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 人々の話声と館内の放送とで騒々しいショッピングモールを歩きながら、角野潤はとおりかかった店舗の店先をちらちらと見、なにか関心を惹かれたものを指さしては佐伯弘貢におかしそうに報告する。まるでほんとうに気心の知れた相手といっしょにいるような振る舞い方だった。

 人混みと角野潤の頬笑みとが佐伯弘貢に追究をためらわせる。頬笑みかけてくる角野潤の表情はあまりにも無邪気だった。心の底から楽しんでいるかのようでさえある。

「ちょっと寄ってもいい?」と角野潤が言って指さしたのは生活雑貨の店だった。

 敷地ぎりぎりまででた机型の陳列棚には小物の商品がこぼれそうなくらいにならんでいる。店内にも商品は溢れ、うっかりしてしまうと歩いたときの肘で落としてしまいそうだった。

 店内には女性客がおおかった。友人同士でなにかささめきながら買うかどうかと相談していたり、無関心な顔つきをしながら棚を眺めていたりした。

 角野潤は興味がむくまま商品を眺め、手にとり、佐伯弘貢に話しかけた。

 暮木ミゾノも好んでこの店にたちよる。彼女とこのショッピングモールへくるときは、かならずこの店を訪れていた。前回来たのは二週間まえだった。

 映画が観たいと暮木ミゾノが言い、ふたりでモール内にあるシネマコンプレックスでミュージカル映画を観たあとのことだった。その映画のなかでヒロインが手首に巻いていた革紐のブレスレットを暮木ミゾノは気に入ったらしく、鑑賞後たちよったこの店でそれと似たブレスレットを見つけてうれしそうにしていた。

 無駄遣いはできないからと言って見るだけで満足していたのを、プレゼントしてあげると言ったら、わるいからいいと固辞した。暮木ミゾノは自身のことで佐伯弘貢に金をでさせたがらない。映画のチケットも昼に食べたパスタの料金も個々で支払った。これまでもずっとそうだった。

「アタシはツグの所有物じゃないの。ツグとアタシは対等だっておもってる」

 いつだって暮木ミゾノはそう言った。

「所有物?」

「もしきみがこれをアタシのために買ってくれたとする。そうしたら、これはまずきみのものになって、それからアタシに譲渡されたことになる。それはなんだかいびつな関係に思えるの。もちろん、買ってくれようとするツグの気持ちはすごくうれしいよ。抱きしめたいくらい。でも、気持ちだけでうれしいの」

 彼女が佐伯弘貢との関係をたんなる依存関係ではないものにしたいという意思が感じられた。佐伯弘貢は彼女の自立心を尊敬している。だがそれでも、もうすこし頼ってくれてもいいのではないかとおもう。

 足元にすり寄って信愛をしめすが、抱きかかえようとすれば逃げていく子ネコみたいな暮木ミゾノ。もうすこし、手を差しのばしたときに、その手をとってほしい。

 だから昨日の電話で、奢ってよねと言ってくれたことはうれしくもあった。たとえ佐伯弘貢の落ち度に対するうめあわせだとしても。

 あのブレスレットを誕生日にプレゼントしよう。佐伯弘貢はそう決めていた。もしも暮木ミゾノがそれを受けとってくれたなら、佐伯弘貢にとってこれ以上の幸福はない。

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