八十五話 ダンダリオン
クイックシルバーから合図がきた。
よし、成功だ。
ドライアドのあやつる木々でバリケードをつくる。また燃やされることを想定してウンディーネも配置する。
題して、かごのトリ作戦。これで時間稼ぎをしているあいだにもう一方を討つのだ。
ちなみにかごの外にはアケパロスも配置しておいた。
顔をみると不幸になってしまう、あの能力をつかわない手はない。
バリケードのすきまから顔をチラみせするのだ。
不幸になれば脱出にも、より時間がかかるだろう。
よし、ルディーを呼び戻そう。
「ピクシー召喚!!」
地面に魔法陣が描かれると、そこからルディーがすがたを見せる。
今回の功労者は彼女だ。しっかり褒めてやらないとな。
……ん?
しかし、なにやらようすがおかしい。
ぐったりと横たわったまま動かない。
まさか……
「ルディー!!」
俺の呼びかけに反応して、彼女はうっすらと目をひらいた。
ふ~、びびった。あせらすんじゃねえよ。
死んだかと思ったじゃねえか。
「あれ? わたし……」
状況がのみこめてないのか、彼女は周囲をキョロキョロとみまわしている。
「召喚で呼びもどさせてもらった。よくやったな。さすがルディ――」
「マスター!」
とつぜんルディーが飛びついてきた。
なんだ、なんだ? どうした?
「わたしね。もうダメかと思った」
ルディーの目にはうっすらと涙がうかんでいる。
おおう、けっこうギリギリだったんか。
いや、悪かった。ちょっとムリさせてしまったか。
「ちょっと休んどくか?」
「ううん、わたしも戦う」
なんとけなげな……
まあ、ありがたいことではある。これから俺の持つすべてのちからをつかわなきゃいけないだろうし。
単純に風のシールドがいちまい追加されるだけで大助かりだ。
しかも、時間との戦いになるだろうしな。
バリケードが壊されるまでどれぐらいかかるかはわからんが、せっかくルディーたちがつくってくれたチャンスだ。かならず倒してみせる。
「ふふふふ、ご相談はおすみで?」
騎士が問いかけてきた。
いつのまにやら近くにきていたようだ。
その語り口は、まるで待っててあげたんですよと言わんばかり。
――気にくわねえ。
「おまえがダンダリオンだな」
「いかにも」
やはりあのときの悪魔か。老婆からヨロイを着た騎士へ、肉体だけでなく身につけるものも変化させられるのか。
ヨロイが生みだせるなら、武器も生みだせるだろう。
つかうのが魔法だけだと思い込むのは危険だな。
それに……
「おまえ、ワザと馬から落ちたな?」
「ほう! わかりますか」
わからいでか。
希望をあたえてから突き落とす。悪魔とはそういう存在なのだろう?
ナメやがって。
分断されたところで、負けるハズがないと思ってるのだろう。
その油断と慢心をへし折ってくれるわ!
「火よ!」
炎を手に灯すと、ダンダリオン目がけて放つ。
数はみっつ。それぞれ異なる軌道を描いてとんでいく。
バフリ。
炎はダンダリオンに到達することなく、みえないなにかにさえぎられた。
防護壁か。風魔法のシールドと似たような感じか?
チッ、やっぱりそう簡単にはいかないな。いまだちからの全貌がみえていない。
だが、それはこちらも同じ。
炎だってあたれば効果があるはず。
まったく効かないのならば、防ぐ必要などないのだから。
「なるほど。無詠唱でみっつ。なかなかの威力です。では、わたしも」
ダンダリオンはそう言うと、手に炎を灯した。
「わ! なにあれ!?」
ルディーの驚きももっともだ。ダンダリオンの灯した炎のおおきさは、俺のゆうに五倍はあったのだ。
しかも、色がちがう。赤ではなく青。
その透きとおった青い炎は、やけに美しく、そして冷たくみえた。
青い炎がはなたれた。
それは五つに分裂すると異なる軌道で襲いかかってくる。
やべえ、こんなもん喰らったらシールドがもたねえ。
右に飛ぶと強風でアシスト、射線からおおきくはずれる。
しかし、青い炎は進路をかえると、さらに分裂、十の炎となって襲いかかってくるのだった。
マジかよ!
追尾する炎なんてアリかよ。
いそいで距離をとるが、炎のほうがはやい。
クソッ、かわしきれない。
「クイックシルバー!!」
足元にあった瓦礫がいっせいに飛んだ。
それらは炎に衝突すると、炎をまとい落ちていく。
チクショウ、使っちまった。
念動力で瓦礫をとばし、いっきに距離をつめる作戦だったがこらえきれなかった。
まずいぞ、知られてないのが俺の強みだった。知られれば対策をとられる。
初見でたたみかけるのが最善手だったのに。
「いまのは土魔法? いや……」
おまけにダンダリオンはさぐるような目でこちらをみてくる。
やけに冷静じゃねえか。馬ヤロウとはえらいちがいだ。
こんなやつに勝てるのか?