五十話 個性がでる
「いたぞ、ゴブリンだ!」
牛の死骸にかじりついていたゴブリンをみつけると、冒険者はおそいかかった。
多勢に無勢。ゴブリンも木の棒をにぎり応戦するも、あっというまに取り囲まれて打ち倒されていく。
「一匹にげたぞ」
「追え! なかまに知らさせるな!」
せなかを向けて駆けていく一匹のゴブリン。そこへ一本の矢が突き刺さる。
「ヨシ!」
射ったのは赤毛の少年だ。
いい腕してる。コイツはチェックだな。
村に到着してすぐ、戦いへと突入した。
俺の役目は後方支援。いまは武器を手渡すのがしごとだ。
「ほかに弓を使えるやつはいるか?」
サッと手をあげた者に、馬車に積んでいた弓と矢をわたす。
安物だが買っておいてよかった。
フォミール砦で売れるかと思い、いくつか仕入れておいたのだ。
「盾をくれ」
「こっちは槍だ」
積んである武器をおしげもなく彼らにわたしていく。
これも売りものだが緊急事態だ。あとでギルドに請求してやる。
「オイ、そいつは俺の盾だ」
「うるせえよ、どっちもおんなじだろ」
おっと、冒険者の私物をまちがえてわたしてしまったか。
移動を優先したため、かさばるものはあずかり、馬車につんでいたのだ。
「あるものを使え。なくなったらちゃんと弁償してやっから。ほら、ボヤボヤしてっと稼ぎそこなうぞ」
ぶつくさ文句をいう冒険者のせなかを押す。
どうせ鉄級冒険者のそうびなど安物の量産品だ。買いなおしたところで、さほどの出費にもなるまい。
「聖堂にむかう! 何人かついてきてくれ」
なにやら叫ぶ者がいる。みれば槍を手にした黒髪の青年だ。
精悍な顔つきで、ガタイもよく自信にあふれている。
「俺がいく」
「俺も」
多くの者が彼とともに駆けていった。
なかなか面白いな。
まっさきに敵の集まってそうな場所へ向かう者、その背を追う者、危険がないか焦らず確認しつつ進む者、はやくも個性がみえてきた。
へたに会話をかわすより、よっぽどひととなりがわかるってもんだ。
行商に連れていく者はまだ決めていない。この戦いをみて考えようと思う。
雇い入れだが、とりあえず全員と契約をむすんだ。
どうせ仲介料はかからないんだ。わざわざ戦いの前にモチベーションをさげるひつようもない。
選ばなかった者には日当をわたし、契約を打ち切ればよい。
おたがいにとって、それが一番いいかたちに落ち着くだろう。
「バケツをくれ!」
あわてて駆け寄ってきた冒険者がひとりいた。
バケツか。燃えた家を消火しようというのだろうか。
外からみえていたケムリはこれが原因だ。
ゴブリンどもが民家に火をはなったのだ。
やつらは火を恐れない。自分で火をおこすことはしないが、かまどの火を利用するぐらいの知恵はある。
略奪に飽きたころに、こうやって面白半分に火をはなつのだ。
とはいえ、いまは消火より討伐だろう。
「貸すのはかまわないが、先にゴブリンを排除したほうがいいんじゃないか?」とこたえる。
「家の中から声がきこえる。誰か取り残されてるんだ!」
「なんだと!」
冗談じゃない。俺の目の前で焼死なんかさせられるか。
「どの家だ? 俺もいく」
いちど燃えた家は、そうかんたんにバケツの水なんかで消えたりしない。
オットー子爵にもついてこいと合図をおくると、冒険者に案内させた。
――――――
「あれだ」
冒険者が指さすのは一軒の民家。
なるほど、盛大に燃えている。
いや、こりゃムリだろ。
戸口に放ったであろう火は、すでに屋根まで燃え広がり、どうかんがえても水をかけたていどでは消えそうにない。
「ほんとうに中にいるのか?」
「ああ、たしかに聞こえた、こどもの声だ」
チッ、のんびりしてはいられない。みせたくなかったがしかたがない。
すでに声はきこえないが、もう死んでると割り切れるほど俺はドライじゃない。
「大地よ、ちからを貸せ」
ノームのちからだ。地面がもりあがると、はじけ、火のついた家に土砂をかぶせていく。
いいぞ、農地ほどではないが、土魔法の威力はなかなかのものだ。
俺の能力がそこあげされたからだろう。
四回、五回と土砂をかぶせると、炎はやがて鎮火した。
よし、オットー、出番だ。
俺の合図とともに、子爵は壁をすりぬけて中へとはいる。
生存者の捜索と、念動力で家をささえてもらうのだ。
焼けたうえに土砂とくれば、いつ家が崩れ落ちてもおかしくない。
これから俺も入るんだ。生き埋めはゴメンだ。
ふたたび土魔法で土砂をよける。
玄関がみえた。
すすだらけの扉をけりとばし、なかへと突入する。
「コホコホ」
くそ、けむてえ。
風魔法で空気をいれかえる。
どこだ? 生きててくれ。
ケムリが外へとながされ視界が確保されると、部屋のすみでたたずむオットー子爵をみつけた。
クソ、だめか?
オットー子爵のうしろにあるのは、うすよごれた毛布だけだ。
――いや、まてよ。
毛布はやけに盛り上がっている。
あの下か!
駆けよって毛布をはぐ。
すると、母親らしき女と、そのうでにつつまれた四歳ぐらいの子供をはっけんした。