三十三話 銀のバラ
まさか庭の花を盗んだから!?
いやいや、ないない。そのていどでギルド動かしてたんじゃ割りにあわんわ。
じゃあなんで……
あ! もしかして俺も銀のバラの一味だって思われてんの?
マジかよ。じょうだんじゃねえよ。
「男爵さま。どうもごかいがあるようです。わたしは盗賊ギルドとはなんのかかわりもございません」
「おや? わたしは盗賊とは言ったが、ギルドとは一言たりとも発していないが」
ん? んん? ……げ! しまった!!
「語るに落ちたとはこのことかね」
まって、まって、ほんとうにちがうの。
たまたまこの宿にとまってただけなの。
商売しようと立ちよっただけなの。
どう説得するか、あたまをフル回転させる。
しかし、男爵はそんな時間をあたえてはくれなかった。
「ながいあいだ盗賊ギルドの首領が誰だがわからなかった。まさか精霊召喚士として冒険者をよそおっていたとは」
ふぁ~!! だれが盗賊ギルドのボスやねん。
なにを言うとるんじゃ、このヒゲは。
「よく考えたものだ。銀のバラなどという過激派そしきをつくり、裏から支配する。おのれはいっかいの冒険者ズラをしながらだ」
つくってない。つくってない。
おれがつくってるのはジャガイモとニンジン。あとタマネギも。
「宿屋のおかみを要職につけつつも、そのじつ信用はしておらず、ひとじちとして娘をパーティーにいれ監視する」
ワオ!
おれ、すっげえ極悪人じゃん。
「あぶなくなったらパーティーを捨て逃亡。すべての罪を部下にきせて、おのれはのうのうとちがう職に就く」
捨ててねえよ。捨てられたの。
「まちがいはあるか? ないであろう! すべて裏はとれておる」
そんなワケあるか。一から十までまちがいだらけじゃい。
しかし、男爵はおのれに酔っているのだろう、まくしたてるように質問をかさねる。
「言え! 精霊をこの世界から奪い、なにをしようとしている!! おまえたち銀のバラの目的とはなんだ!!」
そこ!? そこにつながるの?
しらねえよ。むしろ俺がききたいわ。
「あの、男爵さ――」
「いいわけ無用!! 罪状をいいわたす。召喚士エム。国家反逆罪で死刑に処す」
その瞬間、わきのしげみから何者かがとびだした。
セバスチャンだ。彼はひも状のものを投げるとどうじに飛びあがった。
「クッ」
風魔法で見えないシールドをはる。
あぶなかった。上からおそいかかってくるセバスチャンをなんとかおしどどめた。
しかし、足になにかがからまった。
セバスチャンがなげたひもだ。それはどうやら麻をたばねたロープのようで、まるで生き物のようにシュルシュルと地をはうと、あっというまに俺のあしにまとわりついたのだ。
クソッ、おかしな術をつかいやがって。
風魔法ですばやくひもを切断。シールドを解除し、セバスチャンの胸をちからまかせにけりとばした。
「ほう、どうしてどうして。貧弱な召喚士にしてはするどい蹴りだ」
しかし、セバスチャンは空中で一回転すると、なんなく地面にちゃくち。
胸についた靴跡をパンと手ではらうと、キザなセリフを吐き、たたかうかまえを見せた。
チッ、きいてねえ。しかも本気になったようだ。
かまえた手には、いつのまにか短剣がにぎられていた。
「だんなさま。なかなか手強おうございます。無傷でとらえるのはむずかしいかと」
「よい。生きてさえいれば腕がもげようが足がちぎれようが、かまわん。どうせしばり首じゃ」
よくねえよ!
ぶっそうな連中だな。つきあってられるか。
土魔法でじめんをうねらせると、自分のからだを跳ね上げた。
そしてさらに風魔法。強風でより高く、とおくへ押し上げる。
「うお! なんだアイツ。飛びやがった」
冒険者どものおどろく声を置き去りにして、さらに加速。
はなれた建物の屋根のうえへとおりたった。
「あんなところまで! 追え」
包囲網は何重にもしかれていたようだ。
いたるところで、こちらを見上げる衛兵や冒険者のすがたがみえる。
つかまるかよ!
ふたたび飛びあがる。
風魔法で加速、減速でちゃくちをくりかえし街の入口までたどりつく。
しかし門は弓で武装した衛兵で、しっかりとかためられていた。
うそでしょ!
手際よすぎ!!
「気をつけろ! あいてはただの人間じゃない。放て!」
衛兵がいっせいに矢を放った。
それはよこなぐりの雨のように押しよせてくる。
やべえ、トルネード!!
暴風がふきあれる。飛んでいる矢をすべてまきあげていく。
「くそ、バケモノだ」
「ひるむな、槍をかまえろ」
いっしゅん動揺をみせた衛兵だったが、すぐにたちなおり、こちらに穂先をむけてくる。
攻めてこない。時間かせぎか。ふりかえると追手が迫っていた。
クソッ、敵しかいねえ。
ふたたびちょうやくすると塀をとびこえ街の外へ。
森へとむかい、ひた走る。
「なんだよ。ただの人間じゃないって。あのクソ男爵、どんなオオボラ吹き込みやがった?」
――エムの仕返しリスト――
元パーティーメンバー
女剣士
女盗賊ドローナ
@戦士ジェイク 完了
女僧侶
その他
宿屋の女将(審議中)
@ピクシー 完了
執事セバスチャン
リール・ド・コモン男爵