十三話 別視点――戦士ジェイク
〇別視点です。
「どうかお恵みを……銅貨いちまいでいいんです。三日もなにも――」
「うるせえジジイ!」
ジェイクはすがりついてきた身なりの汚い老人を蹴り飛ばすと、ツバをはいた。
「ケッ、金がほしけりゃ働けってんだ」
周囲にいる野次馬をにらみつけ、ジェイクは肩で風をきるようにあるく。
「チッ、イラつくぜ」
ジェイクのイラ立ちの原因は最近いなくなったパーティーメンバーの召喚士だ。
彼がいなくなったことで、雑用をする必要がでてきたのだ。
火おこしに料理、夜間のみはりに荷物の運搬、わずらわしいことこの上ない。
なんで俺が雑用なんかを。ジェイクは吐き捨てる。
俺は戦士だ。からだを張っているのは俺なんだ。
ジェイクはおのれの職業に誇りをもっていた。
危険をかえりみず敵に肉薄し、斧をふるう。ときには身をていし、仲間の壁となる。
それに比べて魔法使いどもはどうだ。安全なところでモゴモゴと呟き、安全なところから飛び道具をうつ。
そんな彼らが雑用をするのは当たり前じゃないか。
エムを追い出したあと、ジェイクは神官と盗賊に雑用をさせるつもりだった。
魔法をつかう神官はもとより盗賊だっておなじ、斥候のやつらは敵をみつけたらコソコソと逃げ帰ってくるだけ。
けっきょくのところ、体をはるのはじぶんなのだ。
ジェイクはとうぜん彼女たちが雑用をかって出ると思っていた。
雑用係を追い出したのだから、代わりに誰かがやらねばならない。当たり前の話だ。
でもいっこうに言い出さない。
だから業を煮やしたジェイクが切りだしたのだ。
――だが、なんとやつらは断りやがった。
最初にたてついたのが神官だ。
そんなの自分の仕事じゃないって。
思わず首をしめてやりたくなった。
だが、できない。ジェイクも神官にはよわい。
前線で斧をふるうジェイクには神官の回復魔法は生命線だったからだ。
そうなってくると盗賊も便乗しだす。雑用なんてやりたくないと。
これで二対二、そう思った矢先、こんどは剣士が裏切りやがった。
やつらに同調しだしたのだ。
盗賊と神官はこちらに直接いわず、剣士を見てなにやらコソコソと話し合う。
その圧力に負けたのだ。これだから女ってやつは。
けっきょく、自分のことは自分ですることになった。
役割分担もあったもんじゃねえ。
精霊がいたころはよかった。エムに召喚させた精霊に荷物をもたせていればいい。
だがどうだい、精霊がいなくなって残ったのは役立たずのモヤシ野郎だけ。魔法がつかえなくなり、火をおこすのにも四苦八苦してやがる。
そんなアイツに荷物持ちをやらせてやった。
いままで精霊が荷物をもってたんだ。いなくなりゃ、その召喚主が代わりにもつのが当たり前だろう?
だが、アイツぜんぜん力がありやしねえ。たった五人分の荷物に根をあげ、いつも遅れて歩いてやがった。
そんなお荷物もいなくなり、さあこれからだってところでコレだ。
これじゃあ本来のパフォーマンスなんてだせねえ。荷物持ちで疲労のたまった体じゃ、魔物とやりあうことなんてできやしねえ。
けっきょく依頼は失敗つづき。
べつのパーティーを組むか、べつの仕事を考えざるを得なくなってきやがった。
チッ、それもこれもあのモヤシ野郎のせいだ。こんど会ったらタダじゃおかねえ。
とはいえ、俺もそろそろ動かねえとな。たくわえだってどんどん減ってやがるし。
べつの仕事ねえ……
ジェイクはぼんやりと考える。
――そうだ。宿屋なんかいいかもな。うまい食事をだして、うまい酒をだす、冒険者ごようたしの宿屋。
さいわい、オレは冒険者だ。冒険者のきもちが誰よりもわかるってもんだ。
そうと決まればさっそく調査だ。
ジェイクはこれまで貯めてきたお金を切り崩し、食べ歩く。そうして一軒の宿にめぐりあう。
『メンドリ亭』チキンが有名な食堂兼、宿屋だ。
ジェイクは扉をひらいて中に入る。
床を見回す。ゴミひとつ落ちてない。
宿屋なんてものは旅人や冒険者がよくつかうものだ。汚れなんかしょっちゅうつく。
よほど小まめに掃除しているのだろうと感心する。
ふわりと焼けたチキンの香りがただよってきた。
いい匂いだ。コイツはあたりかもしれねえ。
ジェイクは席につき食事を注文する。
ほどなくして料理が運ばれてくる。
まずはチキンに手をつける。
うまい。皮がパリパリで中身がジューシーだ。さすが噂になるだけある。
つぎに付け合わせのポテトサラダだ。
一口くちに運ぶ。
うまい! なんだコイツは? こんなうまいポテトサラダを食ったのは初めてだ。
驚いたジェイクは給仕の者に声をかける。
「おい、女将! このジャガイモはどこで――」