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五十八話 踏みとどまる

 セラシア村は復興にうごきだした。

 家をやかれた多くのものは聖堂に寝泊まりしていたが、そんな生活をいつまでもつづけさせるワケにはいかない。

 まずは村人の住居を建てるところからはじめる。

 村人と冒険者がちからをあわせ材木をくみあげていくのだ。


「もうちょい右、ちがう、ぎゃくだ逆。右もひだりもわかんねぇのかよ」

「クギがねえ。お~い、だれかとってくれ」


 とはいえ、冒険者にとって慣れない作業。四苦八苦しくはっくしながら進めていく。


「俺からみて右だっつーの!」

「わかんねぇよ!!」


 なんか、ほほえましい。

 最初はだれだってうまくいかない。それでも、ちからを合わせればなんとかなるものだ。


「おい! おまえの目の前にあるのはなんだ?」

「あれ、おかしいな。さっきまでここにクギなんてなかったのに……」


 精霊たちだってほら、こっそりクギを運んだりと協力してくれている。

 とくにクイックシルバーの子供たちは作業に興味しんしんだ。

 冒険者のよこをチョロチョロしながら、じぶんもお手伝いしようと覗きこんでいる。


「ちょっと誰!? いまオシリさわったの?」

「なんか寒気が……」


 しかし、あいつら急に成長したよな。

 ゴブリンから生気みたいなのを吸うごとに、からだがおおきくなっていくの。

 このぶんだと、一人前になるのはすぐかもなー。


 え? あ~、その人たちはダメ。

 吸っていいのは俺がGOサインだしたやつだけね。


 半透明のつぶらな瞳をむけてくるチビクイックシルバーに言ってきかす。

 ふふふ、ほんとほほえましい。

 俺も子供ができたらこんな感じなんかね? 

 

 ちなみに、建築場所の整地は俺がやった。夜中のうちに土魔法でパパパっと。

 よくあさ、不自然すぎるほど平らになった地面に皆ざわめいていたが、「考えるな。手をとめると干からびるぞ」とハッパをかけると、元気よくしごとにとりかかってくれた。

 いや~、頑張り屋さんばかりで助かるな。



 村のまんなかに並ぶのはテントだ。

 冒険者のとりあえずの寝床となっている。

 彼らにはしばらくここで寝起きしてもらい、復興に汗水たらしてもらうことになる。

 宿泊施設ができるまでのガマンだ。

 いずれ商人や旅人、冒険者といったものたちが安心して寝泊まりできるおおきなものをつくるつもりだ。


 ガンガンガン。

 金属音がなりひびく。

 みればブロッコリーあたまの冒険者がおたまでナベを叩いていた。


「昼食のじゅんびができました~」


 想像どおり彼は料理がじょうずで、村のおんなたちといっしょに炊き出しをしてくれている。

 ボケ~っと突っ立っていたときは頼りなく感じたが、これでいがいと重宝する人材なのだ。

 冒険者としてのギラギラした部分がなく、おんなたちにうまく溶け込んでいる。

 それでいて、物怖ものおじするようすもない。

 

「あ! サモナイトさん。よかったら食べていってください。すぐよそいますんで」


 ブロッコリーあたまの冒険者は寸胴ずんどうなべからなにかをすくうと、うつわにそそぎ俺に手わたした。

 ん? これは肉じゃがか? つゆ多めの。

 そうか、家畜をゴブリンに殺されてしまったからな。

 ちゃんと食べてやるのがせめてもの供養か。


「いや~、いいヤサイですね。つくるのが楽しくってしょうがないですよ。あ、そうだ。タマゴとか手に入らないですか? あると料理のはばがひろがるんですよねー」


 なるほど、タマゴか。

 ほかにも牛乳やチーズ、その手の畜産物をセラシア村でとりあつかうのはいいかもしれん。

 俺の農場でつくったところで利点がないからな。

 こうした遠慮のない意見は貴重だ。気づかされることがおおい。

 ほかのやつらは怖がって言ってこないからな。

 こういうやつを大切にしていかないと、しらないうちに自分を見失って、いつのまにやら破滅に突きすすんでいた、なんてことになりかねん。


「わかった、タマゴだな。安定して入荷できるように手をうっておこう」

「あざ~っす」


 そうこうしているうちに、村の入口からガヤガヤと騒がしい一団がやってきた。

 先頭はフィリップ騎士。

 どうやら追加の労働力を運んできてくれたようだ。


「サモナイトさん、連れてきました」

「おつかれ。技術者は?」


「土木、外構がふたりづつ。あとは冒険者です」

「完璧だ。よく短時間でそろえたな」


 土木は大工や左官など家をたてるのに精通した技術者だ。外構は造園や道路、排水といった周囲の環境を整えてくれる技術者。

 どうせならしっかりとしたものをつくってしまおう。

 区画もきれいに整理して、いざとなったら村ではなく街として独立できるレベルの。


 べつに村人が家を建てられないってワケじゃない。

 資材と人員さえあれば自分の住居ぐらいはつくれる。

 じっさい彼らの家は、村人総出で一軒一軒たてたものだ。

 だが、宿泊施設、軍事施設や貴族の邸宅などは手にあまるだろう。

 そこで専門家の知恵をかりる。

 彼ら指導のもと、核となる重要施設をつくってしまうのだ。

 やるなら早いほうがいい。領主の軍が不在のうちにやれるだけやってしまおう。

 

 そうやってフィリップと会話していると、ひとりの冒険者が割ってはいってきた。


「なんだあ~? オマエ誰にエラそうな口きいてるんだあ? フィリップさんはもう騎士さまだ。いつまでも冒険者のつもりで――うぼぁ!!」


 どうやら俺のことを知らない冒険者だったようだ。

 じゃべっている途中でとなりのイカツイ冒険者に腹パンされて、うずくまっている。


「ヘヘ、あとでよく言ってきかせますんで」


 腹パンした冒険者はペコリとあたまを下げると、「オラ! 来い」とうずくまる冒険者をムリやりひっぱっていく。

 こいつなんか見覚えあるな。セラシア村のゴブリン討伐にいった中にいたんだろうな。

 

 う~ん、あんまり好きなタイプじゃないんだが、空気をよむちからは人一倍ありそうだ。

 組織として取りこむのもアリっちゃアリか?


 ……それにしても、最近は目まぐるしく環境が変わるよな。

 こないだまで冒険者だったフィリップは士爵で、俺はさらに上を目指している。

 人生なにがあるかわからないものだ。


 ――いや、まてよ。

 俺はフィリップを表にだして、裏で暗躍する予定だよな。

 じゃあ、さっきみたいな会話はよくないんじゃないか?


 すくなくとも皆の見てる前ではフィリップをたてなきゃダメだ。

 以前フィリップが俺にしていたように。


 うん、やっぱり遠慮のない意見は為になるな。

 それをジャマするイカツイ冒険者もヤッパいらない。


 まあ、働きがよければフィリップがとりたてるだろ。

 そこは彼のはんだんにまかせよう。


「フィリップ卿、わたくしは商売にいかねばなりません。建築の指揮および監督をおねがいします」

「え? あ、卿?」


 とつぜんの口調の変化にフィリップはとまどっているようだ。

 まあ、俺の心情のうつろいなど知るよしもないからな。


「では、失礼します」

「ちょ、急に指揮とか言われましても……」


 だいじょうぶ、君ならできる。

 そんな不安そうな顔をするな。ちゃんとバックアップしてやるからさ。

 かつぎあげた以上は、最後までめんどうをみるよ。


 つーかさ、金がないのよ金が。

 ヤサイ売らないと皆に給料はらえないのよ。


 はやいとこ商売を軌道にのせないとな。

 俺なしでも勝手に売り買いしてくれるルートを構築していかないと。

 ハア、やるべきことは山積みだ。

 誰か俺をうしろからささえてくれ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ブロッコリー頭の人…料理達者?…イナズマイレブ○の三国先輩!!?
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