二十八話 おかえり
今日は舟をつくろうと思う。
先をみこして、すこし大きめの舟を。
つかうのはもちろん空にうく白い木。
ほんとうはゆがみや割れがおこりやすいため、乾燥させたほうがいいんだけど、木材は三センチの厚みが乾燥するのに一年かかると聞いたことがある。
そんな待っていられない。
べつに水に浮かべるでもなし、多少のゆがみは割れは味ってことにしておこう。
まずは自分が乗るとこをつくる。丸太のそとがわを舟のかたちに削ったら、中をくりぬいていく。
加工は風魔法。
くりぬくのはあんがい骨がおれた。風魔法は切断するのは得意だが、あなを掘るように削るのは苦手なようだ。
生木でよかったかもしれない。木は乾燥するにつれ、しまって硬くなっていくからだ。
それでも木くずまみれになりながらも、ゆったりねそべられるぐらいのスペースができた。
つぎは荷物をのせるところだ。あたらしくもう一本切りたおしてくると、おなじようにして少し小さめの舟を二個つくる。
それを左右において、細めの丸太でれんけつした。
うん、悪くない。
中央がながく左右がみじかい、このフォルムが思ったよりもかっこよかった。
ふ~、けっこう時間がかかったな。
きょうはこのぐらいに……と思ったところでふと疑問がでた。
あれ? きょうってほんとうにきょうか? と。
ここは太陽がしずまない。めいかくな一日のくぎりがないのだ。
つかれて寝て起きたら一日って換算してたけど、よくかんがえたらズレがあるのかもしれない。
これ、いがいと問題かもな。
商売するにあたって納期のおくれは信用をうしなう。
日どけいでもいいからつくっておくか。
そんなことを考えていると耳元で声がした。
「マスター、マスター」
この声はピクシーのルディーだ。
グッとみけんにシワをよせると彼女の姿が見えてきた。
すこしだけ厚ぼったい唇とそのすぐよこについた小さなホクロ。みにつけているぴっちりしたうす布は上下の谷間をきわだたせる。
けしからん、あいかわらずけしからん。
「おかえり。ルディー」
「マスター、ちゃんとこっちみて言ってよ」
いやだよ。またチャームにかかっちゃうじゃん。
ムチっとした太ももに焦点をあわせる。
「ん、もう! じゃ、あらためて、ただいま~」
「ああ、おかえり。ごくろうだったね。調査はどうだった?」
「まあまあね。四日間で、それなりに収穫あったよ」
四日? おかしいな今日入れても三日のはずだが……
やっぱり時間の感覚がくるってる。このままでは体調をくずしかねん。
時計をつくって、しっかりと生活のリズムをととのえていかないと。
「どうしたの?」
ルディーが心配そうに顔をのぞきこんできた。
考えごとをしていたのがわかったんだろう。いがいにやさしい。
やっぱ、ルディーっていいオンナだよな。グラマーでチャーミング、小悪魔的なところもあるけど、それがまた……
――はっ! やべっ、またチャームにかかりそうになっていた。
視線をカカトのひび割れにあわせると、迷路をすすんでいく。
こっちは行き止まり、こっちはいける。こっちは……
よし大丈夫。
「えっと、マスター?」
「あ、うんゴメン。そうだな、詳しい報告はゴハンでも食べながら聞くとするか。それはそうとさ、ルディーの家をつくったんだ。見てくれる?」
「ほんとう? 庭みたいなのが見えたから、もしかしてって思ってたんだけど。できたんだね。やったー」
ルディーは飛び上がるようなしぐさをすると、くるっと一回転した。
おお、かわええ。
「家具はまだなんだけどさ。見にいく?」
「うん! いくいく♪」
それから庭の小道をとおってツリーハウスへといった。
そのときの彼女の喜びようは尋常ではなかった。
「いいの? いいの? ここにすんでいいの?」
「もちろんだよ」
しばらくの間、キャーキャーとつづいた。
しょうじきうるさかったが、悪い気はしなかった。がんばってつくったもんな。
「ありがとう、マスター。チュッ」
ほっぺに口づけされた。やべー、これはズルい。
「あー、マスター顔赤いよ」
うるさいな。
「じゃあ、メシにしようか」
「ラジャー」
ルディーを肩に乗せて家へとむかう。
しあわせをかみしめながらも、これからのことをかんがえる。
――しかし、目をみないってあんがい難しいもんだ。
そうだ、こんどルディーに目隠しをつくるか。
ちょうちょのハネをひろげた形とかいいかもしれない。
報告があるときはそれをつけてもらおう。
うん、それがいい。