四十六話 依頼書のさくせい
受付嬢の質問にこたえていく。
「どちらまで行かれますか?」
「タムリン峠をこえてセラシア村へ。そこからサーパントの街を経由してフォミール砦まで。帰りはそのままのルートで街まで戻ってきます」
ここから北に位置する主要な施設をひとまわりする形だ。
道中の地形もばっちりあたまに入っている。事前にオットーネル子爵から聞いていたのだ。それをもとに、そらとぶ船で下調べをしてある。
ちなみに今いる街は、交易都市パラライカだ。
パラライカ地方の中心部にあたる。
そして、この地方をおさめるのがパラライカ家。オットー子爵の一族だ。
オットー子爵の正式な名はメーガン・オットーネル・フォン・パラライカだった。墓標にはフォン以降がしるされていなかったが。
毒殺した夫人の意向があったのだろう。なんとも気の悪い話である。
「それですと、かたみち七日ほどでしょう。ちょうど冒険者に喜ばれる日数だと思います。よほどのことがないかぎり、志願者は複数あらわれるのではないでしょうか?」
受付嬢のことばにうなずく。
そうでしょう、そうでしょう。
俺だって元冒険者だ。彼らの気持ちは誰よりもわかる。
まとまった金がはいりつつも、長すぎない絶妙の期間をえらんだ。
おたがい知らぬ者どうし。こちらが警戒するとどうじに、むこうだって警戒するのだ。
リスクと利益をてんびんにかけるのが冒険者だ。あたらしい秤は重すぎず軽すぎずってね。
「護衛は何人ほどお連れになりますか? 予算をきめていただければ、こちらで算出もできますが」
予算からみつくろってくれるのか。ずいぶんとサービスがいいな。
成り立ちがおなじでも、俺のいた冒険者ギルドとはだいぶ違うのかもしれないな。
さすが、交易都市といったところか。冒険者もギルドも質がよさそうだ。
とはいえ、俺の目的は人材獲得だ。旅をとおして人となりをみていきたい。
ここは若手を中心に数をそろえたいところだ。
「いや、もう決めた。鉄級を五人ていどだ」
「五人ですね、かしこまりました」
ひとりあたりの日給が銅貨20だから五人で100。往復14日で計算すると1400。
仲介料をいれると1500か。けっこうな金額だな。
銅貨で支払うとなるとすごい枚数になる。
こりゃしっかりと小銭を用意しとく必要がありそうだ。
「あと食事はこちら持ちだ。荷台に荷物、交代で人員をのせることも許可しよう」
「それは! かなりよろこばれるでしょう」
あるていどの食材をよういできるのが俺の強みだ。
馬車に関してもかんがえがある。
自分の利点を最大限にかつようしていこうじゃないか。
「賃金はどうされますか?」
受付嬢のことばに、しばし考える。
うん、そうだな。大盤振る舞いすぎるのもウサンクサイしな。
裏があるんじゃないかと勘繰られても困る。
多少は値下げしておくべきだろう。
しかし、その金額だが……
「相場がよくわからない。どのていど値下げすべきだと思う?」
「そうですね……わたしから値下げ金額を提示することはできませんが、過去の例からいって、まかないつきなら半額でもじゅうぶん応募者があつまってますね」
半額か……
「じゃあ、銅貨15まいにする。ただし、このへんの地理にくわしく、犯罪歴がないことが条件だ」
「……はい。承知しました」
受付嬢のへんとうに一瞬、間があった。
たぶん犯罪歴のぶぶんに引っかかりを覚えたんだろう。
冒険者は荒くれものが多い。社会からドロップアウトしたものの受け皿となっている面があるのだ。
現在進行形で罪をおかしてるならともかく、犯罪歴そのものの否定は冒険者ギルドの否定につながりかねない。
――まあ、俺のしったこっちゃねえな。欲しいのはマジメにコツコツ仕事をしてくれる者だ。
荒くれものは魔物退治に精をだせばいい。
適材適所ってやつですよ。
ここで、ふと、自分はどうだったかと思い起こした。
冒険者だったんだから、きれいごとだけでは済まなかったけど、それでもけっこうマジメに生きてきたハズ。犯罪とまで言えるようなことは……
――あったわ。ちゃんと犯罪歴が。
それも特大。なにしろ金貨1000まいの賞金首だ。国家転覆をねらったぐらいの歴史的犯罪者だな!