病める王と貧しき詩人
馬で遠乗りをしていた王は、森の中で迷ってしまった。
暗い森だった。馬を連れてとぼとぼ歩いていると、小さな家があった。あの家の者に道を聞こう――。王は家の戸をたたいた。
家の中から出てきた男は、森から出る道を、ていねいに教えてくれた。そして、少し休んでいきなさいと、王に言った。
温かいお茶を飲み、気持ちが安らいだ王は、男にたずねた。
「おまえは、一人で住んでいるのか?」
すると男が答えた。
「いいえ、一人ではありません。妻と子供がいます。今は二人とも出かけております。木の実を取りに」
男は、森の中に住む理由を聞かれると、詩を書くためですと答えた。そんな男に王は、
「では、私のために、詩をひとつ作ってくれないか」とたのんだ。
詩人は、
「すぐに書くのは無理です。詩は、あるとき突然、天からやってくるのです」と答えた。
そう言われ、王は不思議に思った。
「詩は、おまえの中から生まれるのではないのか?」
「そんなことはありません。詩は、天からのおくりものです」詩人は王に言った。「あなたも、天からのおくりもので、王になったのではありませんか?」
「私が王になれたのは、運命のおかげだと言うのか?」
「違いますか?」
王は何も言えなくなった。自分のこれまでのふるまいを思い出し、恥ずかしくなった。
王位を継いでからというもの、王は、ほしいものは何でも手に入ると思い込んでいた。国のことも考えず、お金をむだづかいしてきた。国民の声にも耳をかたむけず、国民の思いなど無視してきた。
王がだまっていると、詩人が急に、声を上げた。「詩が、できました」そう言ってから、紙に詩をしたためた。
その詩には、病める王が描かれていた。王は、自分の病に気づき、自ら努力して、その病を治す――。そんな物語だった。
詩を読んだ王は、感心して言った。
「こんなに素晴らしい詩が、あっという間にできるなんて……。やはり、この詩は、天からのさずかりものだな」
王の言葉に、詩人が優しく微笑んだ。
「この詩は、私へのおくりものではないのでしょう」王に歩み寄って、詩を書いた紙を差し出し、「あなたへのおくりものです」
紙を受け取った王が、大きくうなずいた。
「そうだな。このおくりものを、大切にするよ」
王はそう言うと、馬に乗って城へ帰って行った。