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吾輩は鈴虫である

作者: あやか。

 吾輩は鈴虫である。名前はまだない。

 どこで生まれたのかとんと見当もつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でリンリン泣いていたことだけは記憶している。仲間と共に透明な箱に押し込められ、人間というものに時折見つめられる毎日だ。我々は見せ物にされているようだった。鳴き声をあげてやれば人間は喜ぶし、餌も与えられているため困ることはない。満足のいく生活だ。

 しかし、突然光が消えた。地面が揺れた。最後に見たのは笑顔でこちらを覗く人間の少女だ。このまま食われてしまうのか。

 次に気がついたときには見慣れぬ場所にいた。そこにはもちろんあの少女もいたが、今度は不安そうな表情でこちらを見ていた。こんな表情をする人間は初めて見たからか、あの顔だけは今でも忘れることはできない。

 いつ食われてしまうのかと怯えながら過ごすうちにいくつかわかったことがある。まず、我々はあの少女の家に売られてきたらしい。あれから毎日少女は箱の前に訪れた。日に何度も顔を出すこともあれば、一度だけのときもある。時間も同様で、ちらりと覗くだけの時もあれば、少しの間動かなくなる時もある。また、この家には少女の家族であろう人間が数人いるようだ。こちらの人間たちも何度か顔を見ることがあったので覚えた。父親らしき男と、その妻、そして祖母であろうか。そして、少女の名前は『あやか』というらしい。

 あやかは毎日かかさず餌と水を持ってくる。丸々太らせてから食べるつもりなのだろう。最初のうちは毒でも入っているのではないかと食べるのを我慢していたが、その時は悲しそうな表情を見せた。空腹に耐えられず口をつけたときには何故か安心した顔をしていた。彼女らを怒らせて予定より早くに食べられるのは避けたいと思い、視界に入ったときは必ず鳴くことをしなかった。

 それでも不思議なものであやかは我々を大事にしているようだった。こうなると食べる気などないのではないかと思う。ある時、あやかが近くにいるのに気がつかずに鳴いたことがある。その場で見せた笑顔は今までとは比べものにはならないほど輝いていた。

 ああ、こんなことであやかは笑ってくれるのか。


 夏休みに入ってからお母さんに鈴虫を買ってもらいました。今まで自分ひとりでペットを飼ったことはなかったけれど、今回は毎日私が餌をやる約束です。最初はあまりえさも食べてくれないし、虫かごの前に私や家族がいると全く鳴いてくれなかったのに、最近はリンリン元気に鳴いてくれるようになりました。長生きしてもらえるようにこれからも毎日頑張ります。


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