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「都合がいい?」

 考えても見て、と角野潤は肩をすくめる。

「ナミは暮木さんにいやがらせを受けていたのよ。そしてきみは暮木さんと付き合っている。どうしてそんな人と親しくなるメリットがあるとおもう?」

「ミゾをひとりにさせるためとか?」

「なぜ?」

「ミゾが悲しむ。ミゾを苦しめたいんじゃないのか?」

「児戯ね。そんなひどいことを考えるとでも?」

 角野潤の言い方は熟練者が初心者を嘲るようであり、佐伯弘貢は反発からよほど角野さんなら考えそうだと言ってやりたくなった。しかし同時に暮木ミゾノを苦しめようという意図がないことがわかったことに安堵してもいた。角野潤は友人の受けたいやがらせの仕返しをしようとしているわけではないようだ。

「僕とミゾが親しいことが重要なんだろうね」

「そうよ。それときみが暮木さんに影響力をもっている点ね」

「影響力?」

「きみが言えば暮木さんは自分の本性を抑えることができるかもしれない」

 本性などと日常聞きなれない言葉を平気で角野潤は口にする。ボディーガードなんて言葉を口にさえした彼女だ。ゆえになにか意図がこめられているのを佐伯弘貢は感じとれた。

「本性なんておおげさに聞こえるけれど」

「ナミは学校に戻りたいとおもっているの」

 脈絡のない話頭の転じ方に、もしや角野潤に対話をするつもりはないのではないかと疑った。しかしながら彼女の表情に変化はなく、彼女のなかで会話は断絶なく続いているのだと佐伯弘貢はすぐにおもいなおした。

「テストを受けにくるというのだから、そうなんだろうね」

「なぜちゃんと戻ってこられないとおもう?」

 綾瀬一美が言っていたことを佐伯弘貢はおもいだす。麻倉名美が学校へ戻ったとしても、よくないことが起これば暮木ミゾノがしたことなのではないかと疑わずにいられないであろう。つねにいやがらせへの恐怖を感じとりながらの学校生活になってしまい、それはもちろん麻倉名美にとって幸福なことではない。

「安心して学校での日常をすごすにはきっと、安全を保証するものが必要になるんじゃないかな」

 佐伯弘貢は言う。

「僕がミゾに麻倉さんへのいやがらせをしないように言えばミゾはそれに従うということ? 僕がミゾと麻倉さんとのあいだにはいることで、ふたりのいざこざが起きないようにするのが狙いなの?」

「そのとおりよ」と角野潤は目もとをすこしばかり細める。「でもまだそれだけじゃない」

 ロータリーにバスが到着し、列にならぶ人たちがにわかにせわしい雰囲気をかもしはじめる。バスが停車し乗客の降車がはじまると角野潤はひと言尋ねた。

「きみはナミに会ってみたい?」

 佐伯弘貢にとって言われるまでもない問いだった。麻倉名美から話を聞かない限り、暮木ミゾノがいやがらせをしていたなんて信じられないことにかわりない。

「じゃあ、ナミを説得してみるわ」

 列が動きだして角野潤もそれに従う。いちど列からふり返って軽く手をふった。佐伯弘貢は挨拶を返しがたい心境だった。バスが乗客を満載して発車すると、すぐに佐伯弘貢は踵を返して帰路についた。自転車をおして歩きながら、麻倉名美と親しくなることの意味を考えた。考えるにつれ、角野潤が言いっぱなしにしておいた言葉に意識は逢着した。

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