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追放された召喚術士、しかたがないので農業をはじめる  作者: ウツロ
二章 ほっといてくれないんなら反撃するしかないよね
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十五話 商品名ジェイク

 時刻はゆうがた。ぶたたびメンドリ亭にやってきた。

 新商品の販売にきたのだ。きょうは行ったり来たりといそがしい。

 だが朝と違い、こんどは扉をひらかない。商談しょうだんあいてはコサックさんではないからだ。

 俺たち・・・は息をひそめると、物陰から出入り口をコソコソ観察する。


「ねえ、ねえ、ここで待ってたら会えるの? すてきなおじさまに」


 そう、こんかい俺がとりあつかうのは人間だ。商品名ジェイク。本人のしらぬところで勝手に売りにだしてやるのだ。もちろん顧客は横にいるシルフだ。


「たぶん会えるよ」


 とびっきりの笑顔でシルフにそう伝えると、ジェイクがくるのを待つ。

 俺の勘ではジェイクはくる。なぜかわからないが、確信してるといっていい。

 それも来るなら夕飯ゆうめしどき。あいつはお酒がすきなのだ。


 ――きた!

 ポケットに手をつっこみ、肩で風をきって歩いてくる男がいる。

 ジェイクだ。あいかわらず奥ゆかしさのカケラもない歩き方だ。

 自分とはまったくカテゴリーのちがう人間だと再確認できる。


「あれだよ。どう? 気に入った?」


 となりにいるシルフに問いかける。が、返事を聞くまでもないようだ。すでに目がハートマークになっていたからだ。


「ステキ! ほんとにあれ、もらっていいの?」

「もちろんだとも。アイツは尽くしてくれる女がすきらしい。猛アタックするといい」


 そう言って親指を立てると、シルフをおくりだす。ついでに「多少強引でも大丈夫だぞ」とつけくわえておいた。


「うん!」


 シルフは疾風のごとく駆けると、あれよという間にジェイクにまとわりついた。

 するとジェイクは一瞬たちどまり、ん? といった表情をみせたが、なにごともなかったかのようにすぐに歩き始めた。

 それもそのはず、シルフのすがたが見えていないのだ。

 精霊召喚士の俺でも、集中していないとみえないのだ。戦士のジェイクにみえるハズもない。


「ねえ、ねえ、わたしフウリンっていうの。よろしくね」


 ジェイクの顔をベタベタとさわるシルフはそういった。もちろん声は聞こえていない。つむじ風がおこす風切り音としか思っていないだろう。

 しかし、まとわりつく風はほんものだ。なんかヘンだなーとジェイクは顔をさすっている。


 やべー、もうすでに面白い。

 だが、まだだ。まだだよジェイクくん、きみの苦難はこれからなのだよ!


「んー、もう!」


 シルフがちらりとこちらを見た。ジェイクの反応がお気に召さないらしい。

 あたりまえやん。見えてないんだもの。

 が、そんなものはささいなことだ。愛は障害があるほど燃え上がるものなのだ!


 俺は首をよこにふる。そんなものではダメだと。

 パッションがたりない。パッションが! 

 生ぬるい。もっと行けとジェスチャーでシルフに合図する。


 まあ、情熱なんてあったところでどうにもならないんだけどな。見えてないんだから。

 でもそんなの俺のしったこっちゃない。シルフとジェイクの問題だ。ふたりで勝手にのりこえればよかろうなのだ!


 おっと、ここでシルフが勝負をかけた。

 ふんすと鼻息をあらくすると、ジェイクの唇をうばったのだ。

 おお~、すごい。両手であたまをわしづかみ。スッポンのようにくらいついて離さない。

 ブッチュ~という音がここまで聞こえてきそうだ。


 ……しかし、ちょっとうらやましいな。

 見た目は幼いとはいえ、かなりの美少女。あんな猛烈にアプローチされれば悪い気はしない。

 とうのジェイクだって見えないまでも、その息づかいを感じ……


「ん?」


 なにやらジェイクの様子がおかしい。

 みるみるうちに顔が真っ赤になり、じたばたと両手で顔をかきむしりだしたのだ。

 なにやってんだ、アイツ?


 やがてジェイクは膝をつくと、声もださずに口をパクパク動かしだした。

 なんだ、アレ? みずあげされた魚みてーだ。超オモシロイ。

 ん? さかな? さかな……。

 ――あ、そうか。息ができないのか。


 やっとのことで、解放されるジェイク。

 けっこうギリギリだったみたいだ。ゼハー、ゼハーと大きく息を吸っている。

 そんな彼をよこで見るシルフは恍惚こうこつの表情だ。


 ぶははは。面白い、おもしろいよ君たち。

 ジェイクのヤロウざまーみろだ。


 やがてジェイクは肩で息をしながら斧をかまえた。それから「だれだ!」とわめきながらあたりをキョロキョロみまわしている。


 フハハ、「だれだ」て。目の前におるやん。

 魔法つかいのしわざとでも思っているのか?

 ざんねん、精霊でした。


 もちろん犯人なんかみつかるハズもない。

 首をかしげるジェイクはメンドリ亭の扉へとむかった。

 中に入ろうというのだろう。


 スゲーなアイツ。この状況で行こうとするかね?

 まあいい。それならステージ2だ。

 コサックさんには根回し済みだ。おもしろいもんが見られるぞ。

 なんか俺、スゲーワクワクしてきた!



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