冒険者仲間から追放された幻術師は、異世界転移者と幸せな結婚生活を送る 〜円盤って何ですか!?〜
家紋 武範様主催『夢幻企画』に投稿しました、
『冒険者仲間から追放された幻術師は、異世界転移者に新たな可能性を見出される 〜え、エイガって何ですか!? 僕に何をしろって言うんですか!?〜』
のアフターストーリーです。
フォロウと夢美のラブラブ後日譚が見たい!という、リクエストという名の大義名分を頂いたので、喜び勇んで書きました!
甘々です。
お覚悟の上お楽しみください。
「フォロウ、円盤を売ろう」
「え?」
朝食の後に突然飛び出した夢美の言葉。
円盤? 売る? 何の事?
「円盤って、丸くて平べったい板とか石とかの事、だよね?」
「あー、そうなんだけどそうじゃなくて、私のいた世界だと、映画を記録しておく丸くて薄い、うーん、板があって、それの売上が大きな商売になるのよ」
「な、なる、ほど?」
あまりに馴染んでいるので忘れそうになるけど、夢美は異世界『ニホン』から来た人なんだよなぁ。
僕の幻術を使って、異世界の文化『映画』を広めた時もそうだけど、こういう思いもしない発想を聞かされた時に、改めて思い出す。
「前にヤーサさんの頼みで監獄に慰問に行ったじゃない?」
「うん。凄い反響だったよね」
街の顔役であるヤーサ・グレさんの頼みで、王都の監獄に映画を上映しに行ったのは半月前の事。
娯楽に飢えていたのか、凶悪な顔をした男の人達が、主人公が決死の覚悟で大怪獣に飛び込んで行く場面で号泣していたのは衝撃的だったな。
「あーいう所で娯楽を提供するとさ、再犯の抑制に繋がるんだって」
「……あぁ、そうかも……」
例えば態度次第で娯楽が得られるとなれば真面目にする人も増えるだろうし、監獄を出てからの生活の目標になるかも知れない。
「で、円盤よ」
「そこがよくわからないんだけど……」
「魔法を一時的に溜めておける道具ってあるじゃない?」
「うん、魔封石だね。……あ、そこに映画の幻術を入れて……?」
「そう! それを使えば私達が行けない遠くでも上映できるし、商売の幅も広がると思うんだよね」
「成程……」
映画一回分の幻術を入れるなら、一番小さい魔封石で良いはずだから、ヤーサさんに頼めばまとまった数を仕入れてくれるはずだ。
「じゃあやってみようか」
「ありがとフォロウ! 頑張ろうね!」
僕達はこの後、自分達の目論見の甘さに悲鳴を上げる事になった……。
「フォロウ、できた!?」
「う、うん。これ『人類対大怪獣』の魔封石百個」
箱を渡すと、夢美は安心と喜びの笑みを浮かべた。
頑張って良かった。
「サンキュー! じゃあ早速ヤーサさんの所に納品行ってくるね!」
「その必要はない」
「ダイガシーさん!?」
低く重い声に視線を夢美の幸せな顔から外すと、ヤーサさんの右腕であるダイガシーさんが箱を持って立っていた。
え、あの、それってもしかして……?
「追加注文だ。『竜の子と少年』百個と『ドタバタ冒険者珍道中』百個。いけるか?」
「えー!? また!?」
夢美が悲鳴に近い声を上げる。
ここ一月こんな感じで仕事が絶えない。
夢美も最初は、
「きゃー! また注文が入った! 嬉しい悲鳴が止まらないわー!」
と喜んでいたけど、最近では仕事が入っても全然嬉しそうじゃない。
「これ、いつまでですか?」
「明後日までに欲しいと言われている」
一日百個か。それなら全然大丈夫そうだ。
僕は幻術との相性がとても良いので、魔力の消費も少ないし、作った幻術をいくつでも頭の中に保存しておく事ができる。
だから今まで幻術で作った映画を魔封石に込めるだけなら、二、三十文字の言葉を書き写す位の手間と時間でできる。
「分かりました。明後日までですね」
「……フォロウ、無理しないで……」
不安そうな夢美の声。
魔法が使えない夢美には、僕の負担がどれ位か分からないから、新しい仕事が入るたびにこんな顔になる。
映画入り魔封石が売れ始めた当初は嬉しそうだった夢美が、最近では僕を気遣って仕事を減らそうとしてくれている。
何とか安心してほしいんだけど……。
「大丈夫。魔法を込めるだけだから」
「……ごめんね、私、何の役にも立てなくて……」
ダメだ、大丈夫って言っても気を遣って言ってると思われてる……。
「そんな事ないよ! 納品とか家の仕事とか全部やってくれてるし、これだけ映画が色々な人に観てもらえているのも嬉しくてやり甲斐あるから!」
「……ありがと……。じゃあ私にしてほしい事があったら何でも言って!」
今のままで十分なんだけど、きっとそれじゃ夢美は納得しないだろうなぁ。
……恥ずかしいけど、言ってみよう!
「じゃあ……」
「何? 何でもするよ!」
「えっと……、どこかで幻術の本が売ってたら、買ってほしいな、って……」
「分かった! 買い物に行った時に本屋寄るね!」
違う! いや本がほしいのも本当だけど、照れて誤魔化しちゃダメだ!
ちゃんと言おう! 夫婦なんだから!
「あ、あと、夢美が、キ、キスして、くれたら、元気出る! 頑張れる!」
「ばっ……!」
真っ赤になってうつむく夢美。
多分僕も真っ赤だと思う。
でも本当なんだ。
別にキスじゃなくても、夢美が側にいてくれるだけで、僕は何だって乗り越えられる気がするんだから!
「……やだ」
「え……」
な、何で……?
ちょ、調子に乗り過ぎちゃった……!?
「……キスだけじゃ、やだ……」
う。
うわあああぁぁぁ!
真っ赤な顔して上目遣いでそんな事言われたら!
仕事なんかほっぽり出して今すぐ抱きしめたい!
「……あー、その仕事、期限一日延ばすよう依頼者に言っておくから、その、夫婦仲良くな」
あ。
ダイガシーさんがいるの忘れてたあああぁぁぁ!
「えっと、いや、その……!」
「じゃあな」
いつも堂々としていて悠々と歩くダイガシーさんが、小走りで出て行った。
……どうしよう。凄く恥ずかしい所を見られちゃった……。
「ね、フォロウ……」
夢美が僕の袖を引く。
潤んだ目が僕の心臓を射抜いた
仕事とか恥とか、頭で考える全てが価値を失う。
ただ心が求めるままに、僕は夢美と唇を重ねた……。
読了ありがとうございます。
前作の後書きにネタを書き出していたので、思いの外あっさりと書けました。
……読後感はこってりですけど……。
え? この数分後を書けと?
そのリクエストには答えられませんねぇ。
……運営様に警告食らうのはもうこりごりなんですよぉ!
という訳でその後は皆様の脳内でお楽しみくださいませ。
やっぱりこの二人、書くの楽しいですね!
また機会があれば、未消化のエピソードも書きたいと思います。
その時には、またお付き合い頂けましたら幸いです。