五十九話 新米商人ビジネスを語る
村のはずれにあるみすぼらしい石造りの建造物のまえで、なにやらゴソゴソするものどもがいる。
「あ、サモナイトさん」
彼らは雇い入れた冒険者たちだ。ドロボウではない。
赤毛のおんな、ヒゲ、火事救出の三人。これから彼らには馬車でセラシア村とパラライカの街を往復してもらう。
「待たせたな。もう積み終わったか?」
「はい。箱はすべて荷台に」
箱とは作物がギッシリつめられた木箱だ。
夜中のうち、農場から持ってきておいた。
これをこいつらに売ってきてもらう。農場からセラシア村のこの建物へ、それがパラライカの街へと流れていくのだ。
いささかまどっこしいが、これで産地を偽装しつつ安定した収入がえられるって寸法だ
半自動だな。
現状、建物の最奥にせっちしたトビラからセコセコと俺が運び込んどるワケだが、いずれは全自動化したい。収穫物をノームがここまで運び、冒険者たちがハコづめして売りにいく。
そんな流れをつくっていきたい。
しかし、いまはまだダメだ。彼ら冒険者三人がしんようできるかわからない。
売り上げをチョロまかすかもしれない。
しばらくのあいだ、出荷数、売れた額、それぞれ把握しておく必要がある。
「あの、サモナイトさん」
「なんだ?」
「質問があるのですが……」
「どうした? 言ってみろ」
うむ、いいぞ。わからないことはすぐ聞く。それがビジネスの基本だ。
あとになればなるほど聞きづらくなるしな。
「この箱はどこから……」
「大丈夫だ。考えるな。いまはまだそのときではない」
とはいえすべてをオープンにする必要もない。
革新的な技術はいんとくすべきものなのだ。
「では、あの壁は……」
冒険者のひとりが指さすのは土壁だ。
掘っては積み、掘っては積みと、いままさにノームたちが急ピッチでつくりあげている外敵をふせぐ掘りと壁。
俺には大地の精霊ノームがみえる。だが、冒険者たちにはみえない。
しぜんと積みあがっていく土壁は、彼らにとってさぞ奇妙にうつるだろう。
「……それも大丈夫だ。たんなる自然現象だ。おおいなる大地のいぶきだ」
そうだ、しぜんの営みにケチをつけてはいけない。
日は東からのぼり、西にしずむ。なぜと考えてはいけない。そういうものなのだ。
太陽はけっして立ち止まったりしない。若人よ。おまえたちも立ち止まるな。
「ほかに聞きたいことあるか?」
そう問いかけるも、冒険者たちはおたがいに顔をみあわせている。
なんだよ、遠慮してんのか?
ズバッとこい、ズバッと。
怒ったりしねえから。
すると赤毛のおんな冒険者が遠慮がちに手をあげた。
お! いいぞ、みなが聞きづらいときに聞く。
リーダーシップありだ。幹部候補だな。
「はい、どうぞ」
「御者は誰がするのですか?」
御者か。馬車の運転だな。いい質問だ。
「今回は俺がする。つぎからは変わりばんこですればいい。楽だぞ。すわってるだけだからな」
いちどは仲買人のトレンドと顔つなぎをしなきゃならない。
今度からコイツらが売りにいくから、あんじょうよろしくなと伝える必要がある。
「あの、みんな馬車の運転など、したことないのですが……」
俺だってないよ。
へーき、へーき。だって動かすのオットー子爵だもん。かってに動くから問題ナッシング。
「手綱にぎって、テキトーにしてれば街につくから。大丈夫、この馬車はそういうふうにできてるから」
御者などかざりだ。なんなら馬もいらない。
荷台だけでも馬車はうごく。
見た目の問題だな。荷台だけが坂道をのぼっていったなんて噂になるのはできれば避けたい。
「馬だけはしっかりめんどう見ろよ。水とごはん、あとごきげんとりにブラッシングも忘れるな」
いらないからって手荒にあつかうなよ。駄馬だが、たいせつな従業員だからな。
「ほかにあるかー?」
「……」
ないようだな。よろしい。
では、しゅっぱつ!!
俺のかけ声とともに、馬車はうごきだした。
馬はすずしい顔でポクリポクリとひづめをならす。
荷台だって揺れない。
デコボコ道もなんのその、まるで氷のうえをすべるようにすすんでいく。
オットー子爵、うでをあげたな。これなら不慣れな冒険者でも安心して行商に励めるにちがいない。
これから俺の商売はデカくなっていくだろう。
ゆくゆくは馬車をふやし、一台一台にクイックシルバーをつけてしまおう。
そして、さいごは空飛ぶ船だ。
空路で各都市をつなぐ。
巨万のとみが俺の手のなかに!