九十八話 負けず嫌いのルディー
「あれはみえる?」
「ええ」
少女への質問タイムがはじまった。
どうやらさいしょはボンヤリだが、慣れるにつれ輪郭がはっきりしてくるようだ。
ウンディーネのすがたも、教えられればじょじょにみえる。ノームも召喚して確かめたが、やはり同じ。
ただ、レイスはみえないようだ。
なんとなく気配はかんじているようだが、目で追うこともおどろくこともなかった。
う~ん、俺とはちょっとちがうな。
精霊召喚士のそしつがあるってことなんだろうけど、まだまだちからが弱いんだろうな。
これからに期待だな。
しかし、レイスがみえなくてよかったかもしれん。
マントを着たガイコツとか気絶しかねんからな。
ちなみに騎士にはみえていない。
というか、彼はいま横でガックリうなだれている。
どうもオーデルンの街をめざしていたみたいで、廃墟になってますと答えると、しょんぼりしてしまったのだ。
住んでた街が襲撃されたんだって?
避難と助けのアテがはずれちゃったんだよね。
そら、そうなりますわな。
かわいそうに。
少女のほうはというと、まだピンときていないようだ。
意味がわからないほど幼くはないが、いまは精霊たちのことであたまがいっぱいなのだろう。
これじっさい廃墟をみたときヤベーかもな。
「ねえ、マスター。どうするの?」
ルディーが小声で問いかけてくる。
う~ん、どうすっかな。
かれらのことはとりあえずおいておいて、問題は俺たちはどう動くかだ。
悪魔が街を襲撃中ってんなら、えらぶべき方針はおおまかにふたつ。
駆除すべく急いでむかうか、もどってパラライカのまもりを固めるかだ。
しかし、どうだろうな。
駆除っつても、たいぐんの中にダンダリオンクラスが混じってると俺がいっても勝てるかどうか怪しい。
かといってパラライカのまもりを固めても、根本的なかいけつにならない。
なにせウンディーネの話だと、悪魔どもはたおしても魔界でふっかつする。
永遠に終わらないのだ。こちらが一方的に消耗するだけ。
この世界へこれないように門を破壊するしかないのだ。
ってことはだ。
街をみすてて門をめざすのがいちばん合理的だな。
街はほろびるが、世界はたすかる。
それがいちばん勝率がたかそうだ。
「商人どの」
あれやこれやと考えていると騎士に話しかけられた。
「なんでしょう?」
「やはり、馬をゆずっていただけないだろうか?」
それはかまわんが代金はどうするんだい?
さすがにあの髪飾りはうけとれんぞ。証文のほうがマシだ。
ルディーの言うように子供から金品をまきあげる悪徳商人だと後ろ指をさされたくない。
騎士はさらにつづける。
「いずれ妥当な金額をおわたしします。それまで髪飾りをあずかっておいていただければと」
へえ~、なるほど。髪飾りは借金のカタってことか。
なんらかの事情で妥当な金額ってやつがうけとれなければ髪飾りをすきにしてくださいってこったな。
でもそっちはいいのか? 金をようしたところで髪飾りが返ってくる保証なんてないだろうに。
髪飾りの価値がたかければたかいほど持ち逃げされる可能性はたかくなる。
まあ、そこは信用するってことか。背に腹はかえられんだろうし……
――いや、まてよ。
女の子と一芝居うって、安物の髪飾りをおしつけようとしている可能性もあるな。
……やっぱ、ないか。
こんな荒野で待ちかまえてまでやるようなこっちゃない。
ただのお人よしか。じゃあ助けないワケにはいかないな。
「事情が事情です。どのような形でも馬をおゆずりします。ですが、あなたたちはこれからどこへ? ほかに行くあてはあるのですか?」
「パラライカの領主にかけあってみます。さらなる援軍をたのんでみます」
いやいや。ムリっしょ。
パラライカまでここから何日かかると思ってるのよ。
帰ってきたころには街はガレキにうもれとるわ。
それに援軍なんてだせないと思うよ。パラライカにそんな余力はないだろうし。
「そちらのご令嬢はどうされるのですか?」
そして、問題は子供だ。パラライカまでもつか?
オッサンひとりならまだしも、子供連れでたどりつける距離とはおもえない。
悪魔はいないとしても、魔物はしっかりいるんだ。
だいいち金ねえんだろ?
水なし、食いもんなし、装備なしじゃ行き倒れ一直線じゃん。
だが、騎士はきっぱりといいきった。
「むろん、パラライカまでお連れします!」
いやいやいやいや。
死ぬって。
くちびるパサパサになって干からびるって。
馬だって水飲むのよ。
水なしじゃ、まとめて干物になるって。
それとも最低限の装備ぐらいは持ってるのか?
あきらかに手ぶらな感じだが、どっかに隠してるのか?
「水、食料はお持ちですか? この際ですので、よろしければ提供させていただきますが」
「おお! それは助かります! いや、恥ずかしい話、それらをもった者とははぐれてしまって……」
やっぱり持ってなかったんか~い!
だめだコイツ。
こいつに任せてたらこの子が死ぬ。
「う~ん、そういうことでしたらご一緒しますか? パラライカではないですが援軍のアテがありますので」
「え! ほんとうですか!?」
騎士がおどろき、目を見開く。
しゃーない。俺が行ったるわ。
悪魔どもをブチ殺したるわい。
と、ここでよこからため息がきこえた。
ルディーだ。ヤレヤレと彼女はくちをひらく。
「やっぱそうなるんだ。あ~あ、マスターって女の子には優しいんだね」
オイオイオイ。
俺は誰にだって優しいっつ~の。
つーか、さすがに街をみごろしにはできんやろ。
助けられるもんは少しでも助けたい。
「あ! そういえばしりとりまだ途中だったよね」
と、ルディー。
あん?
なんだ急に。
たしかに途中だったけども。
「たしか『ろ』だったよね」
だったらなんだよ。
「ろ、ろ、ろ、ロ……」
それからルディーが俺をゆびさして言った。
「ロリコン!」
ふぁ~!!
だれがロリコンやねん!!
ちがうし、ロリコンじゃねえし。
しかも『ん』ついてるし!
ついてるしー!!