七十二話 サーパントの街
サーパントの街についた。
身分の確認や荷あらためもなく、すんなりと中へとはいれる。
楽だ。パラライカの街どうよう、流通にちからをいれているのだろう。
スムーズなひとの流れは地域を活性化させる。
豊かさはもとより、安全面でも効果があるだろう。
俺もここにくるまでサティを四匹くじょしたしな。
塀のなかにとじこもるよりひんぱんに出入りし、周囲の魔物を減らしたほうがいいってこった。
ガラガラガラ。
道のまんなかを馬車ですすんでいく。
左右に立ちならぶ家はみな木造で、パラライカより素朴な印象をうける。
軒下につるされるのは魚の干物だ。風にゆられてクルクルとまわっている。
投げ網をもった少年とすれちがう。おおきな網を引きずらないよう、頭上にかかえた姿がかわいらしい。
ここサーパントは、きょだいな湖のほとりにできた街だ。
主要産業は漁業と染物。
どちらも豊富な水資源があればこそだろう。
なんでも葦で編んだ住居を、湖面にうかべるひともいるんだとか。
湖水の満ち引きとともに家の場所がかわる。
そこから見る、水面にうつった夕日が、たいそう美しいそうだ。
ぜひ見てみたいものだな。
まずは市場へとむかう。
やはり漁師町だけあって魚介類が多い。
干物に生魚、まき貝に真っ黒な二枚貝。触角のついたからだの折れ曲がった虫みたいなのはもしかしてエビか?
ちらちら商品をみながら奥へとすすむ。
反物コーナーをぬけ、仲買人らしき男のもとへ。
おっと先客がいるようだ。商人らしきものたちが少ないながらも列をつくっている。
さてどうしたものか?
列は二本。どちらも待っているのは二組だ。
待ち時間はさほどかわらないだろう。
どちらを選んでも同じ気がする。パラライカとちがい仲買人がすくない。
すくないってことは競争がはたらかないってことだ。買い取り額の交渉も期待できないだろう。
こっちにするか。
なんとなく仲買人が清潔そうな方をえらんだ。
見た目は二十代後半。茶色の瞳に、短く刈りこんだ茶色の髪。くちびるが少し腫れぼったい男だ。
やがて列ははけ、自分の番がくる。
「買い取りをたのむ」
「ギルドカードはもっているか?」
仲買人のことばにうなずくと、首にかけていた茶色のプレートを服のなかからひっぱりだす。
商人ギルド発行の証明書だ。この街はパラライカ地方の一都市。問題なくつかえるハズだ。
男はプレートにちらりと目をむけると、もういいとばかりに手のひらをこちらにむけた。
「見ない顔だな。どこから?」
「パラライカだ。しばらくはここいらで行商をしようと思っている」
質問にこたえつつも馬車の荷台から商品をおろす。
ジャガイモひと箱。さてどの程度の値がつくか。
男はジャガイモをひとつ手にとると、品質をたしかめはじめる。
「なるほど。ふくらみも丸みも申し分ない。ん~、重さをはかってみないことにはわからんが、だいたい銀貨二枚ってとこだな」
ひと箱、銀貨二枚。トレンドのとこよりほんの少し安いていどか。
聞いてた話より高い気がするな。変動したのか? それとなく聞いてみるか。
「このへんじゃあこれが相場かい? パラライカだともう少し高値がつくが……」
「いや、むかしはもっと安かった。ここらでは、自分で食べる分ぐらい自分でつくってるからな」
む、やはり変動してるのか。高く売れるのはありがたいが、りゆうが気になるところだ。
「なんで値があがってるんだ?」
「それがな、さいきん食料品がよく売れてな。おもに北からくる行商人が買っていく。しかしまあ、うちとしてはありがたいんだが、ちょっと不安はある。くいもんが値上がりするときはロクなことがねえからな」
ロクなことがねえか。たしかに。
日照りに水害、飢饉にいくさ。食料品が値上がりするときはたいていよくないことがおこる。
たしかパラライカの領主が軍を派遣したのも北だったな。
近いうちに争いごとでもあるんだろうか?
パラライカを巻き込んでの戦争か?
――いや、それだとパラライカの街でも食料品が値上がりしてもよさそうだ。
争いならばもう少し離れたところでおこっているのかもしれない。
たしか北の地をおさめるのはグロブス家。現パラライカの領主の母方の貴族だ。
グロブス家がどこかとモメて、その応援にかけつけたと考えるほうがつじつまがあうか。
こうやって会話をしつつ、作物を売っていった。
ハチミツ、みつろうは残しておいた。
ハチミツはまだ数がとれない。どうせ売るならトレンドに売りたい。
みつろうは……そうだな、もっと魔術がさかんな街で売るのがいいだろう。
こっちも数がでないしな。
ふ~、これで一段落か。
あとは夜を待ってどこかにトビラを設置するか。
湖のほとりがいいか。
夕日もついでに見ていこう。んで晩御飯は魚づくしだ。
貝もいいな。汁物がいいか。いいダシがでるんだよな。