表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/180

四十九話 行商(?)へいく

 冒険者の数は五十人はくだらない。

 いくら交易都市とはいえ、ひとつの依頼にあつまるには数が多すぎる。


「ええっと、これは……」

「じつは領主さまより緊急要請がはいりまして」


「はい、はい」

「村をおそったゴブリンを討伐せよと」


 だから軍をうごかせよ軍を。


「しゅったつ前にこの中から選んでいただこうと思いまして」


 ああー、なるほど。

 ゴブリン討伐に駆り出されてみんないなくなるから、その前に選ばせてくれるってことか。

 なかなかやるじゃん、この受付嬢。

 だから急いでたんやね。かんしん、かんしん。


「討伐にあたり、領主さまのほうから補助金がでまして」

「へえ~」


 兵士をだすかわりに金をだすってことか。

 それはそれでアリかもな。


「ですので、サモナイトさんの冒険者仲介料もそちらからださせていただくことに」

「ほう!」


 どさくさまぎれに俺がだすべき金を領主にださせるってことやね。

 すげーじゃん、超ヤリ手じゃん。


「それで、サモナイトさんがする彼らへの後方支援にあたってですね」


 ふんふん、後方支援ね。

 ……後方支援?


「ちょ、ちょっと!」

「はい?」


「後方支援って、彼らゴブリンの討伐にいくんですよね」

「はい、そうです」


「わたしは行商にいくんです。セラシア村へ行って、それからサーパントの街へと」

「ええ、存じております」


「それがなぜ、後方支援に?」

「ゴブリンが村を襲ったからですね」


 ん? んん?

 話がループしとるんやが……


 ――いや、ちょっとまてよ。なんかイヤな予感が。

 もしかして。


「あの……ゴブリンが襲った村というのは?」

「セラシア村ですね」


 ふぁ~!!


「幸い、セラシア村はここから半日の距離です。いますぐ向かえば、日暮ひぐれまでに到着できます」


 いやいやいや。


「水、食料はギルドのほうで用意させていただきました」


 いやいやいやいやいや。


「さあ、ご準備を!」


 ご準備をじゃねえよ。てめぇ、ハメやがったな。

 冒険者の意気込みのイミがわかった。

 これはボーナスステージなのだ。

 もともとのゴブリン討伐の賞金に領主の補助金がのる。

 そこへ行商の賃金まで加わればかなりの額になる。


 おまけに食い物の心配はいらない。よぶんな荷物も持たなくていい。

 依頼に応募がさっとうしないワケがない。


「みなさん、こちらのサモナイトさまは領主さまの方(方角)から来られました。くれぐれも失礼のないように」


 受付嬢は冒険者にむけて高らかと宣言した。

「おお!」と冒険者から歓声があがる。


 クソッ! やりやがった。なにが領主のほうからだ。

 古臭いことばあそびしやがって。これで冒険者は名を売るタメに必死になる。いまさら行きませんとは、とても言える雰囲気ではない。


「サモナイトさま。馬車のご準備を。冒険者たちに荷物のつみこみをさせますので!」


 このガキ。


「オイ」

「はい」


「オマエなまえは?」

「ミーシャと申します」


「覚えたぞ」

「はい、ありがとうございます。いつでもご指名ください」


 そう言って受付嬢はあたまをさげるのだった。




――――――




 カラカラと車輪はまわり、地面にわだちを残していく。

 馬車の前後をまもるのは総勢62人にもなる冒険者のむれだ。

 野生動物のみならず、魔物すらよりつかないほどの大部隊。

 森の峠道も、なんのトラブルもなく、さきへさきへと進めている。


 ふいに視界が開けた。

 もうすぐタムリン峠を超える。やがてセラシア村が見えてくるハズだ。


「さすが領主さまの馬車だっぺ、上り坂でもグングンすすんでいくだもな」


 御者台にすわる俺に村長が話しかけてきた。

 そうなのだ。彼はやはりセラシア村の村長だったようで、ちゃっかりと馬車に乗りこんできた。

 名はドイターというらしく、欠けた前歯もあいまって、なんとも憎めないキャラである。


 それにしても……

 かんぜんに領主の関係者にされてしまった。メンドクサイので訂正する気もおこらない。


 まあ、あるいみ関係者だけどな。

 ドイター村長には見えていないが、俺のよこにはオットー子爵がすわっているのだ。

 馬車の動力源は彼だ。

 マーブル夫人とどうよう、彼は念動力でものを動かすことができる。

 その力で上り坂だろうがなんだろうが、馬車はみるみるすすんでいくのだ。


「ゴブリンの数は?」

「わかんねぇども三十以上はいたっぺな」


 三十か。数の上では楽勝だが、村を襲ったのが先発隊の可能性もある。

 到着してみればゴブリンだらけとなっている場合だってあるのだ。


「村のひとたちはどうした?」

「聖堂にたてこもってるだ。まだ持ちこたえてくれてるとは思うんだども」


 聖堂か。石づくりだな。備蓄もあれば二日はもつか。

 ゴブリンの思考は短絡的だ。

 人がいれば、まず人を襲う。

 だが、すがたが見えなければ家畜をねらうのだ。

 つぎに作物。そうして目についたものから、かたっぱしに荒らしていく。


 ギリギリだ。

 村長がにげだしたのが二日前の夜。

 ならゴブリンどもは、そろそろ家探しにむかうころだ。

 

「見えただ! あれがセラシア村です!!」


 村からはケムリがあがっている。

 あれが家畜を焼いてるのならいいが、聖堂をいぶしてるのだとマズイ。


 クソッ、俺だって元冒険者だ。

 魔物に食われた凄惨せいさんな死骸だっていくつもみてきた。

 親をうばわれて泣き叫ぶこどもも。


 どうせやるなら、少しでもおおく助けたい。

 家族のまえで遺体を埋める作業なんてまっぴらゴメンだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ・ゴブリンに襲われてる村に丁度行商に行く予定の商人がいる ・セラシア村へ向かう護衛は討伐隊を当てて、代わりに商人は後方支援にあてる ・討伐を面接代わりにしてセラシア村以降の護衛を決めさせる材…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ