魚化(うおか)
昔書いたやつ。
一応、哲学モノです。
僕は魚だった。
正しくは、「魚になっていた」だろうか。
覚えている限り、僕はもともと人間だったはずである。確かに、うまい棒のコーンスープ味を食べながら、YouTubeでドキュメンタリージャンルの動画を見ていた記憶があるからだ。
とにかく、何だか訳はわからないけれど、僕は魚になっていた。
しかし、僕が本当に魚ならば、僕が僕を「魚だな」と知覚するのは難しいように思える。しかし、なんというか、本能的な、抽象的な、いわゆる「勘」のようなもので、僕は間違いなく魚なんだと思った。それにはなんとなく矛盾が伴うように思えたが、やはり僕は魚だった。
腕を動かすような感じで胸ビレが動き、足を動かすような感じで尾ビレが動いた。その他のヒレは、人間では例えられない感じで力を込めると動いた。陸上を動くのに不便な身体だった。
言い忘れていたが、僕は陸上にいた。息が苦しくて、無意識にピチピチやっていた。漁師に釣られた魚ってこんな感じなんだな、と思った。
とにかく、水に戻りたい。しかし、目が乾いてしまっているのか、ほとんど周りは見えないので、そばに水場があるかわからないどころか、今が朝なのか夜なのかもわからなかった。僕にできるのは、適当にピチピチして、水場に入るのを待つことだけだった。
どれだけ時間が経っただろうか。僕は魚なのに、意識が朦朧としてきた。ピチピチやる体力も尽きてしまった。
一歩も動けない。
僕に足はないけれど、そんな状況だった。
僕は死ぬのかもしれない。
僕にとって、「僕」とはこの上ない存在であり、「僕」がいなくなったら僕の中では世界が宇宙もろとも終わってしまう、どうしようもなく大きな概念だったから、それが消えてしまうのは、どうにも想像がつかなかった。
なんにしろ、「僕」は死んでしまいそうだった。
助けてと叫びたくても、やはり僕は魚だったから、どうしようもなかった。
しばらくぼんやりとした意識の層を漂っていたが、ふと、僕は思い出した。
僕は人間だった。
思えば、人間である僕が、突然魚に変貌して、ただの陸で、空腹でもなく、野垂れ死ぬのは理不尽極まりなかった。
でも、やっぱりそれを思い出したところで、現状は何も変わらなかった。
ああ嫌だ。僕は死ぬのか。あぁ…。
人間に戻りたい。
「人間に戻りたい。」
気付けば、家にいた。朝だった。
僕は机に向かって椅子に座っていて、目の前には、画面が真っ暗になった、僕のスマホが置かれていた。
スマホの横には、コーンスープ味のうまい棒が置かれていた。




