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八十四話 秘策

 まちうける場所は砦からややパラライカよりの草木がはえたところだ。

 グロブス領の荒地は障害物がなく、身を隠しにくいのだ。

 なんとか木々の茂ったところへ誘い込み、各個撃破したい。

 

「しかし、あいつら、馬に化けたりババアに化けたりと手のこんだことしてんな。あれだけ強ければ、そんな回りくどいことしなくてもいいだろうに」


 地形を確認しつつ、ルディーに語りかけた。


「悪魔はね、ひとの恐怖が大好物なの。怖がらせて怖がらせて、最後にたべる。そうやって身も心もしゃぶりつくすんだって。ときには相手の望みをかなえるフリをして、ギリギリで裏切ったりもするみたい」


 悪趣味なやつらだな~。

 まあ、悪魔なんだからあたりまえっちゃあたりまえか。


「ふん、すぐ殺さないってんなら逆に好都合だ。油断してるってことだからな。つけいるスキなんざいくらでもある、本気をだされるまえに一気にたたみかけてくれるわ!」

「わー、マスターってすっごいポジティブだね」


 おうよ!

 なんたって俺には仲間がいっぱいいるからな。


「ルディー、今回の作戦はおまえがキモだ。期待してるぞ」

「え? わたし?」


 期待していると言われ、まんざらでもなさそうな表情のルディー。

 うん、そうだ。おまえにしかできない仕事だ。

 ちょぴっとだけキケンかもしらんが、まあ大丈夫だろう。

 レッツ、ポジティブ。


「よ~し、作戦を説明するぞ~。まずはルディーが……」





「きた!」


 悪魔どもの接近をしらせる手信号がクイックシルバーから発せられた。


 地中へもぐりこんだノームが足音をキャッチすると周囲に伝達、それをクイックシルバーが手信号や地中をすりぬけて俺まで知らせるという完ぺきな布陣がなせるワザだ。


 よし、ルディー、GO!!

 おれの合図とともにルディーがとびたつ。

 なんとも恨めしい目で彼女はこちらを見ていたが、黙殺もくさつした。

 ほかに手がないんだからしょうがない。


 彼女の仕事とはオトリだ。

 いっぴきに彼女を追わせているスキにもういっぴきを討つ。

 なにせやつらが目にしたのはルディーだけだからな。

 馬ヤロウはクイックシルバーもみてるけど、それはそれ。適任なのは彼女なのだ。


 チョウチョみたいなもんだな。子供が捕まえたくなる昆虫ナンバーワン。

 手で掴んで、ギュってしたくなるフォルムをしているのがルディーなのだ!!


 ――みえた!


 まっすぐ北のほう、白馬にまたがった騎士がこちらにむかってくる。

 え? アイツ?

 老婆は?


 クイックシルバーに尋ねるも、アイツらでまちがいないとのこと。

 そうか。じゃあそうなんだろうな。

 なにせ馬ヤロウには目印をつけておいたからな。


 ドライアドのちからで植物の繊維を散らばせる。

 風に乗って飛んでいってしまうような細い小さな繊維だ。それが馬ヤロウのしっぽのなかに入りこんだってすんぽうだ。

 あとはデイジーのちからで花を咲かせりゃいい。

 たとえすがたが変わろうとも、花が咲いてりゃ一目瞭然だかんな。


 しかし、馬に乗った騎士か……


 チクショー! すでにドッキングしとるやないかい。

 はやくも分断作戦に危機が!!


 おのれ、おのれ……


 ――ふっ。だが、そんなことであきらめるわたしではない。

 くっついたならはがせばいいのだ。

 やまない雨はない。だったら、はがせない悪魔だってないハズだ!


 作戦続行。あとはルディーに託すのみである。

 彼女ならできる。やってくれると信じている。

 秘策だって授けたんだ。たのんだぞ~




――――――




〇ルディー視点


 パタパタと飛びながら、ルディーは騎士へと近づいていく。

 いやだな~と、ひとりグチをこぼしながら。

 マスターの役に立てるのはうれしい。でも、この作戦はとにかく気がすすまないのだ。

 悪魔が怖いっていうのはもちろんある。しかし、それ以上に秘策とやらに抵抗があるのだ。

 

 前方を見る。

 豪華なヨロイを身にまとった騎士は、白くりっぱな馬に乗っている。

 さきほど出会った悪魔の面影おもかげはない。


 ほんとうにこのひと?

 ルディーは半信半疑だ。しかし、白馬のしっぽに小さく咲いた花をみつけて疑いなど消えた。


「ねえ、ねえ、どこいくの?」


 騎士に語りかける。

 だが、騎士から返事はない。

 まっすぐ前をみすえたまま、馬をすすませている。


 見えてるハズなのに……

 さてはマスターにひっかけられたのが悔しかったのかな?

 こんどこそダマして、恐怖をあおろうとしているのか。

 ムダだと思うけどなー。マスターそのへんすっごくあたまがまわるから。

 そんな気持ちを胸に、ルディーはなおも語りかける。


「この先は、なにもないよ~」


 パカリ、パカリとヒヅメの音がひびく。


「なにか探してるの~?」


 騎士も馬も、かんぜんにムシをきめこんでいる。

 む~、これじゃあワナの場所まで引っ張っていけない。

 このままだと作戦はしっぱいだ。

 しょうがない、秘策をつかうか。

 ルディーは覚悟をきめた。


「ねえ、ねえ。わたしも探し物してるの。知らない? しゃべるへんな馬。血管がすごく浮きでてて、なんていうのかその……全身チ○コみたいな馬」


 その瞬間、ブシュ―と馬がケムリを吐いた。


「あ、ここにいた!!」


 馬のからだはみるみる大きくなると、全身に血管を浮きあがらせる。


「キサマ~。ゆるさんぞ~」

「ひいい」


 ルディーは一目散に逃げだした。

 ものすごい形相の馬は、さきほど宿でみた悪魔そのもの。

 怒りのこもったその血走った目に、ルディーは完全にふるえあがった。


 逃げるルディーに、追う馬。

 またがった騎士は白い歯をみせる。


 ボコリ。

 地面がとつぜんへこんだ。

 馬はバランスをくずすと、うえにのる騎士をふりおとす。


 マスターの魔法だ!

 ルディーはチラリと振り返ると、馬だけが追ってくるのを確認し、逃げる速度をはやめるのだった。



 もうちょっと。

 木々が生い茂る場所をルディーは視界におさめた。

 あそこがワナをはったところ。ぜったいに誘いこんでみせる。


 風魔法の強風でせなかを押す。全速力だ。

 ふりむけば馬との距離はつかず離れず。このままなら逃げ切れるだろう。


 馬の口がおおきく膨らんだ。

 つづけて炎が吐きだされる。


「きゃああ」


 炎がルディーをつつむ。熱くてたまらない。

 それでも致命傷には至っていない。

 風のシールドだ。せなかに張った防護壁が炎の直撃をくいとめたのだ。

 しかし、無傷ではない。よこから入ってきた熱風でルディーの髪が焼けてちぢれた。


 もうだめかも。

 ルディーはそう思った。

 馬が速度をはやめたのだ。じぶんはこれ以上はやく飛べない。

 捕まるのも時間の問題。

 が、その瞬間、周囲の木々がいっせいに枝を伸ばしはじめた。


 まにあった。

 ドライアドのあやつる木がバリケードをつくっているのだ。

 バリケードは円を描くように馬とルディーをつつむと、かんぜんに逃げられぬよう上へと枝葉を伸ばす。


 とりかごの完成。

 それだけじゃない。地面には不自然にできた水たまり。

 ウンディーネだ。木の弱点である炎も、これでこわくない。


 あとは逃げるだけ。

 かんぜんに囲まれようと、網目もようのバリケードは、からだの小さいじぶんなら抜けられるハズだ。


 ――よし、いけた。

 ルディーは絡みあった枝のすきまへと飛び込んだ。

 これでだいじょうぶ。

 が、そう思った瞬間、おおきな手でからだをつかまれた。


「グブッ」


 肺が押しつぶされる。なんで?

 見れば追ってきた馬の前足はひとの手に変わっており、枝のすきまへと伸ばすとおのれのからだをしっかりと握りしめていたのだ。


 息ができない。

 ルディーの意識は遠のいていく。その、うすまる思考と視界の中、召喚主のほうへと目をむける。


 ――ゴメン、マスター。捕まっちゃった。

 でも、任務は達成したよ。0点じゃないよね。

 わたしもうダメかもだけど、絶対、ぜったい勝ってね。


 あきらめかけたそのとき、ルディーのからだをひかりが包み込んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] “悪趣味なやつらだな~ まあ、悪魔なんだからあたりまえっちゃあたりまえか。” そうか!悪趣味な魔物で悪魔か!(違う!)その理屈だと、知能最悪な魔物で悪魔になる!(だから違う!)ん?どこ…
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