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六十三話 いろんなところへ飛び火する

「ヒィ」


 冒険者らしきおとこが悲鳴をあげた。

 こいつだ。こっちのようすをうかがっていたのは、こいつにまちがいない。

 長髪、面長おもながで、陰気そうな目。まさにのぞきヤロウといった風体ふうていだ。

 なにより背中にチビクイックシルバーが張りついている。

 言い逃れはできんぞ!!


「おまえだな。俺をコソコソかぎまわっていたのは!」

「ひあああ」


 なさけない声をだす冒険者。

 なにがひあああだ。へたな芝居しやがって。

 そんなもんで見逃してもらえるとでも思っているのか。


「なにがもくてきだ! 誰にたのまれた!?」

「まあ、待ちたまえ」


 いいところで割ってはいってくるものがいる。

 のぞきヤロウのむかいにすわるオッサンだ。

 すこし白髪交じりで肌があさぐろい、なんかエラソーなやつ。

 着てる服も少々お高そうだ。

 こいつがスパイをおりこんだに違いない。

 あとで追い込みをかけてやろうと思っていたが、なるほど下っ端がボロをだすまえに割ってはいったワケか。

 おもしれえ。相手になってやる。


「ん? どなたかな」

「いやいや、それはわたしのセリフだよ。キミがとつぜんわたしの部屋に押しかけてきたんだろう?」


 ほう、質問を質問でかえしてきたか。

 やるじゃないか。情報をもとめるが与えない、交渉術にたけたやり口だ。

 とうぜん俺も質問でかえさせてもらう。


「おや? 俺のことを知らないのか? こいつを送り込んだのはアンタじゃないのか?」


 のぞきヤロウを指さしてそう言った。


「……いや、知っているよ。サモナイト君だろう? うん、たしかに彼を君のもとにおくったのはわたしだが……なんというのか、どうも行き違いがあるようだね」


 へえ~、あっさりみとめたな。そこは重要じゃないってか?

 しかし、行き違いとは悪者が言い逃れするセリフそのままって感じだな。


「行き違いねぇ……まあ、それはあとで聞くとして、まず最初の質問にこたえてもらおうか。アンタは誰なんだい?」

「ラングだ。ギルドマスターの任についている」


 だろうね。トビラに執務室って書いてあったからな。

 わかってて聞いたんだ。

 それにわかっててトビラをあけたんだ。

 トイレのつぎは備品室だったなんて、醜態をさらすワケにはいかないからな。

 俺はやればできる子なのだ。同じ失敗はしないのだ!


「で、そのギルドマスターさんがこんなところでコソコソと何の相談だい?」


 密室でするのは悪だくみかエロいことと相場がきまっている。

 おまえたちは男同士だし、着衣ちゃくいの乱れもない。

 ならば悪だくみに違いないのだ。


「コソコソとは人聞きの悪い。彼から報告をうけていただけだよ」


 ふん、やっぱりな。

 嗅ぎまわっていたのは確定だ。

 あとは誰の指示かってことだ。

 こいつひとりなら問題はない。黙らすか味方に引き入れるか。さいあく始末するか。

 やっかいなのは裏に誰かがいた場合だ。

 領主、あるいは別の貴族。

 リール・ド・コモン男爵……はさすがにないな。早すぎる。


 まあ、いずれにしたって今なら手を打てるだろう。

 俺はこの街が気に入ってるんだ。

 多少無茶をしてでも居場所を確保しねえとな。


「報告ねえ。それでなにかつかめたのかい? 情報ってのは宝だ。収集するのは勝手だが、盗られた方は宝を盗まれたもどうぜんなんだ。バレたときは相応の報いを受けなきゃなんねえよな」


 ビシリと亀裂がはしる音がした。

 それからミシミシとなにかがキシむ音も。

 ドライアドのちからだ。すさまじい勢いで柱や床、天井からイバラが湧きでて部屋ぜんたいを覆っていく。もちろん扉や窓もだ。完全にふさがれ、なんぴとたりともでることはかなわない。


「ひやああ」


 のぞきヤロウが悲鳴をあげた。

 さっきまで余裕タップリだったギルドマスターも、さすがにさすがに驚き、イスからたちあがった。


「すわってろ。まだ質問がおわってねえ」


 ギルドマスターのひたいに汗がにじむ。

 フン、なまじっか腕に自信があるからこうなるんだ。

 このギルドマスターは元軍人か冒険者だろう。セバスチャンといい勝負をするかもな。

 だが、もう俺の敵じゃあない。

 召喚術をつかうまでもない。


「で、なんで俺をさぐってた? 誰かにたのまれたのか?」

「誰にもたのまれていない。わたしの一存いちぞんだ。だが、誤解なんだ。君を嗅ぎまわるよう指示などだしてない」


「へえ~」

「ほんとうだ。彼には君を連れてくるよう指示しただけなんだ」


 よく言うよ。そんなもんに騙されるか。

 オットー子爵から聞いてるぞ。そののぞきヤロウはセラシア村でも見たってな。

 俺だってなんとなく見覚えがある。

 

「うそはよくないねえ~。そこの冒険者セラシア村で見たぞ。おおかた情報収集のために潜り込ませたんだろ? それにあんたゴブリンキングの存在に気づいていたな。それでさぐりをいれていたんだろ?」


 え? と背後からこえがあがった。

 俺が連れてきた赤毛、ヒゲ、火事救出の冒険者からだ。

 部屋にはいってから石像のように動かない、可能な限り気配をけそうとしていた三人だ。

 ムダな努力なのにな。

 まあ、あいてはギルドマスターだ。気持ちはわからんでもないが。


「たしかにギルドは情報集に動いていた。だがそれはゴブリンキングにたいしてだ。断じて君のことをさぐっていたわけではない」


 ふ~ん、やっぱりか。俺のことはさておき、ゴブリンキングに関してはおかしいと思っていた。

 巣がもうひとつ見つかったと聞いて、タイミングがよすぎると思っていたんだ。

 まえまえからそれらしき兆候ちょうこうがあったに違いない。

 だから見つけられた。巣がひとつ見つかっても探し続けた。


「少なくともキングの存在は認識してたってワケだ」

「ああ、だが確証があったわけではない。もしかしてと思っていた程度だ」


 まあ、それもそうか。

 確証があればもっとザワついていたに違いない。


「で、鉄級冒険者を捨て駒としてセラシア村に派遣したんだな」

「な!!」


 ふたたび背後から声があがった。三人組の冒険者だ。

 捨て駒にされたと聞いちゃ石像のままではいられないだろうからな。

 ギルドへの信頼感はガタ落ちだろう。いいぞ、俺の部下へと組み込むのに一歩前進だ。


「しかたないだろう。誰かが確かめねばならん。鉄級冒険者たちにはすまないと思っている。だが、わたしもやれるだけはやったんだ。領主さまには軍を派遣するよう要請した。でも断られてしまった。もしかしてなんてあやふやなもので軍は動かせないってな」


 あー、軍の半分以上は北に派遣してるもんな。

 そら証拠がなきゃ動かんよな。


「まあゴブリンキングの件はそれでいい。アンタを責めたってしかたがない。それよりもだ。俺のことをさぐっていなかったってのはウソだろ? だったらなんで俺をダマしてセラシア村に行商にいくように仕向けた? なぜ冒険者のバックアップをするように仕組んだ?」

「え? いくように仕向けた?」


 まさか!? といった表情をみせるギルドマスター。

 オイオイオイ。とぼける気かよ。さすがにそれはムリってもんだろう。


「しらばっくれるなよ。水と食料をギルドの備蓄からだしといて知りませんじゃあ通らねえだろ」

「まってくれ。ほんとうに知らない。そんな話ははじめて聞いた」


「あ? 俺がセラシア村にいったことを知らねえってか? ウソつけ」

「いや、いったことはもちろん知っている。だが自発的だと聞いた。水と食料をギルドが提供したなどまったくもって初耳だよ」


 ほんとうか? そんなことがあるのか?


「考えてみてくれ。商人をだまして故意に危険な場所へと送ったら商人ギルドと関係がわるくなる。そんなことするはずがないじゃないか」


 あー、たしかに。

 そういやお得意さま専用窓口みたいなのがあったな。

 商人ギルドとは持ちつ持たれつだろうし、そこにヒビがはいることはそうそうしないか。

 てことは受付嬢の独断か?


「その件は至急ちょうさする。すこし時間をくれ」


 ふ~ん。まあいいや。調査するってんなら待ってもいいか。

 時間がたってうやむやにするようならクロってことだからな。


「ミーシャって受付嬢だ。しっかり調査してくれ。結果を楽しみにしてるよ」


 ひとつ懸念があるとすれば受付嬢ひとりに責任をなすりつけることだ。

 そこは気をつけなきゃいけないな。


「よし、じゃあ話をもどそうか」


 そう言って、のぞきヤロウをふたたびゆびさす。


「なんでコイツは逃げたんだ? 俺を呼ぶように指示したんだろ? なんでコソコソ隠れるばかりで声をかけてこないんだ? おかしいじゃないか」

「それは、わたしにもわからない」


「はあ?」

「それをさっき聞いていたんだ。そこへ君がやってきたんだ」


 ……う~ん。

 ひじょうにウソっぽいんだが。

 まあ、これは本人に聞けばいいか。もともとそのつもりだったしな。


「オイ! なんで逃げたんだ」


 のぞきヤロウの胸倉をつかむ。


「ひいい。怖かったんだ。見殺しにしたことがバレたらミイラにされるんじゃないかって……」


 あ? なんだ見殺しって。

 オメーもセラシア村にきてたんだろ。だったら見殺しじゃねえじゃねえか。


「キングあいてに逃げたことなら気にしてねえよ。あんなもん鉄級冒険者にどうこうできるもんでもないだろう」

「ううっ……」


 どんだけビビリなんだこいつ。

 ほかのやつらは平気な顔してセラシア村で復興に汗水たらしてんぞ。


「逃げなかったのは後ろの三人とフィリップ卿だけだ。ほかはみんな逃げたけど見殺しなんて思ってねえから。そうだなあ、しいていえば聖堂のとびらのカンヌキをかけた……あ!!」

「ひいいい!!」


 おまえか!

 おまえがカンヌキかけた犯人か!!


「てめえ~」



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― 新着の感想 ―
[良い点] エムくんの戦闘力が上がると共に、イケイケになってきてますね! もはやエムくんではない、エムさんだ! カンヌキをかけた犯人のびびりくんは、もうちょっと身体を鍛えて自信をつけたほうが良いです…
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