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九十六話 別視点――騎士レミントン

「お嬢様、しっかりつかまってください」


 レミントンは尋常ならざる速度で馬をはしらせていた。

 このままでは馬がもたない。それはわかっていた。

 だが、馬をつかいつぶしてでも急がねばならなかった。


 襲撃だ。われらが住む城下町に魔物の群れがおしよせたのだ。

 しかも、みたことのない個体ばかり。やつらの戦闘力はなみの魔物のものではなかった。

 騎士をはじめとする戦闘員がいちがんとなって対処しているものの、城が陥落するのも時間の問題におもえた。


「レミ――」

「舌を噛みます。だまって」


 レミントンがたしなめると、少女はくちをつぐんだ。

 怖いのだろう。むりもない、こんな速度の馬のうえだ。落ちたらケガどころではすまない。

 だが、手綱をゆるめることはできない。いっこくもはやく街から離れねばならなかった。


 少女のこわばる手が、レミントンの腕にきつくからみつく。

 小さな手だ。

 この手のぬくもりが、レミントンのこころに火をくべる。


 ――ぜったいに、ぜったいに守ってみせる。


 レミントンがかかえるのは八歳になる女の子だ。

 シャルル・グロブス。現領主の長女である。

 彼女をあんぜんな場所まで連れていくのがレミントンの使命だった。


 領主であるエドモンド伯は、戦いの不利をさとると幼い子供たちを街の外へと逃がした。

 三男さんなんは北へ、四男は東へ、五男は西へ、そして長女のシャルルは南へと、それぞれ違う方向に。

 血をたやさないためだ。固まっていれば、もしものときみな死んでしまうからだ。


 レミントンはうしろを振り返る。

 だれも追ってきていない。

 ――そう、だれも。

 シャルル護衛につかわされたのはおのれをふくめ三人。

 のこりの二人は追っ手をあしどめすべく盾となった。

 いま馬を走らせるのはレミントンのみである。


 おそらくはもう生きてはいまい。

 レミントンは仲間の死に胸がいたんだ。だが、いまはグッと押し殺す。

 おのれの任務はこれからなのだから。



 レミントンが向かうのはオーデルン。パラライカ領とのさかいめにある都市だ。

 自治をまかされたエドモンド伯の長男もそこにいる。

 ぶじ辿りつけば援軍を頼めるだろう。

 ひとまずそれで、おのれの任がはたせるというものだ。


「運とはわからないものだ」


 レミントンはポツリこぼす。


 レミントンは昔から運がよかった。

 いくつかのうちひとつを選んだ場合、だいたい正解を引き当てることができた。

 こんかいはどうだろうか?


 街を脱出する際、大きな幸運があった。

 援軍だ。パラライカよりの援軍があったのだ。


 この援軍は今回の襲撃とは関係なかった。かねてより要請していた兵がたまたま到着したにすぎない。

 だが、それでも、ぬけだす絶妙のタイミングであった。


 グロブス領には以前より魔物の襲撃があいついでいた。

 それも従来の魔物とは別種のものだ。

 これまで小規模かつ散発的なため、だいじには至らなかったが、領主が根元を断つべく、ほうぼうへと声をかけていたのだ。

 その結果、襲撃した魔物の背をパラライカ軍がつくことになった。


 オーデルンか……

 レミントンは漠然とした不安をかかえながら馬をはしらす。

 どうも方向がよろしくない。


 オーデルンの街は南にある。

 それなりの規模があり、パラライカ領にも隣接している。

 パラライカの領主も親戚筋にあたり、仲もわるくない。ほんらいならいいことづくめだ。


 だが、問題は魔物の襲撃してきた方向だ。

 やつらは南からきた。

 ならば南にあるオーデルンは?


 わからない。

 パラライカの援軍はさらに南からきている。ぶじである可能性はたかいと思うのだが……


 領主もそのあたりを考えて子供を散らばせたにちがいない。

 魔物が散発的に攻めてきていたのが西、今回が南だ。ならば北と東が比較的安全で、西と南が危険となる。

 家督の継承順に方向をわりふったのだ。

 

 滅びゆく街から逃げだせた。それはまぎれもなく幸運にちがいなかった。だが、向かうさきはどうであろうか?

 できることなら貧乏くじは引きたくない。お嬢様をぶじに送り届けるために。

 それに、なにより街には家族がいる。是が非でも援軍をつれて帰りたかった。


「ムッ!」 

「キャッ」


 そのとき馬が揺れた。

 騎乗するレミントンはおおきくバランスを崩す。


 ――こらえろ!!

 レミントンは手綱をあやつり、なんとか落馬をまぬがれる。前方にかかえたシャルルも落とさずにすんだ。

 だが馬のほうはというと、急劇に速度をおとし、ついには立ち止まってしまう。


 ――骨折か。

 馬から降りたレミントンは馬のようすをみる。


 むりをさせすぎた。おそらく疲労骨折だろう。

 ここで馬を捨てていくしかない。


 あらたな援軍の要請はまにあわないな。

 レミントンは天をあおいだ。


 そのとき。


「レミントン! あれ!!」


 シャルルが声をあげた。

 レミントンは彼女の指さすほうをみる。


「……商人か?」


 こちらにむかってくるのは一台の馬車。

 目を凝らすと、馬をいくつも連れているのがわかる。


 馬商人うまあきんどだ!

 ツイてる。これでまにあう!!


 レミントンは馬車へとおおきく手をふるのだった。




※1 馬商人――馬を売り買いする商人。

※2 家督と継承順――長男から順位がたかく、女児は最後。ほんらいなら五男が南でシャルルが西だが、伯爵は逆を選択。女児はシャルルだけだったため政略結婚的なものを考えたか、あるいはたんに可愛かったからか。

※3 悪魔は西よりやってきた。オーデルンを滅ぼしたのち北上。

   ダンダリオンとオロバスは離脱し、南で道草。そこで主人公とであう。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] …バカの連中の侵略…まずい状況がどれだけ広がってやがるのか… そんで…レミントン達は主人公の敵か?味方か?…まだまだわからん事が多いな…
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