十一話 運搬革命
爽快な目覚めだった。からだのふしぶしは痛いが、頭はやけにスッキリしている。
家の中が暗いおかげでよく眠れた。それになにかに包まれている安心感もあった。
外へとでると伸びをする。バキバキと腰と肩がなる。やっぱりこってる、はやくベッドがほしい。
「おお~、すげー」
畑をみわたすと、たわわに実った作物が見える。
鈴なりの真っ赤なトマト、ズガンと垂れ下がる青キュウリ、収穫時をしらせるジャガイモの黄色い葉、そして――ネギ坊主。
そうだった。タマネギとニンジンは花を咲かせてタネを採取しなければいけないんだった。
ネギ坊主はタマネギの花だ。ポワポワとしたタンポポの綿毛のようでかわいらしい。
タネの採取はもうすこし後か。
まずは実ったトマトを収穫してみよう。
真っ赤に熟れたトマトをみる。ツヤのある表面についた水滴が日の光をうけて輝く。
水滴? どうやら寝ているあいだに雨がふっていたようで、枝や葉にいくつものしずくがついていた。
「雨ふるんだな、ここも」
ポツリとつぶやく。植物の生長には水が不可欠だ。雨がふるなどあたりまえといえばあたりまえなのだが、そんなことすら忘れるほど、この場所は不思議にみちあふれていた。
まあ、そのへんはゆっくり考えればいいか。
とにかく重要なのは――きょうは水やりしなくていいってこと!!
トマトをもぎ取るとかじりつく。あまーい。そしてジューシー。あとからくる酸味がさらに食欲をそそる。
もう一個。ハムハム。もう一個。ハムハム。
あれよというまに五個たべてしまった。さらにもう一個と手を伸ばした瞬間、目の前のトマトがポトリと落ちた。
「あれ?」
熟れすぎて落ちたのだろうか? そう心配したのも束の間、すぐにまちがいだと気づく。
なぜなら落ちたトマトはフワフワと宙をあるき、食糧庫のほうにむかっていったからだ。
ノームだ。
目をほそめると赤い服を着た三角帽子の老人がみえる。それもひとりではない。
10センチほどの半透明のノームたちがいくにんも、トマトやキュウリやジャガイモを頭上にかかえ、とことこと運搬しているのだ。
「おおー」
ひとりでに運ばれていく作物たちを見て驚きと喜びの声がもれる。
彼らは契約を守ったのだ。契約どおり作物を収穫してくれているのだ。
茶色のジャガイモがふわふわトコトコ。
ミドリのキュウリがふわふわトコトコ。
ふわふわトコトコ、真っ赤なトマトに小さな歯形。
――歯形! コイツつまみ食いしやがった!!
まあいいさ。これも契約のうち。百個以内なら好きにたべてもいいのだから。
……というか、ノームいっぱいいたんだな。
ひとりで百個食べるのかと思ってたよ。ゴメン。
収穫はノームにまかせて俺はあるものを作りたいと思う。
運搬道具だ。市場にうりにいくための道具。
じつは昨日から考えていた。そう、あの宙に浮く白い木だ。
あれを荷台にしたら楽に運べるんじゃね!?
フハハハ、革命じゃ~。運搬かくめいじゃ~。
さっそく作業にとりかかる。
「どっしゃ!」
白い木に斧をふるう。
「だっしゃ!」
もっかいふるう。そうやって何回も斧をふるったところであることに気づいた。
これムリじゃね? と。
予定では船の形にして自分も乗ってらくらく運搬、みたいに考えていた。
しかし、斧でその形にするのに何日かかるかわかったもんじゃない。
しかもだ。木は宙に浮いている。
斧をふるっても木はしたに逃げ、ちからが拡散してしまうのだ。
う~ん、保留!
できないことはできない。無理をするよりいまできることに力をそそいでいくことにしよう。
「いってきます」
屋根の上でくつろいでるノームに手をふる。
これから収穫した作物を売りにいくのだ。
もちろん使うのは、あの白い木。よぶんな枝葉をきりおとして丸太にした。
その丸太に商品をのせる。いや、吊るす。
たいらでないため乗せたら滑り落ちてしまうからだ。
商品のはいった麻袋どうしを紐でくくり、丸太に渡す。馬の鞍にたれさがる鐙みたいなもんだな。
左右のバランスが保たれていれば麻袋落ちない。
丸太が回転したら……あきらめよう。そうならないようにしっかりと丸太を持って歩かなければならない。
テクテク歩くこと一時間、扉の前へとたどりついた。幸運にも商品はすべて無事である。
今回は運搬テストもかねている。数はさほど多くない。ジャガイモ50個、キュウリ50個、トマト50個だ。
トマトの麻袋には枯れ草もいれておいた。緩衝材だ。熟れたトマトはやわらかく、自分たちの重みで潰れかねないのだ。
丸太から麻袋を下すと、自分の肩に紐をわたす。重い。紐が肩にズシリと食い込む。
左右の肩に分けてはいるが、ぜんぶで15キロほどある。
ここからは徒歩になる。ツラい道のりになるだろう。
それでも前回よりマシか。重さも距離もだいぶへった。
これを売ったら……そうだな、荷台でも買うか。