五十四話 ゴブリン軍団との対決
とまらない、ワラワラと湧いてくるゴブリンは百匹をこえた。
まるで悪夢だ。
みれば、ホブゴブリンも何匹かまじっている。
どうなってんだ?
いったいコイツらどこに隠れてやがった?
――いや、ちがう。
隠れてたんじゃない。進軍してきたんだ。
ゴブリンキングに率いられ、ここまでやってきたんだ。
あらわれたゴブリンたちはキングのうしろで立ち止まると、こちらをみすえる。
守るのではなく、うしろに控えるのか。
かんぜんなる上下関係でなりたっているのだろう。
ゴブリンキングはユラリと立ち上がった。
やけただれた顔でこちらをニラむ。
ふははは、面白れぇじゃねか。
それがお前の軍団か? こんどは数で押そうってか?
いいだろう、あいてをしてやる。
俺だって組織をつくっているんだ。こんなサルどもに負けてられるか。
ナイフでスパリと手のひらを切ると、ながれでる血を地面にたらす。
出し惜しみナシといこうじゃないか!
「喚起魔術。血判召喚!」
地面に描かれた魔法陣が血を吸い、ボコリと隆起する。
俺の切り札だ。血をささげ、一時的な依り代とする。
隆起した魔法陣はゴボゴボとあわだつと、契約した精霊たちをあふれださせた。
ミセス・マーブルとその子供たち。
大地の精霊ノームの軍団。
真っ赤にもえる鬼火が二体と、つぎつぎと現れてくる。
シルフもいる。
今回だけよと彼女はウィンクをする。
そして、ルディーだ。
ふたまわりほど大きくなった姿で、はねをブルリとふるわせた。
「マスター、あいかわらずモテモテだね。あんなムサ苦しいのいっぱい呼び寄せちゃって」
ぬかせ。
俺のせいじゃねえよ。
「ゴアアアア!!」
ゴブリンキングが雄たけびをあげた。
ゴブリンたちがいっせいに駆けだす。
「オラ! こっちもいくぞ!!」
精霊たちもうごきだした。
まず先手を打ったのはミセス・マーブルだった。
キアアアアと金切り声をあげると、前方にいたゴブリンのうごきをとめる。
衝撃波だ。鼻、口、耳、目とあらゆるとこから血を流すゴブリン。そのまま地面に倒れ伏すと、ビクビクと痙攣した。
こわ! なんだよアレ。
屋敷で食らわなくてよかったよ。
つぎに仕掛けたのは鬼火だ。おおきく体をふくらませると、ボオオと炎をふいた。
すさまじい火力だ。ゴブリンたちをやきつくしていく。
「ふははは。圧倒的じゃないか」
ゴブリンたちは左右に逃げようとする。が、そうはいかない。
とつじょ現れた土の壁に進路をはばまれる。
ノームだ。ノームが土魔法で防壁をきずいたのだ。
「よ~し、一網打尽じゃい。鬼火よ、ぜんぶやいてしまえ」
が、そのとき、またもや白いモヤがただよってきた。
火のついたゴブリンともども、鬼火のからだをつつみこんでいく。
あ、シャーマンか。
――だが、させるか!
「シルフ!!」
「まかせて!!」
一陣の風がふいた。
それは白いモヤをまたたくまに散らしていく。
はははは。ざんねんだったな。
同じ手をなんども食らうわたしではない。
オットー子爵、そのシワシワヨボヨボをやっておしまい!!
地面の下をぬけ、忍び寄っていたオットー子爵は、ゴブリンシャーマンに取り付くと、おおきく息をすった。
お! 金切り声か? オットー子爵もつかうのか。
ゴブリンシャーマンはからだをふるわせた。
すると枯れ木のようだった腕はますます乾燥し、骨と皮だけになる。
生気を吸ってるのか?
怖っ! クイックシルバー、こわっ!
もちろん腕だけではない。全身ミイラと化したゴブリンシャーマンは、二回りほど小さくなって地面にたおれた。
ははは。もはや勝利はゆるぎない。
だめおしの一手ものこしてあるしな。
「よ~し、あとはキングをおさえれば勝ちだ。おまえら、いけ!!」
かんぜんにおいてけぼりだった冒険者たちにGOサインをだす。
おいしいところをのこしてやったんだ。
名を売るチャンスだろ。さあ、いけ!!
だが冒険者どもは全力で拒否した。
イケメンですら首をよこにふっている。
なんだよ。俺にいけってか? 最後ぐらいがんばれよ。
俺が死んだら精霊たちはみんな消えちまうぞ。そしたらおまえらどっちみち助からんぞ。
まあ、しゃあねえか。
「俺がキングをやる。おまえらはザコをやれ。ルディー、ついてこい!!」
「アイアイサー」
ゴブリンキングにむかって駆けだした。