五十七話 フィリップ騎士と俺の野望
ほんじつ二話め
いちおう五十六話のつづきてきなやつ
「サモナイトさん。じつは領地をいただくことになりまして」
そう語りかけてくるのは、イケメン冒険者あらためフィリップ騎士だ。
領主が恩賞として治める土地をくれるのだという。
このパラライカの街の領主はグロブス・ハンフリー・フォン・パラライカ。オットー子爵の子供にあたり、パラライカ地方をおさめる子爵である。
「セラシア村だろ?」
「はい」
まあ、予想通りだ。
セラシア村はゴブリンに荒らされてしまった。復興には金がかかる。
領主にとってみれば不良債権でしかない。できれば誰かに渡してしまいたいのだ。
村をすくった英雄がその地を治める。
世間からみれば美しくうつるかもしれない。しかし、じっさいに立て直すのはひとと金だ。英雄の名声ではないのだ。
フィリップとしてはやっかいごとをしょい込む形だ。できれば断りたいだろう。
だが、性格のいい彼だ。村人をみすてるのかと問われれば反論にこまるにちがいない。
まったく。セコイ手だな。
領主としては、フィリップがうまく立て直せればそれでよし、ダメなら召し上げればよい。
そもそも士爵は一代かぎりだ、いずれにしてもじぶんのところに戻ってくるのだからな。
「で、受けたんだよな」
「はい。ほんとにこれでよろしかったのでしょうか?」
フィリップにはもし領地をたまわることがあったら受けろと言っておいた。
じぶんが金銭のめんどうはみるからと。
ふふん、ハンフリー領主はしらない。フィリップのうしろに俺がひかえているのを。
フィリップは末端だが、貴族になった。彼をくさびとしてパラパイカ一族にうちこんでやるのだ。
乗っ取りだ。俺がこのパラライカ地方をぎゅうじってやる。
セラシア村はおおきくなる。領主の想像をこえて。
特産品はやさいだ。俺の農場でとれたやさいたち。
産地をぎそうするのだ。セラシア村を拠点として農場でとれたものを売りまくる。冒険者をつかって。
いずれ流通のカナメはセラシア村になる。俺に富があつまるようになる。
あとは、じょじょに侵食してやればいい。パラライカの街に根をのばしていけばいい。
俺にはクイックシルバーをはじめ、ルディーがいる。諜報しゅだんには、ことかかないだろう。
貴族社会のメンドウごとはオットー子爵にまかせればいい。
なんたって、彼は元領主だからな。
ああ、そうか。
それを考えれば、「乗っ取り」ではなく「返してもらう」かもな。
パラライカ地方は彼のもの。彼のものは召喚主である俺のものなのだ。
「あ、それとひとつ耳にした話がありまして」
フィリップがふたたび語りかけてきた。
なんだろ、話って。
「領主の話か?」
「いえ、ゴブリンです。巣がみつかったそうです」
「しってるよ。ギルドが駆除したつもりが本隊はべつにいたってやつだろ」
「ええ、そうなんですけど、微妙に話がちがってまして」
「なんだよ、微妙にちがうって」
「駆除した以外にも、もうひとつ巣があったんです」
「もうひとつ?」
「ええ、キングとシャーマンはそこにいたのではないかと」
あー、なるほど。巣わかれか。ハチでいう分蜂。
ゴブリンどもは巣が手狭になって別に巣をつくったんだ。そこをギルドが叩いたんだな。
で、襲撃にいちはやく気付いたやつがキングに助けをもとめ、キングもそれにこたえて部隊をひきいていったんだ。
しかし、巣はすでに全滅。冒険者も引き返したあとだったと。
キングは生き残りと合流すべくセラシア村にむかって、俺たちとはちあわせしたんだ。
なんでいまごろキングがと思ったのは、そういうことだったんだな。
「で、その巣はどしたんだ?」
「ギルドが冒険者をあつめ、叩きました。さいわいキングもシャーマンもおらず、すぐに駆除できたようです」
そりゃよかった。
つーか、こっちばっかり苦労して、そのぶんギルドと領主に楽させてる気がするんだけどな。
「まあ、これで脅威は完全になくなったってこった。セラシア村はしばらく復興に集中できるじゃないか」
そうフィリップに言ったが、彼の顔はしずんでいた。
「それがですね、こんかいの話にふずいして、ちょっと妙な噂を耳にしたんです」
なんだよ。まだあるのかよ。
「それは?」
「北の方がなにかキナくさいと」
「キナくさい?」
「ええ、どうやら領主さまは軍隊を北に派遣してるみたいなんです」
マジかよ。そうか。だからゴブリンの駆除に冒険者をつかったのか。
軍をださないんじゃなくて、だせなかったんだ。
う~ん、どうすっかな。
北か。行商のルートだよなあ。
南に変更するか?
いや、どうなってるか確認のためにも北のフォミール砦まで足をはこんだほうがよさそうだ。
なんかあったとき、まずセラシア村が被害にあうしな。
まったく。なんやかんやと忙しくてしょうがねえ。
復興と乗っ取り、行商と北の動向か。
どうじに進めていくしかないか。
「フィリップ。セラシア村の復興を急ピッチですすめるぞ。農地だけでなく防壁も作らにゃいかんかもしれん」
「はい」
「領主から金はもらってるんだろ?」
「復興金としていくらばかりか」
「人材は?」
「ことわりました。そのぶん資金を上乗せしてもらいました」
上出来だ。
領主にゃ、へんに首をつっこんでほしくないからな。
※貴族のなまえについて。
ドイツ語圏では「個人名 + 爵位・封号 + フォン + 姓」となるようです。
ですがこの世界のこの地方では「個人のルーツ+ 名前+ フォン + 家系となっています。
オットー子爵ですと、
「メーガン・オットーネル・フォン・パラライカ」
メーガン家をルーツにもった・オットーネル君は・パラライカ一族ですよ、となります。
現領主「グロブス・ハンフリー・フォン・パラライカ」ですと、
グロブス家をルーツにもった(母方)・ハンフリー君は・パラライカ一族です、になります。
ほんとうならメーガンになるのですが、そこは母親の意向があったんですね。
なんで独自のルールにしたかって?
テキトーに名前をつけたからです。めんどくさかったので。
帳尻合わせです。