三話 伸びてる
同じ場所に戻ってきた。
まさか一周した?
そんなバカな。
だが、そうとしか思えなかった。
たしかに歩いているとき、おかしな感覚があった。
下り坂にしては前へと落ちる力がうすかったのだ。まるで平地をあるいているかのように。
それに太陽のうごきもおかしかった。ふだん太陽の位置をみて、まっすぐ歩いてるかどうか判断するんだ。
でも、太陽を基準にすると、横へ横へそれていくように感じてしまう。
小さな世界ってもしかして、大きな玉の上にひろがっている世界なのか?
俺は落ちている芽の伸びたジャガイモを手にとった。
自分の歯型の残ったジャガイモ。芽だけでなく根っこまで生えてきてやがる。
そうだ、ここは妖精の世界に違いない。
だから世界の形もおかしくて、時のながれも違うんだ。
どうしよう。えらい場所にきてしまったぞ。
芽の伸び方からいって四日は経っている。
一時間ぐらいしか歩いてないのに、もう四日。これじゃあアッという間に年寄りになってしまう。
拾ったジャガイモを捨てると、あわてて扉の中へととびこんだ。
――――――
街へと戻ってきた。これで一安心。
とはいえ、やることなんてありゃしない。
ポケットを探ってみても、わずかばかりの銅貨があるだけだ。これではメシ屋に入っても、たいしたものは食べられない。
ジャガイモ……最後まで食っときゃよかった。
あ、でもアレがなければ気づかず長居してたか。オレ、ジャガイモにイノチすくわれる。
あれ? 目にゴミでも入ったかな。目から水があふれてくるや……
なんだか喉が渇いてきた。
水。せめて水だけでも……
そうして、フラフラとした足取りで、気づけば宿屋へとだどりついていた。
追い出された宿屋だ。金がなくなると、けんもほろろに叩きだされたあの宿屋。
そういえば井戸があったな。
泊まり客には無料で使わせてくれたっけ……
そのとき、宿屋の玄関扉がひらいて、中から女の人がでてきた。
宿屋の女将のコサックさんだ。
「あ! あんた、しょうこりもなく戻ってきたのかい!?」
俺の姿に気がつくと、コサックさんは目をつりあげて詰め寄ってきた。
「泊めてほしけりゃ金をしっかり払うもんさね。だいたいアンタね、昨日の宿賃だって払ってないんだ」
指で俺の胸をブスブスと突いてくるコサックさん。
なんたる屈辱。せめて水だけでもと思っしまった自分にも腹が立つ。
だいたい昨日一日支払いができないぐらいで追い出すなんてあまりにも――
ん? ――昨日?
これはひょっとして……
胸を突くコサックさんの指をパンっと払いのけると、「女将。俺は昨日ここに泊まっていたのか?」と尋ねた。
「なんだい、急に神妙な顔をして。エラぶっても宿賃はタダになんないよ」
「いいから、泊まっていたのは昨日かどうかを教えてほしい」
追い出されたのは――とは聞かない。聞いてたまるもんか。
「ずいぶんイッチョ前の口きくね。昨日のことだよ。もう忘れたのかい?」
ぐぬぬぬ、なんと口の悪い。おまえも仕返しリストにいれてやろうか。
だが、いいことを聞いた。
あそこが時間の流れが極端に早いワケではないとわかった。
「女将。邪魔したな」
こうしちゃおれない。クルリと背をむけると、行動をかいしした。
――エムの仕返しリスト――
元パーティーメンバー
女剣士
女盗賊
リーダーの男戦士
女僧侶
宿屋の女将(保留) ←NEW