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第4話 集結と終結のヒーロー(後編)

三人とミチルがしばらく他愛ない話で盛り上がった後、コンドウが急に言い放った。


「こうなったら同窓会でもやったらどうだ! ええ?」

「コンドウさん、それはちょっと……」

「俺の事なら気にするなよ、コウイチロウ。せっかくなんだ、みんな呼んでみるのも悪くない」

「そうか? でも、急だしみんなこれるかどうか……マオとケンゴと……それに……カレンか」


意を決してコウイチロウがそれぞれに連絡をとる。


結果はコウイチロウも予測し得なかった全員参加だった。交渉もスムーズに運び、かつてのスターレンジャーだった戦士がかくして一堂に会することとなった。


1番乗りはスターグリーンこと、モリタ ケンゴだった。


短く切り揃えられ、逆立った髪や本人はあまり気に入っていないという細く鋭い眼光はなるほど剣士とは言わないまでもアスリートを思わせる。


「ちょうど、人生について考えていたところに誘いがきてな。腐った性根を叩き直すチャンスだと思った」


スターレンジャーいちストイックなケンゴは剣道の達人だったが、戦闘で負った怪我の影響で以前のような鋭い太刀さばきは失われてしまっていた。道場の跡取り息子として、また、オリンピック代表候補としても将来を嘱望されていた為、彼もまた失意の底に沈んでいたのだろう。


「コウイチロウ、呼んでくれて感謝する。しかしまた、謝罪もせねばなるまい」

「相変わらず堅い! 堅いね~、どうも」

コウイチロウは照れ隠しか、はたまた話を遮るためかおどけた。


「やっぱりケンゴ君いい男ねぇ」

ミチルが頬杖をつきながら甘い目でケンゴを見つめる。


「ちょっとミチルさん、俺達というものがありながら!」

「そうだぞ! ミッちゃん!」



続いて現れたのはスターピンクことツキシマ カレン(旧姓)。

天川てんかわ重工業の副社長夫人となった彼女は小奇麗な普段着を身にまとい、

颯爽と入店してきたのだった。


「遅くなってごめんね! 急だったから……」

肩まで伸びた髪を少しかきあげながらカレンはケンゴの向かいに座った。

「いや、こっちこそ悪かったよ。久しぶりに顔を合わせたら盛り上がっちゃって」

「子供は平気だったのか?」


コウイチロウは心配そうに尋ねた。


「ちゃんと夫とシッターさんに相談して2時間だけ時間をもらったわ。育児の合間の休養も必要だろうって。もう乳離れしてるし少しの間、羽伸ばすんだ!」

カレンはニコリと笑っておしぼりに手を付けた。


「ミチルさん、変わってないわね! このお店!」

「いい意味で捉えていいのかしら?」

「もちろん! 社交界は堅苦しくて…」

「あら、フォークとスプーンでもお出ししますか? マダムカレン?」

「もう! ミチルさんたら!」

ミチルは一流店の給仕のような一礼をして、奥の調理場へ引っ込んだ。


「……そういえば、もう大丈夫なの? ケンゴも、ダイスケも」

「俺は大丈夫さ! 心配ならそこで潰れてる糸目にしてやってくれよ」

ダイスケはケンゴの頭をペシッとはたいた。

「瞑想中だ!」

ケンゴは寝たふりを装ったが、その甲斐むなしく皆の笑いの的となった。


「カレン、この間旦那さんと例の件について打ち合わせしたよ。時間作ってくれてありがとな!」

「いいのよ。今の私に出来ることなんてそれぐらいだもの」


そして、最後に登場したのが、スターイエローことオオチ マオである。

彼女は現在女優として多忙な生活を送っているが、今日はオフとの事で駆けつけてくれた。


「ごめん、寝過ごした」


「   」


一同は一様に言葉を失い、マオの姿を凝視した。


「パパラッチだのなんだのってのは心配無用だな、こりゃ」


一般人のコンドウが言い切るのだから恐らく誰が見ても今をときめく女優、オオチ マオとは気づかれないだろう。


それもそのはず髪はボサボサ、メガネは一切の飾り気を感じさせない実用メガネ、謎のヒーローらしき絵がプリントされたヨレヨレのTシャツにジーンズ、ヒールのないサンダルでは警察すら声をかけてくるかどうか怪しい。


普段の黒髪ロングスレンダー美女で売り出しているオオチ マオの姿はそこにはなかった。


「なに?」

マオは一同を見回し、不満そうに尋ねた。


「前よりひどくなってないか、カレン」

「ええ……おしゃれに気を使わないまでも、もう少しは見れた格好だったはず……」

カレンはひきつった笑顔でコウイチロウに答えた。


「ともかくこれで全員そろった訳だ!」

「5人揃って! スターレンジャー! かんぱーい!」

コウイチロウの音頭で、急遽集まった5人は杯を合わせた。


コンドウはミチルと、一同を見つめひっそりと乾杯した。


「見て見て~!うちの愛娘♡天使でしょ!」

「む、酒が切れた……」

「ミチルさん!ケンゴと俺、焼酎水割りで!」

「あれ、私のだし巻き卵……?」


コウイチロウはこの楽しいひと時をギュッと胸の宝箱に仕舞い込んだ。

広がり続ける不安感を追い出すように……


――孤独


仕事をしていても、酒を飲んでいても、コンドウやミチルといった良き理解者でさえ、コウイチロウの心の隙間は埋めることはできなかった。


戦う者の孤独とは戦う者にしか分からないのかもしれない。かつて苦楽を共にした仲間も今やそれぞれの家庭や生活を持ち、コウイチロウとは道を分かれてしまった。


いつ終わるともしれない戦いの日々が、コウイチロウの心を侵食し、暗い影を落とすようになったのはいつの事だっただろう。


今日の出来事はコウイチロウの影に一条の光をもたらした。しかしまた光有るところ影有り。コウイチロウの全ての影を覆い尽くすことはできなかった。


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