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 食後に暮木ミゾノが望むとおり生活雑貨の店へむかう。

 所狭しと商品がならび目移りし混乱しそうななか、暮木ミゾノは気になる商品を見つけては手にとり眺める。棚と棚とのあいだをじぐざぐにぬけていき、ついにブレスレットに辿りつく。

 暮木ミゾノはブレスレットを手にとり革紐の感触を指先でたしかめた。佐伯弘貢がその所作を見ているのに気がつくと顔をむけて頬笑んだ。おもむろに左手首に巻くと、その手を佐伯弘貢のほうへ突きだして「どうよ?」と聞く。佐伯弘貢の返事に、暮木ミゾノは満足そうに目もとを細めた。ブレスレットを外して元あった場所へ戻すと、じゃあ、次にいこうと言う。

 二階の通路を歩いていると、円形にひらけた吹き抜けのあたりに人だかりができていた。一階にある広場でこれからイベントがおこなわれるというので、暮木ミゾノが興味をもった。手すりによりかかって下を見ると、ならべられたパイプ椅子はすべて人で埋まっている。

 ステージが用意されていて、幕に書かれている文言によれば、これからおこなわれるのは地元書道教室による書道パフォーマンスらしい。下敷きとおおきな紙、それから硯と筆とがいくつも用意されている。特に目を惹くのが、ステージの下のスペースに用意されているひときわ巨大な紙だ。そばにはひとかかえはある筆と墨汁がたっぷりはいったバケツがおかれていた。

 書道教室のこどもたちなのだろう。ステージの脇には背のまちまちな子どもたちが黒い上下に身をつつみ、落ち着きなく控えている。

 佐伯弘貢と暮木ミゾノは学校の芸術科目として書道を選択している。歌も絵も苦手だからという消極的な理由で選んだ佐伯弘貢にひきかえ、暮木ミゾノは字がうまくなりたいという積極的な理由で選択した。しかし暮木ミゾノの文字は、正しさよりも芸術性を求めて発展したようにおもわれた。彼女の澄ましたような丸文字が佐伯弘貢は好きだった。

 音楽が鳴りはじめ、子どもたちがわらわらとステージにあがってくると、観客は拍手で出迎えた。暮木ミゾノも佐伯弘貢も追従する。

 BGMがあるせいか、黙々と筆を走らせている姿を見ているだけでも期待感がわいた。次の曲で暮木ミゾノが好きなダンスユニットの曲がかかったため、彼女は上機嫌になった。あの巨大な紙と筆の出番となった。体格の良い男の子が両手に筆をかかえ、書くというよりも塗りつぶすように大書していく。

「うまいのかどうかわからないけれどすてき!」

 両脇から二人がかりでもちあげられた作品は、暮木ミゾノが言うようにうまいのかどうかはわからなかった。しかし迫力はあった。観衆は拍手で子どもたちの頑張りをたたえた。

 イベントが終わり、ちらほらと観衆が買い物へ戻りはじめたが、ふたりはわけもなくその場に残って書道教室の子どもたちとその親、そして先生とおもわれる女性たちの充実した気配の漂う片づけを眺めていた。

「あっ」

 暮木ミゾノが声をもらした。

 バケツを片づけようとしたひとりの男の子が手を滑らせてしまった。バケツはモール内に充満する華やかな喧騒を貫く音を発し、墨汁は白い床にねばねばと広がっていく。大人たちが慌てて近づいてきて対処する。バケツを落とした子は足もとを墨汁で黒く汚しながら、呆然としたようにたちつくしていた。

 こんな場面をかつてどこかで見た――佐伯弘貢はそんな気がした。

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