二十九話 新事実
食卓をかこみながらピクシーの報告をうけることになった。コサックさんの調査けっかだ。
彼女はコホンと咳払いをすると口をひらく。
「では始めます。被疑者コサック、性別メス、ねんれいオバサン、職業うすぎたない宿屋のおかみである」
お、おう。のっけから飛ばしてきたな。
キライなんか? それはべつにかまわんが、報告は中立でたのむよ。
「少々べんぴぎみ。まいあさトイレに入るものの出ないこと多し、腹いせによく戸をたたいている」
「……」
「しごとはマジメに取り組んでいるものの、接客たいどは並以下、しばしば客とトラブルになっている」
あ、うん。それは俺もよく目にしてた。
「金にがめつく、夜な夜な金庫にたまった金をかぞえるのが趣味のようだ」
言い方! ちゃんと売り上げをかぞえてるだけやろ。
「ときおり男とあいびきしているもよう。みなが寝静まったころ地下室につれこむ姿をみる」
う~ん、これはなんとも。まあ恋愛は自由だ。すきにすればよろしい。
「男のかずはふたりないし、さんにん。顔の趣味も悪いようで、みなひとりかふたり殺しているような面構えをしている」
なんか内容がかたよってないか? コイツに任せたのをはやくも後悔してるんだが。
「カネいがいにも皿がすきらしく、男たちと銀の皿がどうとか、よく話をしている」
皿? まあ、なにをあつめようと本人の勝手だが……
が、ここで強烈なひっかかりをおぼえた。
銀の皿……銀の……まてよ。
「ルディー、それはほんとうに銀の皿だったか? もしかして銀のバラじゃなかったか?」
「え? あーそうだったかも」
おいおいおい、そこ重要だぞ。
銀のバラは盗賊ギルド内の過激派組織だ。それにコサックさんが関わってる? まさか。
――いや、ありうるか。闇市は盗賊ギルドがしきっている。
もしや、コサックさんが闇市にあししげくかよっていたのはそのタメか?
「マスター?」
「いや、大丈夫だつづけてくれ」
「はい。いまはひとりみだが過去には結婚していたらしく、娘がひとりいるとのこと」
むすめ……
「名前はドローナ」
「なんだと!」
おもわず声をあらげてしまう。
そうか、そうだったのか。
ドローナとは俺をおいだした女盗賊と同じ名前だった。
「で、あるからして――」
その後もルディーの報告はつづいた。
しかし、まるで耳に入ってこなくなってしまった。
あーいやだいやだ。
貴族だけでもやっかいなのに、過激派の銀のバラにまで目をつけられてしまうとは。
めだたぬよう闇市場をターゲットにしたのが裏目にでたか。
いや、どっちみちだな。
結局のところコサックさんとかかわった時点でさけられない運命だったのだ。
俺やジェイクのことは娘のドローナ経由で知っていたにちがいない。
盗賊ギルドは情報がいのちだ。ひとのあつまる宿や酒場に根をはっていても不思議ではないのだ。
これじゃあ身動きがとれんぞ。
いまも監視されているとしたら……
「あっ!!」
大きな声をあげてしまった。ルディーがなにごとかと驚いた表情でこちらをみている。
でも止まらない。ふあんが口からもれでてくる。
「扉だよ、とびら。あとをつけられてるとすると扉をみつけられているじゃないか!」
「えっと、マスター?」
「扉をみつけたら入ってくるにちがいない。そうだ、もう入ってきてるのかも。このへんに潜んでいて、いまもこちらを――」
「ちょっと、ちょっと、おちついて。とびらってマスターのいた世界につづくとびらのこと? あのとびら人間はとおれないよ。マスター以外は」
「え? 俺だけ? 精霊召喚士だけしか入れないってこと?」
「ううん。召喚士でも入れないよ。そもそも見えないと思う。管理者に許可された人でないと」
え~、そうなの? しらんかった。
そんなこと管理者のじーさんは一言もいってなかったよ。
じゃあ安心じゃん。あせってそんした。
「は~、おぬしはほんとうになんもしらんのう」
とつぜんの声におどろいて横をみた。
するとノームがいつのまにかとなりに座っており、うつわに入った野菜のごった煮をモグモグと食べていた。
それ俺のやん。たしかに収穫物を百個までは食べていいって言ったけど、調理したやつとるのはズルくね?
「だれでも入れたら、いまごろ人間だらけになっとるじゃろ。おぬししかおらんちゅーことは、そういうことなんじゃ」
クッ、正論を。
そいえば、あれから管理者は夢にでてきていない。
メンドウごとをおしつけられてはかなわんと、ジジイをないがしろにした弊害がでてしまったか。
「心配だったら移動させちまえばええんじゃ」
「え? 動かせんのあれ」
もちろん、あれとは扉のことだ。
「ほんと~に、なんもしらんのぅ! 動かすだけじゃなくあらたに作ることだってできるじゃろ。こくたんの木じゃ。あれで扉をつくればすきな場所とつなげほうだいじゃわい」
マジかよ……