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「デート?」

 角野潤はショッピングモールへいきたいというのではないかという直感があった。直感というよりも予感に近い感覚かもしれない。暮木ミゾノがいきたいというのなら角野潤も同じようにいきたいと言うのではないかという、根拠のない連想ゲームじみたものでしかなかった。

 いや、あてずっぽうで的中させたことなどどうでもいいことだった。佐伯弘貢は角野潤の次の言葉の意味をはかりかねた。

「デートです。ふたりが約束をとり決めて出かけていくのだから、それをデートと呼ぶのでしょう?」

「だれとだれの?」

「もちろんきみと私の」

 佐伯弘貢の狼狽して言葉につまった。角野潤は無慈悲なぐらい誠実なAIみたいに沈黙して角野潤の言葉を待った。佐伯弘貢が次の言葉を放つまでいつまでも待っていそうな気配があった。

「角野さんは、僕のことをからかっているんだね?」

 ようやくでた言葉が無力であることを、言いながらすでに佐伯弘貢は自覚していた。

「ひどいことをいうのね。せっかくお誘いしたというのに」

「呼びだされたんだとおもうのだけれど」

「意見の相違ね」

 でも、そんなことはどうでもいいじゃない。角野潤は頬笑み、歩きはじめる。

 となりを抜けていかれても、佐伯弘貢は歩きだす気になれなかった。

 角野潤がたちどまり、首をめぐらして佐伯弘貢をふり返る。いかないの? と不自然なのはあなたのほうだというように微笑する。佐伯弘貢はいっしょについていく義理はないとよっぽどいおうとしたが、それよりも先に角野潤が視線をはずす。

「私なりに、おしゃれはしてみたつもりなのだけれど?」角野潤は白いブラウスの上に羽織った黒いレースのベストをつまんでみせる。腰をひいてはジーンズのパンツと軽量に設計された運動靴とを見下ろす。「どうかな? これでも楽しみにしていたんだ」

 空とぼけているのだろうか。たぶんそうなのだろう、と佐伯弘貢はおもった。

 彼女の意図は一向にわからない。その原因はひたすらに彼女がなにかを隠しているからだ。佐伯弘貢には彼女が秘匿する事柄の輪郭すらなぞれていない。正直にいえば彼女のいうことは信用できない。

 だが、そう頭では理解していながらも、角野潤を放っておく決断はできなかった。

 だから、これだけはたしかめたかった。

「きみがおそれている相手は、学校で出会う人のなかにいるの?」

 角野潤はつまんでいたベストをはなす。両手を身体の左右に垂らし、これまでとは感触の異なる微笑を口もとにたたえた。

「ほら、おのずとわかってくるって、私言ったでしょう?」

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