三十七話 なかまが増える
扉をつくった。よっつほど。
しかも船で出入りがしやすいように大きめにだ。
がんばった。おれ超がんばった。風魔法だけでなく木の魔法、ドライアドのちからもつかってだけども。
まあ、それはそれとして、ちょっと気になることがある。
かまどだ。かまどの中になんかいるのだ。
農場にかえってきたときからおかしいと思っていた。なぜか、かまどの火が消えていないのだ。
火入れしてからずいぶん時間がたっているハズなのに。消えるどころかより元気に、もえさかっている。
薪なんかとうに燃え尽きてるはず。これはなんかあるなと。
で、のぞいてみたワケだ。
バッチリとあいましたよ目が。
「鬼火だ……」
炎のなかにギョロリと浮かぶ目玉がふたつ。まさに心霊現象だ。心臓にわるい。
召喚士によっては鬼火のことをウィルオウィスプと呼ぶが、これらは人の怨念が炎となったと伝えられている。
が、そんなことはどうでもよい。重要なのは彼らと契約できるってことだ。
精霊召喚士が契約できるんなら精霊だろって話なんだが、しょうじきよく分からない。
いずれにせよ、べんりかつ強くなれるのなら契約しない手はないわけで、近づきコミュニケーションをとろうとする。
が、『ボワッ！』
まるで威嚇するように激しくもえあがるのだ。
「ねえ、追いだされると思ってるんじゃない？」
うん、そうだろうね。とはいえ、もともと俺がつくったやつだしなあ。
つかってもらうのはぜんぜんかまわないんだけど、ちかづくと『ボワッ！』、ナベをのせようとすると『ボワッ！』なのだ。
これでは説得どころか調理すらできやしない。
「あたらしいのもう一個つくってみたら？」
ルディーはそう言う。
まあ、それしかないか。鬼火は話せない。ドライアドとおなじように望むものをこちらで察してやらねばならないのだ。
だからいろいろ提案した。
「それあげるから俺と契約して」『ボワッ！』
「もっといいやつ作るよ。それをあげるよ」『ボワッ！』
「ピザ窯とかどう？ パンだって焼けるよ」『ボワッ！』
う～ん。気に入らないのか、ことばがつうじてないのか。
「信用されてないんじゃない？」
うん、まあ初対面だしね。
口約束じゃだめだ。ルディーの言うように、あたらしいのをつくって見てもらうしかないんだろう。
しょーがない。
うんしょうんしょ、石をつみあげる。
こねこねベチャベチャ。粘土を塗っていく。
できた！
さすが二回目だけあって、さいしょのやつより大きくてキレイなかまどができあがった。
これでどうだ！！
「これあげるよ。だから俺と契約して」『ボワッ！ ボボボ』
お？ さっきとリアクションがちがうぞ。
激しくもえあがったとこまではおなじなのだが、浮かぶ目玉が前の方にでてきている。
なんというか身をのりだしてきてる感があるのだ。
「マスター、気に入ったんじゃない？」
そうだろう、そうだろう。今回のかまどは見た目にもこだわったからな。
川でみつけたピカピカひかる石とかを埋め込んでみたのだ。波のような模様をつけて。
「あ！ うごきだした」
鬼火はのそっとかまどから体をだすと、ゆらゆらと揺れながらあたらしいかまどへと飛んでいく。
なんかふしぎな絵ズラだな。
かまどからかまどへうつる鬼火。……ヤドカリみてーだ。
おっと、ボーッとみてる場合じゃねえ。契約だ。
「わが名はエム。なんじ鬼火との契約完了を、ここに宣言する」
ピカーとひかり、契約がおわったことがわかる。
で、鬼火はというと、あたらしいかまどで、どこか満足そうにメラメラともえていた。
「気に入ったのか？」『ボワワッ！』
ちがいがよーわからんが、たぶん気にいったんだろう。
鬼火の目がすこしほそくなっているようにも見える。
「ねえ、ねえ、マスター。あっちまだもえてるよ」
ルディーがゆびさすのは、古いほうのかまどだ。
え？ 鬼火がいどうしたのに？
見ればたしかに、まだ火がついている。
ん～なんだろ。ちかづいて覗いてみた。
目があった！
鬼火だ。
え？ まさか分裂した？
