三十八話 あたらしい街
俺たちは旅をさいかいした。
朝と昼はだれもいない空のうえ、ルディーとキャッキャッキャッキャッとさわぎながらも、ときどき地形を地図にしるす。
夜は農場へかえって花と作物にかこまれてねむる。
そんなハードな冒険をくりかえすこと数日、ある大きめの都市をはっけんした。
都市には城壁もなければ門もない、おおくの人や馬車がいきかうすがたが見える。
これはいい。
出入りのせいげんは流通のさまたげになる。流通なくして発展はない。
まずは商人をめざす俺にとってかっこうの場所。
ここを新天地とさだめ、勢力をかくだいしていくとしよう。
ちなみに契約した精霊はさらにひとりふえた。
花の精霊デイジーだ。おれがあのせかいではじめて会った精霊、あのふしぎちゃんと契約した。
彼女の能力はたいしたことはない。手にした植物にポコっと花をさかせるていどだろうか。
たたかいにはまったく活躍できないだろう。
それでもけっこう助けられている。
彼女との契約のほったんはルディーのひとことだった。
「ねえ、庭の管理どうするの?」と。
そうなのだ。庭の管理はルディーのしごと。しかし、俺とたびをしているあいだは放置するしかない。
うつくしい庭の維持にはかならず人の手がひつようだ。管理にせんねんするか、べつのだれかにたくすかだ。
管理にせんねん……それはイヤだ。
だって一人旅になるじゃん。ヒマだし、さみしいし。
てことで代わりをたてることにしたのだが……
「いやじゃ」
「……」
『ボワッ!』
ノームにはあっさり断られ、ドライアドには無視され、鬼火にいたってはなぞの威嚇をみせた。
威嚇はよーわからん。怒ってるのか、いきごみのあらわれなのか。
まあ、かりに了承だとしても鬼火では庭がやけ野原になるのが関の山だけども。
いちばんの適任は植物をあやつれるドライアドのハズなんだけどな。
しかし、あいかわらず彼女の考えていることがわからない。
俺のいのちをまもろうとしてくれているのは確かなんだが、それいがいは無頓着なのだ。
木としての生存本能はあるものの、手をくわえることをヨシとしない、おのれの死すら自然淘汰にまかせるというか。
そんなときに思い出したのが花の妖精だったワケだ。
さっそく交渉。
「おれの庭にきて」
「いいよ~」
あっさり。
「管理をまかせたいんだけど契約してもらっていい?」
「いいよ~」
「対価なんだけど」
「なんでもいいよ~。そのかわり追いださないでね~」
ぶじ契約。いいんだろうかこんな簡単で。
さいきん『追いださない』がパワーワードになってる気がする。
むかしさんざん苦労したのはなんだったのかと、ちょっと複雑なきぶんにもなってくる。ありがたいんだけどね。
もしかしてアレかな。管理者権限。
ジジイから俺にうつってんのかな?
庭から追いだすみたいに考えてたけど、ほんとうはちがうんじゃないか?
あの世界そのものから追放できる権限が俺にはあるのかもしれん。
まあ、よっぽどのことがないかぎり、試そうとも思わないけどね。
「マスター、じゅんびできたよ~」
ルディーの声でわれにかえる。
そうだ、これから街に入るんだ。集中しないと。
街からほどちかく、ひとめにつきにくい場所に扉をせっちすると、徒歩でむかう。
さあ、こんどはどんな出会いがあるんだろうか。
願わくば俺にとってやさしい場所でありますように。
――――――
「登録料、金貨二枚になります」
「たかっ!」
さっそくやってきたのは商人ギルド。聞けばお金をはらえば誰でも商売ができる権利をもらえるという。
しかし、登録料としょうしてお金をせびってくる。
まあ、ギルドの信用にもかかわってくるので、しかたのない面はあるのだが。
しぶしぶポッケから金貨二枚をだす。
ちなみにこのお金は戦利品だ。セバスチャンの服の内ポケットにはいっていた。
そのかず全部で十枚。これでのこり八枚となる。
「では、ここにお名前をお書きください」
名前、なまえか……
よし! エム・サモナイトにしよう。
もちろん偽名だ。だが、はっきり言ってかくす気などない名前である。
ここまで空飛ぶ船でやってきた。
男爵どもが追っ手をはなったとして、ここにたどりつくまで何日かかる?
徒歩か馬でトコトコ、テクテク。しかも行き先はわかっていない。
何か月、へたしたら年単位だろう。
それまでに手出しできないほどの力をつければいいのだ。
というか、そもそも倒すだけなら簡単なんだよね。
男爵の屋敷のうえまでコッソリ船でいどうすればいいんだから。
で、上空に扉をひとつせっちする。対になるもうひとつの扉は海にでも沈めてやればいい。
とめどなく海水があふれてくるハズだ。
街ごと壊滅だな。
しかし、そんなことはしたくない。
おれが望む復讐とはちがう。
そうだな……圧倒的な権力をえてあたまをさげさす。
さらにワナをはって追い込む。さいごは冒険者におわれてにげまどわせる。そんな屈辱をあじあわせてやりたい。
ふははは、そのときが楽しみだな!