六十五話 なにかいる
当初のよていどおり行商にいきたいと思う。
が、そのまえに農地を拡張したい。ギルドの食糧備蓄の件もある、日持ちのする作物をつくっておくのだ。
とりあえず市場をまわる。
屋根つきの店舗に商品をならべるもの、木箱をつんで簡易の台にするもの、地べたにゴザをしいただけのものと、売り方はさまざまなれど、どこも活気にあふれている。
さすが交易都市といったところか。
おっと、さっそく大豆を発見。
ちゃいろの光沢のあるツブツブたちがカゴにどっさりと盛られている。
いいぞ、コヤツはこのまま種に使える作物だ。えいようもあるし。
買いだ。
チャリンと銅貨を二枚てわたすと、太ったババアがお椀で二杯すくってくれた。
ふむ、一杯で銅貨一枚。そんなもんか。
次に見つけたのはブドウ。
これも買う。このまま商品にするのもいいが、ワインにしてしまうのも手だろう。
行商で酒はけっこう売れる気がする。
そしてお次。トウモロコシと小麦をみつけた。
だが、タネは見つからない。やっぱ市場ではむずかしいか。
農家にちょくせついかなきゃダメっぽい。
しょうがないので商人ギルドで聞いてみることにした。
「すみませ~ん、小麦をそだててる農家さんを紹介してもらえませんか?」
「買い付けかい? う~ん、いまはどこも厳しいんじゃないかねえ。ほら、セラシア村がゴブリンに荒らされたろ。あそこは一大産地だったから、買えなくなった商人がこのへんの農家にさっとうしてね」
そうか! セラシア村だ!!
うっかりしてた。あそこいきゃあだいたい揃うじゃん。そういやトウモロコシらしきものも見た記憶がある。
俺がほしいのはタネだ。畑が荒らされててもタネぐらいはあんだろ。
よ~し、セラシア村へ戻るか。
日用品とひきかえにタネをわけてもらおう。フィリップとも今後の村の方向性を話しておきたいしな。
それにしても……商人は動きがはやいな。
さすがというか、目ざといというか。
俺も負けてられん。
さっと新しい馬車を購入すると、セラシア村にむかってしゅっぱつした。
――――――
「まっちくり~」
前方をはしるのは冒険者どもが乗る馬車だ。
運転するのはオットー子爵。デコボコ道もなんのその、グングン坂をのぼっていく。
それにひきかえ俺の運転する馬車は、ノロノロヨタヨタと亀のごときスピードだ。
待ってもらっては引き離され、おいついたと思えばまた引き離されるをくりかえしている。
この馬車の動力は俺の念動力だ。契約した精霊の魔法がつかえたのとおなじように、念動力もつかえたのだ。
ただ、その能力はオットー子爵にはるかに劣る。
揺れないように制御するのがやっとだ。
前へと進むちからはけっきょく馬にたよっている。
なんだろうな? この性能差は。
精霊魔法とおなじように念動力もつかえたのは嬉しいが、差がありすぎる。
契約者からちからの流入がおこるのならば、クイックシルバー七体と契約した俺はもっと使えていいハズだ。
しかし、じっさいはオットー子爵に遠くおよばない。
なんだかなー。
りゆうは慣れなのか、種類なのか、適性なのか。
いま俺が一番威力を発揮できるのが風魔法だ。つぎに火、土とつづく。
もともと火が一番得意だった。で、風、土、水って感じだ。
この逆転現象は個体差か。鬼火よりシルフのほうが強いから?
でもなあ、クイックシルバーかなり強いしなあ。
となると……やっぱ種類か。
風はシルフとピクシーで二種族。火は鬼火二体だけど一種族。
土はノームでもっとも数が多いが一種族だ。
数ではなく種族数で差がでてる。
ただ、基礎体力のあがり方がハンパないんだよな。
あきらかに数に依存してるっぽいんだよなー。
もしかしたら全部かなあ。
たとえ適性があってなくても、クイックシルバーが子供をつくって、その子供がさらに子供をつくって……って数を増やしていけば、すごいことになるかもしれない。
いつかは太陽だってとめられる日が来るかもしれない。
いや~、神だね。あたらしい神に俺なっちゃうのかなー。
「サモナイトさ~ん。日ぃ暮れちゃいますから先いきますよ~」
輝かしきおのれの未来を想像していると、冒険者の無粋な声でげんじつにひきもどされる。
「ちょ、まてよ。置いていくなよ」
夜の峠道はくらくてこわい。ひとりでへんなものにでくわしたらどうしてくれんだ。
風魔法でアシストしながら必死にくらいついていくのであった。
なんかいる。
風魔法と念動力の同時使用はむずかしく、けっきょく置いていかれた俺は、夜道をひとり馬車をはしらせていた。
前方をフワフワ飛ぶのは鬼火だ。ほのかな光が暗闇をあやしく照らしている。
そんなとき、視界のすみになにかが見えた。
ひとのようでひとでない。なんか妙ちくりんなヤツ。
最初は冒険者かと思った。心配しておれのことを見に来てくれたのかと。
しかし、ようすがおかしい。生えしげる木々の中、背中をむけてたたずんでいる。
しかも全裸。手にはヤリのようなものを持ち、うつむいているのか、あたまがみえない。
これは普通ではない。
警戒しつつすすんでいく。いつでも攻撃できるように手に炎をともす。
――が、そいつはこちらを見ようとしない。背中をむけたままだ。
やがて馬車はよこをとおりすぎていく。
なんだったんだ? いまの。
それからしばらくして、前方になにか見えた。
背中をむけて木のよこにたたずむなにか。
まさか、さっきのヤツか?