六十四話 風向きがかわった
セラシア村でゴブリンキングがでたとき、みなが聖堂に逃げこんだ。
そのとき俺たちをのこし、カンヌキをかけた者がいた。
コイツだったようだ。
「てめえ~」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
のぞきヤロウは必死にあたまをさげる。
みれば鼻水もちょっとタレてる。
……まあいいか。
べつに俺は聖堂に逃げようと思ってたワケじゃないし、村人みんな逃げこんだあとだったし。
あ、村長がのこされていたか。
う~ん……
「だからイヤだったんだ。呼びにいく依頼もさいしょは断ったんだ。でもあんたの顔をしってる冒険者がほかにいないからって……」
オイオイと泣く、のぞきヤロウ。
さすがにちょっと哀れになってきたな。
「わかった、わかった。泣くな。もう許してやっから。そのかわりしっかり働け。いまセラシア村は復興の真っただなかだ。いけば好待遇で雇ってもらえるから」
「うううう……」
のぞきヤロウは泣きながら首をたてにふっていた。
うん、この件はこれでヨシとしよう。
こいつをどうこうしたところで俺の評価があがるわけでもないし。
むしろマイナスになりそうだ。ちょっと器のおおきいところをみせといたほうがいい。
じゃあ、つぎだな。ギルドマスターが俺を呼ぶよう指示したって話だ。
「で、けっきょくアンタはなんの用で俺を呼ぼうとしたんだい?」
「あー、ちょっと言いにくくなってしまったんだが……」
「なんだよ。言えよ」
「まさに、いま君がした行為だよ。冒険者をちょくせつ雇われてしまえば、われらギルドにお金が落ちてこない」
あ――
そうだ、仲介料……
「それに君は鉄級冒険者を根こそぎもっていってしまった。それでこちらの業務がとどこおっているんだ」
「あ、うん」
たしかに鉄級のほとんどがセラシア村にきてしまっている。
仲介料も入らない業務も停滞するではギルドもこまるだろう。
「鉄級冒険者がこなす依頼は市民のせいかつに密着したものが多い。銅級にかわりに受け持ってもらっているが、すぐに限界が来る。なにせセラシア村で働く鉄級冒険者のほうが稼いでいるのだから」
それに給料もすこしあげすぎたようだ。
銅級が肩代わりしたにもかかわらず、その鉄級よりも稼げないとなれば、なんのためにランクアップしたのかわからなくなる。
これでは文句のひとつも言いたくなるってもんだ。
「セラシア村の復興は緊急かつ一時的なものだからしかたがないとして、せめて仲介料について話し合いができないものかと」
「……」
やべえ、グウの根もでねえ。
「セラシア村の復興ならフィリップ卿に話すべきだとも思ったのだが、聞けばじっさいの雇い主は君だというし……」
オッサンの苦悩がこころに刺さる。
こんなことなら悪人のほうがよかった。
貴族がうらで糸をひいてたほうが気分的にはマシだった。
「あと、セラシア村のゴブリン討伐の際、冒険者たちに配った武器の費用を払えということなのだが……」
忘れてた。そういや武器の金、請求したんだった。
「払うのはしかたがないとして、そのとき使った武器はギルドに渡していただけないかと……」
あ、俺も返してもらってねーわ。
冒険者どもに借りパクされとるわ。
「ギルド職員の生活をまもる義務がわたしには……」
もうヤメテ。
わかったから。
「ごめんなさい」
最終的にあたまをさげたのは俺だった。
話し合いのけっか、復興にかりだす際の仲介料を払うこととなった。
それだけではない。ギルドの食糧備蓄を俺が用意する、武器の費用は請求しないどころか、新人に支給するタメの武器すら提供する、にまで発展した。
はっきりいって俺の大損である。
逆にギルドはおおもうけ。武器、食糧といったこれまで個人に任せきりだった部分を、まったくおのれのフトコロを傷めず提供できるようになったのだ。
しか~し!!
これは先行投資だ。
ギルドに同情して、なんて気持ちはこれっぽっちもない。
考え方をかえたのだ。
こうなったらギルドを乗っ取ってしまおうと。
ギルドのバックについてるのは領主だ。グロブス・ハンフリー・フォン・パラライカ子爵。
ここから資金や営業許可などさまざまな便宜をはかってもらいギルドは存続している。
領主は領主で、まとまった戦力を身近においておけるメリットがある。
兵士には給料がいる、しかし冒険者にはいらない。
付近を荒らす魔物もかってに退治してくれると大助かりだ。
ここを奪い取ってやるのだ。
もちろん表にでるのはフィリップ士爵。
ギルドのバックは領主からフィリップにかわる。じょじょにだが、確実に。
そうなるように仕組んでやる。
フヘヘヘ。