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五十三話 おたけび

 黒髪のイケメン冒険者と村人が話しているところに割ってはいる。


「みなさん、ご無事ですか?」

「え、あ、あんだは?」

「商人のサモナイトさんです。こんかいの戦いの指揮をとっていただきました」


 村人の質問にすかさずイケメンがこたえた。

 スゲーなコイツ。ちゃんとこちらを立てるように紹介しやがった。

 俺の組織にとりこむには少々、能力が高すぎる気がするな。ちょっと保留だ。


「サモナイトです。すぐに温かい食事を用意させます。足りないものはありますか? できるかぎりの援助はします」

「へ、へえ」


 ペコリとあたまをさげる村人だったが、かなり顔がやつれている。

 眠れぬ夜をすごしたのだろう。


「では、わたしがお手伝いします」


 イケメンがシュタっと手をあげた。

 食事の用意を? きみが?


 いいヤツだねー。しかも、お手伝いときたもんだ。あくまでこちらを立ててくる。

 こころもイケメンか。好感度、はなまる急上昇ですよ。

 でもまあ、きみにはほかにしてほしいことがある。べつのやつをみつくろう。

 イケメンを手で制すと、となりにボケーっと突っ立っていた冒険者に「おねがいできるか?」とつげた。


「あ、はい」


 くちが半開きの彼は、戸惑いながらも了承してくれた。

 ありがとね。食材は自由につかってくれていいから。

 それにしても、この冒険者は髪の毛の量がすごい。去っていく後ろ姿は、まるでブロッコリーそのものだ。

 なんとなくおいしそうな食事をつくってくれそうな気がする。

 期待しているよ。



「けが人や、すがたの見えない方はいますか?」


 つぎにすることといえば、行方不明者の安否確認だ。

 さきほどは流されてしまったが、ふたたび村人たちに問う。

 すると彼らは、おたがいに顔をみあわせながら、「八人いねえだ」とこたえた。

 

 八人か。ふたり助けたからのこり六人。

 きびしいとは思うが、生きていてくれればいいが。


 ちらりとイケメン冒険者へ視線をむけると、彼はこちらを見ておおきくうなずいた。


「捜索にあたります」


 イケメン冒険者はクルリと背をむける。

 わかってるねー。そうだよ、それを頼みたかったの。

 もちろん、ゴブリンの残党もだが、言う必要はなさそうだ。


「待った、火のついた民家からふたりほど助けた。のこりは六人だ」


 俺がそう呼びとめると、イケメンはおどろいた顔をみせた。

 フッ、おまえにばっかりいいカッコさせるワケなかろう。

 これから組織をつくるんだ。できる男と、ちっとはアピールしとかないとな。



 そのときだ。

 ドン! とおおきな音がした。

 そのすぐあとに「ウォオオ」と大地をふるわせる雄たけびも聞こえた。


 みれば村のはずれの林から、二本足のなにかがすがたをみせている。

 なにアレ? あの棍棒をにぎりしめた、でっけーゴリラみたいなのは?


 ズウン、ズウン。

 ゴリラは地響きをたてながら走りだす。

 なんかすっごく危険な感じがする。


 縮尺がおかしいの。民家の屋根より背が高いの。

 えっと、あの家、小人さんのお住まいじゃないよね?


「まさか……ゴブリンキング!?」


 イケメンがさけぶ。

 うそ、あれがキングなの? はじめてみたよ。

 しかし、なんでいまごろでてくるかね?

 もっと早けりゃ、スタコラ逃げてたのに。


 ゴブリンキングは棍棒をふるった。

 民家の屋根がいっしゅんにして吹き飛ぶ。

 まるでオモチャの家だ。屋根をささえる太い柱が小枝にしかみえない。


 村人たちは悲鳴をあげる。

 アワアワと口はもつれ、腰はカクつき、右往左往うおうさおうする。


「みんな! 聖堂に入れ!!」


 イケメンにうながされ、村人たちが聖堂に逃げ込む。そのなかには冒険者の姿もある。

 オイ! 気持ちはわかるけど、せめて村人を誘導しろよ!



 ガゴン!

 聖堂の扉のかんぬきがかけられた。俺たちが入るまえに。

 オイオイオイ。

 締め出しかよ。見殺しにする気かよ。


 見渡せば、のこされた冒険者は七人。

 ――いや、三人逃げた! のこり四人になった。


 イケメン、赤毛の女、ヒゲのオッサン、そして……村長だ。

 村長!? いや、オマエは逃げろ。


 けっきょくのこった冒険者はたったの三人。

 鉄級が三人では時間かせぎにもなるまい。

 じじつ、イケメン冒険者は槍をかまえてはいるものの、穂先はおもしろいぐらいに揺れている。

 

 そら怖いわな。

 俺だって怖いもん。


 ――だが。


「火よ」


 手のひらに炎がともる。

 鬼火だ。

 くらえ!

 せまりくるゴブリンキングにむかって投擲する。


 まっすぐにすすむ鬼火。それはゴブリンキングの目の前で三つに分裂すると、それぞれ異なる軌道でおそいかかった。


 ハッハッハッ。ばかめ、魔法を使うあいてにまっすぐ突っ込んでくるとは。

 しょせんサルよのう。

 鬼火くん、コンガリ焼いておしまい!


 おそいかかる鬼火は三つ。

 ひとつはあたま。ゴブリンキングはかがんでかわす。

 もうひとつは胴体。ゴブリンキングはからだをねじってこれもかわす。

 そして三つめ。あしもとだ。これはかわせまい。

 だがゴブリンキングは棍棒をすくいあげるようにふるうと、パシンと鬼火を砕いてしまった。


 うそ!

 三つの動きはほとんど同時。おそるべきゴブリンキング。

 あの巨体で驚異の俊敏性。


 しかし! 鬼火の怖さはここからよ。

 くだけた鬼火は火の粉ととなって、ゴブリンキングにふりそそいだ。


 ボウ!

 ゴブリンキングはまたたくまに、炎につつまれる。

 ハッハッハッ。

 勝負あったな。


 ゴブリンキングは地面にはいつくばると、ゴロゴロと回転して炎をけそうとする。

 ムダムダ。

 そんなことじゃ鬼火の炎はきえたりせんよ。


「ゴアアアァ~!!」


 断末魔だ。

 こちらへむけて手をのばすゴブリンキング。

 その瞳は悔しさと憎しみに満ちている。


 そのときだ。しろいモヤがどこからともなく現れると、ゴブリンキングをつつんだ。


 え? なにあれ?

 ジュウジュウと音を立てて水蒸気がのぼる。

 みるみる炎はちいさくなっていく。

 やがてモヤが消えたときには、鬼火の炎もすっかり消えてしまっていた。


「みて! あそこ!」


 赤毛の女冒険者がさけんだ。

 彼女がゆびさすのは、焼け焦げた民家のとなり。

 木の仮面をかぶった老人が、あやしくたたずんでいた。


「げ! ゴブリンシャーマン」


 緑のからだに曲がったせなか。

 枯れ木のような腕がにぎるのは、先端にしゃれこうべがついた杖だ。

 マジかよ。サイアクのとりあわせじゃねえか。


「ギギャギャ!」


 おくの林からなにかが飛び出した。

 緑色のサル。――いや、ゴブリンだ。


「ギャ!」

「ギギャ!」


 二匹、三匹と、つぎつぎと現れるゴブリンたち。

 あれよという間に、数十匹にふくれあがる。


 げげ! じょうだんだろ?


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