六十二話 そこにいるのはわかっている
見られている?
ふっ。オットー子爵。
じつは俺もさっきから感じていた。
こそこそ隠れてこちらのようすをうかがう不穏な気配を。
「でてこい!」
いっぽんの木をゆびさす。
あそこだ。あのうしろに誰かがいる。
だが、木のうしろにいるであろう人物はすがたをみせようとしない。
「いるのはわかっている。でてこないならこっちからいくぞ」
そういって連れの冒険者に見てこいとあいずを送ろうとしたとき、オズオズと木の影からひとりの男があらわれた。
冒険者か?
とはいってもまだ少年だ。
十三、四才といったところだろうか。
誰かはしらんが、こんな子供を監視におくるとは、このサモナイトもナメられたものだ。
「だれに雇――」
「ジャミル!!」
ガツンとかまそうとしたところで、急にトレンドがおおきな声をあげた。
え? なに?
オッサンのしりあい?
「父さん……」
ジャミルと呼ばれた少年はかぼそい声でつぶやくと、こうべをたれる。
父さん?
え~っと。
「ジャミル。なにしてるんだ。商品がいっぱいで運びきれない。手伝ってくれ」
「――う、うん」
ジャミルとやらは俺がもってきた作物入りの箱をかかえると、トレンドといっしょに運び始める。
……なんかわからんけどよかったね。
じゃあ、帰るか。
そうして背中をむけようとしたとき、オットー子爵がふたたび耳打ちしてきた。
「あるじどの。そちらではない。あの建物のうしろ、息をひそめるものがおりまする」
ちがったの? マジかよ。
しかもオットー子爵がさし示すのは、さきほどとはぜんぜん別の方向だ。
かすりもしてない。かなりはずかしい。
どうしてくれんだ、オイ。
「オットーは上、俺は右、おまえらは左からいけ」
こうなりゃ、ぜってー逃がしてなるものか。
建物をゆびさし、それぞれに指示を出す。
しかし、オットー子爵はうなずいたものの、冒険者どもはポカンと口をあけたままこちらをみている。
あ、くそ。
オットー子爵の声はきこえてねぇんだ。
そら、意味がわからんわな。
「あるじどの。逃げたぞ」
ん~!!!
なんだよオイ、なんなんだよ!
「だいじょうぶだ。わが子を張りつかせておる」
でかした、オットー!!
「よ~し、追跡すんぞ!!」
いまだに意味がわかっていない冒険者どもを引き連れて、何者かをおっていった。
――――――
「あの中ですな」
オットー子爵が示すのは見覚えのある建物。
木造二階建てで、裏口には酒場がへいせつされている。
そう、冒険者ギルドだ。
不審者はこのなかに逃げ込んだのだという。
おうおうおう、やってくれんじゃねえか。
俺さまをコソコソ嗅ぎまわるたぁいい度胸だ。
「突撃!」
パアンと扉をひらいて裏口から押し入る。
正面には受付カウンター。右手には酒場がある。
モグモグとサンドイッチをたべる冒険者と目があった。
ツナサンドか? うまそうだな。帰りにたべていこう。
「あっちだ」
オットー子爵がゆびさすのは受付の横。関係者以外立ち入り禁止のとびらだ。
しゃらくせえ。
ガチャリとノブをまわし、なかへとズンズンすすんでいく。
「ちょ」
「まっ」
うしろでなにやら聞こえるが、ぜんぶムシだ。
やがてひとつの扉へとたどりついた。
ここだな。
らんぼうに扉をひらく。
便器が三つならんでいた。ちがったトイレだ。
「あるじどの」
わかっておる!
そんな目でみるんじゃない!!
気をとりなおして別の扉をひらく。
いた!
オッサンひとりと軽装の冒険者らしきおとこ。
テーブルをはさんでなにやら密談している。
「きさまぁ!」