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 駅前のファストフード店は学生服姿の若者だけでなく、男女問わず年配の人たちでもにぎやかだった。佐伯弘貢は一階のカウンターでホットコーヒーを買ってから二階の座席へむかった。どの席も埋まっていて、すぐには暮木ミゾノがどこにいるのかわからなかった。さほど広くはない空間をすこし奥へはいるとすぐに暮木ミゾノはいた。

 窓際の四人がけのテーブルに暮木ミゾノはひとりでついていた。圧縮したストローの袋に、ストローで水を垂らして芋虫のようにもぞもぞと動くのを無表情に見ている。ミゾと呼びかけるとおもむろに顔をあげ、目と目があうといつもみたいに満面の笑みを見せる。

「待ち遠しかったよ。呼びだしてごめんね。調べものはできた?」

 むかいの席につくのを待たずに暮木ミゾノは話しかける。佐伯弘貢は待たせてごめんと謝り、調べものはまだまだありそうだと答える。

 暮木ミゾノからのメールを受けたとき、佐伯弘貢はこのままアサクラ家を訪問すべきか暮木ミゾノのもとに駆けつけるべきかどうか迷った。どちらの選択も佐伯弘貢の意にそわないものだった。不穏な噂を判然とさせないまま暮木ミゾノに会うことは嘘におもえる。かといって暮木ミゾノが会いたいと言うときにはいつだってそばにいてあげたいのが本性でもある。

 悩んだ末に暮木ミゾノのもとへゆくことにした。噂は不明確だが彼女が呼んでいるのは確かだった。

「さっきまでサトミとリュージがいたんだけれどね、あんまりにも仲がいいとこ見せつけてくるから、寂しくなって呼んじゃったの」

 三人でなにを話していたのと聞けば、いちおうテスト勉強をしていたという。でも開始三分でリュージが飽きたから、あとはずっとおしゃべりしてた。テスト終わったら今度こそ四人でどっか遊びにいこうって。

「ふたりはどうしたの?」

「帰ったよ。アタシはツグに会いたいから残ったの」

 ポテト食べる? プレートに残っているフライドポテトのケースをさしだす。ありがとうと佐伯弘貢は一本抜きとる。暮木ミゾノもつまみ、冷えちゃってるねと笑った。でもおいしいよと佐伯弘貢は頬笑む。暮木ミゾノは安堵したように目もとを細めた。

「ねえ」

 と暮木ミゾノは頬笑みながら視線を落とし、両肘をテーブルにのせる。プレートにはくしゃくしゃになったハンバーガーの包みと、もうあと二本だけになったフライドポテトとケースがある。

 店内の喧騒がおおきくなる。子どもを連れた女性たちがあつまっているテーブルから笑い声が響いてくる。同じ高校の男子生徒のグループはひとりのスマートフォンを覗きこみながら有名なテニスプレイヤーを称賛している。階下からは途切れることなく注文を受ける声と入店への挨拶とが聞こえてくる。

 窓のむこうの駅のロータリーにバスが一台はいってくる。ショッピングモールへむかうバスだった。もうしばらくすると定期券の期限が切れてしまうなと佐伯弘貢はおもう。もう一度くらい乗れるだろうか。

 鼻をすする音がした。一時窓へむけていた視線を正面に戻せば、暮木ミゾノが笑うように泣いている。目尻から頬へ伝うひとしずくを乱暴に手の甲で拭うも、またすぐにひと筋ふた筋と跡をつける。

「どうしたの?」

 佐伯弘貢は手をのばして軽く暮木ミゾノの目尻を拭う。わかんない。乾燥したのかな? と暮木ミゾノはぽつぽつと言う。

 涙はなかなかとまらなかった。暮木ミゾノは頬に垂れるのを機械的に拭う。おかしいなとつぶやき目もとをごしごしと擦るから、目がわるくなりはしないかと佐伯弘貢は心配になった。

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