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 佐伯弘貢が出ていったあとの教室では、残された同級生たち三人が彼の言動を茶化して笑っていた。彼の発言を口真似した男子生徒を女子生徒が笑う。やだもうまじ似てる。きみたちいいかげんにしないか、ゴミぐらいちゃんと捨てればいいじゃないか。このあいだのデートのときのじゃん、うける。

 腹をかかえて笑う女子生徒のひとりが、ふと思い立ったように窓際へと近づき、そこから見える駐輪場を見下ろした。佐伯弘貢が教室を出ていった時間を考えれば、もう間もなく姿を見せるはずで、心やさしい彼ならば、挨拶のひとつでもすればからかったことを許してくれるだろうという思いが彼女にはあった。はたして覗きこんだ女子生徒は、すこしのびてきた前髪を払いながら、今なお言動を真似て笑い合っているふたりの友人を窓際へ呼ぶことになった。

「ツグのやつ、角野さんといっしょに歩いてるんだけれど」

 三人のいる教室棟とむかいの特別教室棟とのあいだには、ふた学年分の駐輪場と広場が設けられている。二年生が利用する特別教室棟に近い駐輪場のあたりを、角野潤に従うかたちで佐伯弘貢は歩いていた。

 やっぱあいつ角野に気があるんじゃね。しんじらんない、アタシはどうなんの? ただタイミングがいっしょになっただけかもしれないだろう? そんなわけないじゃん。前髪をいじって女子生徒は激高した。男子生徒は呆れたような顔をし、もうひとりの女子生徒はしきりに彼女をなだめようとした。

 駐輪所のふたりは自転車に乗ることなく、そのまま特別教室棟の端までいき、非常口から化学室へとはいっていった。室内の様子は手前側ならうかがうことができた。しかし窓に近づいてきた角野潤が端から遮光カーテンを閉めはじめる。容赦なく閉ざされていくカーテンを、三人は呆然と見ていた。最後の一枚を閉めるときに角野潤は顔をあげ、三人のいる教室をながめた。すこしだけ笑みをうかべたあといっぺんにカーテンを引いた。

 カーテンを占め終えた角野潤は、いまだ非常口あたりで所在なさげに立っている同級生に、いちばん近くの座席に座るよううながした。佐伯弘貢はなおこわごわといった風に木組みの椅子に座り、角野潤は彼の正面に座を占めた。

「ついてきてもらってありがとう」角野潤は感情のこもらない声で話しはじめた。「呼びとめたのはほかでもありません。佐伯弘貢くんにお願いしたいことがあるんです」

「お願いしたいこと? 僕なんかに?」

「きみにしかお願いできないことなんです」

「奇妙なお願いだね」

 いたってシンプルなお願いだと角野潤はいう。「私がきみにしてほしいのは、これからひと月のあいだ、具体的にいえば学校へ通い帰宅するまでのあいだ、つきっきりで私のボディーガードをしてほしいということです。いかがですか。難しいことではないでしょう?」

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