶と書かれていたはずだ」


「……凄まじい記憶力ね。たしかに花瓶として売っていたわ」


「あれが土器かぁ」


「そう、あれが土器。せっかくだから作っていきましょ」


「承知した!」


 ということで、私達は近くの小川に移動した。

 川辺に竹の籠を下ろして、アーサーに土器の説明をする。


「土器を作るのに必要なのは粘土のみ。粘土を任意の形に整えたら、焚き火で焼いて完成よ」


「簡単そうだが、粘土はどこにあるんだ?」


「まさに私達が今いる場所よ」


 道中で拾った木の棒を使い、足下の地面を掘る。

 掘ること1分程で良質な粘土が姿を現した。

 私は迷うことなくそれを左手ですくい、軽く握ってみる。


「水気が少ないけどいい感じね。アーサー、今回は初っ端から一緒に作業するわよ」


「見学しなくていいのか?」


「土器作りは習うより慣れろよ」


「分かった!」


 アーサーも私に続いて粘土をすくい取る。


「作業は平らな場所で行うといいよ、底が綺麗になるから」


「承知した!」


 大量の粘土を平らな石の上に置いて準備完了。


「基本は花瓶として売ることを想定しているけど、形状次第ではゴミ箱やら何やら適当に商品名を変えるから、細かいことは気にしないでいいよ。ただし、容器であることは忘れないでね?」


「おう!」


 そこからは無言になる。

 互いに粘土を伸ばして形を作るのに必死だ。


「言い忘れていたわ。ポイントだけど、側面は可能な限り凹凸のない綺麗なものにしてね。その方が職人ぽく見えるから」


「ぐっ……難しいな……!」


 口ぶりから察するに苦戦しているようだ。

 自分の作業に集中しているのでアーサーの様子は見えない。


「土器作りは簡単だけど、商品になるレベルのクオリティを出すのは難しいのよね。私も最初の頃は苦労したものよ」


 そんなこんなで、私は最初の花瓶を作り終えた。

 久しぶりに作ったからか出来映えに不満を感じる。

 側面の滑らかさが足りていない。


(こういう時は……)


 竹串を使い、側面に絵を描いていく。

 縄や貝殻などで模様をつける職人は多いが、絵を描く人は少ない。

 売れるかは分からないが、個性的であることは間違いない。


「これでよし!」


 あとは焚き火で焼くだけだ。


「私は終わったけど、そっちはどう――って、何それ!?」


「クリスの言った通り最初は苦労するものだな」


「いや、それは苦労というか……なんかもう、違うでしょ!」


 彼の作っている土器を見てぶったまげた。

 それは容器ではなくサーベルタイガーのシルエットをしていたのだ。

 これがまた驚く程の精巧さで、どう考えても狙ったとしか思えない。


「アーサー、あなた、わざとやったでしょ?」


「わざとなものか! 俺は必死に花瓶を作ろうとしてだな……!」


「どうして花瓶を作ろうとしてサーベルタイガーになるのよ!」


「そんなの俺に言われても分からん!」


「ほんと何から何まで教えないとできないんだか――あ、そうだ!」


「どうした?」


 名案を閃いた。


「アーサー、そのサーベルタイガーは既に質がいいから完成にして、新しく作りなさい。今度はあなたの好きなように作っていいわ」


「どういうことだ?」


「あなたの作った土器は容器として売りに出すことはできないけど、置物としてなら非常に出来がいいから売れるはず。なので私は容器を作り、あなたは置物を作ればいいのよ」


「なるほど! そういうことか! 天才的発想じゃないか!」


「伊達に雑貨屋を経営していないのよ!」


 なっはっは、と雑木林に高笑いを響かせる。


「とりあえず追加で1~2個作ったら焼成しましょ」


「おう!」


 掘った穴から粘土を調達し、新しい土器を作り始める私達。


「よしよし、今度は完璧ね」


 使い勝手のよさそうな花瓶が完成。

 模様や絵は描かず、代わりにそれっぽいサインを書く。

 こうすることで職人ぽさを演出する。


「クリスぅ……」


 自らの土器にニッコリしていると、アーサーの情けない声がした。


「そんな声を出さなくても大丈夫よ。あなたなら最高の置物を――って、なんじゃこりゃあ!」


 振り返った私は思わず叫んだ。


「ごめん……ライオンを作ろうとしたらこうなった……」


 そう言う彼が作ったのは、私よりも立派な花瓶だった。

 非の打ち所がない仕上がりだ。


「……あなた、やっぱりわざとやってるでしょ」


「だ、だからわざとじゃないって! 本当だ!」


 アーサーの性格上、嘘をつくとは思えない。

 本当に本気でライオンの形にしようとしたのだろう。

 で、結果として最高の花瓶になった。


「要望通りにできないのは問題だけど……ま、いいんじゃない? クオリティ的には文句ないわけだし、これでいきましょ!」


 四つの土器を焼成する。

 私達の商品に三つの花瓶とサーベルタイガーの置物が加わるのだった。

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