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九十九話 サモナイト軍

「おわっ、た、高い」


 船のへりにしがみついて騎士が言う。


「わ~、木、ちっちゃい」


 いっぽう女の子はへいきな顔で、はなれていく岩や木をみつめている。


「ちょっと、そんな身をのりだしたらあぶないわよ」


 ルディーのことばも耳に入っていないご様子。女の子はいまにも落っこちてしまいそうなぐらいのいきおいだ。

 まあ、すぐしたにはレイスがいる。たとえ落ちたところでやさしく受け止めてくれるだろう。


 今は空飛ぶ船のうえだ。

 街へとむけ発進したところ。

 しょうじき、彼らを船にのせるには抵抗があった。

 だが、トビラをくぐらせるよりマシだと判断したのだ。


 農場にはぜったい入れたくない。馬車では間に合うかどうかわからない。

 となると必然的に船にのせるしかないわけで。


 ちなみに馬車と馬は農場にもっていった。

 彼らがのってきた馬も。


 というのも、どうやら彼らがのってきた馬は脚が折れていたようだった。

 放置すれば死はかくじつ。

 なにせ馬というのは歩いていないと全身に血がいきわたらないのだ。

 

 血がいきわたらなければ内臓が壊死する。

 壊死した内臓は馬を死にいたらしめる。

 たかが骨折。されど骨折。

 馬にとっては、骨折イコール死なのだ。


 回復魔法でもつかわないかぎり、苦しまぬようトドメをさすぐらいしかない。

 ――でも、それはイヤだった。

 できそうなことをやっておきたい。

 というわけで妖精の粉をパラりんちょ。添え木をし、脚全体をドライアドのイバラでがっちりと固定した。

 これでいけるだろうか?


「ブヒヒヒヒン」


 すると、馬はたどたどしいながらも歩いてみせた。

 こころなしか笑っているように思える。


 さすが俺、われながらナイスアイデアだった。

 イバラでの固定は強度もさることながら伸縮性もかねそなえていて、馬の体重をじゅうぶんにささえることができたのだ。

 土魔法で固めてしまえばこうはいかなかったろう。

 

 そんなかんじで準備をすすめたあと、ふたたびもどってきて騎士と女の子を船にのせたのだ。

 これで悪魔が襲撃している街までひとっとびでいく。



「しょ、商人どの。この船はいったい……」


 するとそこで騎士が話しかけてきた。

 高さになれてきたのだろう。正気にかえり疑問に思ったようだ。

 チッ、そのまま呆けておればよいものを。


「ああ、魔力でうかぶ船です。わたしの故郷ではよくつかわれるものです」


 しれっとウソをつく。

 こんなもんが飛びかっててたまるかって話だが、それはそれ、これはこれ。

 さも当然のように言いきっておく。

 どうせ地盤がかくほできれば馬車だけでなく船も順次投入していくんだ。そのうち嫌でも目にするようになる。

 なっとくするのが後か先かだけで、たいした違いなどない。


「こんなおおきなものをいったいどこから? それに馬たちはいずこへ?」


 またまた騎士がたずねてきた。

 ムダに食い下がるなこいつ。


「騎士様。わたしは商人です。商品のでどころはあかせません。ほかの顧客の情報もです。ただ、よい品をとどけるのみです」

「いや、そういう意味では……」


 わかっとるわ。あえて話をそらしとるんじゃい。

 さっしろ。


「それよりもわたしは襲われた街の方が気になります。どのような者がどのていどの数、攻めてきたのでしょうか?」

「おお! そうでした」


 おおきくうなずいた騎士は、あわただしく悪魔について話すのだった。




――――――



 なるほど。

 やはり攻めてきたの悪魔の軍団だったようだ。

 騎士から聞くその外見は、おとぎばなしにでてくる悪魔そのもの。

 ヤギのあたまをした四本腕のおとこ。胴体がヘビのおんな。

 おおきなカマをもったガイコツ。しっぽがヘビになったオオカミなどこれまで目にしたことのないものばかり。

 未発見の魔物? それはまずない。これだけ多種多様のものたちがおなじ目標にむけ足並みをそろえるなどありえないからだ。


 悪魔の数はおよそ五百。たいする街の戦力も五百はくだらないが、その内訳はしょうしょう厳しい。

 兵士200、冒険者150、のこりは街人といったところだ。そこにパラライカの援軍がくわわる。

 個々の戦闘力もだいぶちがうだろう。街がおちるのは時間の問題に思えた。


「指揮をしている者はいましたか?」


 さらに、統率者の問題もある。

 オロバスより上位がいれば作戦をねりなおさねばならない。

 まともに戦ってはこちらの身があぶないからだ。

 そのときはさいあく街をみすてて門をめざすことも考えなきゃいけないだろう。

 おれにとって大切なのはセラシア村と精霊たちなのだから。


「指揮ですか? いえ、街をとりかこみつつ思い思いに攻めてくる感じですね。誰かが率いているようには思えませんでした」


 ふ~ん。

 統率者らしきものはみあたらないか。

 街をひとつ落としたところで油断したんだろうか?

 ダンダリオンとオロバスはあそびにはしり、のこりの悪魔どもは恐怖をあおるために取り囲む。

 そんなところか。

 まあ、思い込みはきんもつだが、なんとかなりそうだな。


 じゃあいくとしますか。

 わが軍。大将オレ、軍師オレ、特攻隊長レイス、一番槍オレ、あと詰めにリザードマンだ。

 ほとんどオレだ。

 なんてこった。数の割には層がうすい。


 まあ、しかたがない。

 今回の戦いに精霊は参加させられない。

 この戦いは、この世界と悪魔どもの戦いなのだ。農場で平和にくらしていたものたちを危険にさらしたくない。

 いざとなったら「よろチクビ」つって、しれっと召喚するが、ギリギリまで頼らずにおこう。

 いまさらって感じだけどな。

 

 むろんウンディーネはべつだ。悪魔に対抗することこそ彼女ののぞみなのだから。

 あとルディーも。

「巻き込むことはできない、あんぜんなところで待ってろ」とか言ったら絶対に怒り狂うだろうしな。


 一緒にいてくれって目で訴えるだけで大丈夫だ。

 うん、そうにちがいない。


 ではサモナイト軍、いざまいる!!



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― 新着の感想 ―
[気になる点] …騎士は礼儀を知らんな!恩人が詮索されたく無いのに食い下がるとは!(怒)…主人公よ!言いたくないと、通して良いと思うよ!…オイラならそうする!…それで騎士が食い下がるなら、礼儀知らずと…
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