そして、盛大に祝われながら産まれた
長男・リュリアス視点
空には星が無数に輝き、大きな満月が世界を照らしている。
とても不思議な気がする、僕が七歳の頃のある夜。
こんなに大きな満月は、とても珍しいらしいけど、我が家はそんなことどうでもよかった。
お腹の大きかったお母様が、産気付いたらしいと、屋敷で働く皆が大慌てで騒がしい。
「うー!!うーーん!!!」
別室にいる母様の、悲痛な呻き声が屋敷に響く。
もう、夜中の23時。
「リュリアス、もう遅いから寝なさい」
無表情な父様が僕に言う。
いつもなら寝ている時間だけど、僕は母様が心配で寝れないので、首を横に振る。
「もう少しだけ、起きていたいです」
「そうか」
寝ない!との意思表示を見てか、それ以上父様は何も言わなかった。
会話はなく、時間だけが過ぎていく。
それにしても、今まで見たことないくらいすごく大きな月だ。
月に照らされた庭を見る。
ん?
いつも通りの庭だけど、何か違和感がある。
何も見えないけど、ザワザワしている様な感じ。一体なにだろう?と目を凝らしていると、それに気づいた父様も庭に目を向け、そして目を見開いた。
沈着冷静な執事のルークも目を見開いたまま、固まっている。
「何か見えるの?何かいるの?」
二人は何を驚いているんだろう?僕には全く見えない。
「精・・霊・・・・?」
ルークが、その一言だけ呟いた。
精霊?
魔力がある者は見ることが出来る。また、精霊が意図して姿を現す場合は、魔力の有り無しに関わらず見えるみたいだけども。
どんな姿をしているのだろう?
そんな時だった。
「おぎゃー!おぎゃー!!」
母様のいる部屋から、皆が待ち望んでいた声が響いた。
「レイラ!!」
父様は、声が聞こえるやいなや、部屋に慌てて入っていった。
と、その瞬間ぶわっと庭から気圧?みたいなモノが僕の体をなでた。
慌ててまた庭に目を向けると、その光景に息を飲んだ。
「これが精霊・・・」
大小様々な大きさの精霊が、月の光を反射しながら庭で舞い踊っており、庭が輝いている。
外の景色に目を奪われていると、ハッと我にかえったルークが、
「リュリアス様、奥様の元へ向かわれますか?」
と、聞いてきた。外の景色をもっと見ていたいとも思いつつ、早く母様と赤ちゃんに会いたい。
急いで母様のいる部屋に入ったけど、今度はそこの景色に驚愕した。
いつもは無表情な父様の顔が、満面の笑みになってるのも、普段なら驚くが今はそうじゃない。
父様に抱かれている、待ちに待った小さな赤ちゃん。
「光ってる・・・?」
父様の腕の中で、赤ちゃんがキラキラ淡く輝いていた。
赤ちゃんって、輝くものなのか?インパクトがありすぎて頭が回らない。
だから、ついポロッと、なにも考えずに言葉がでた。
「今日のお月さまみたい・・・」
部屋にいた皆が、窓の外を見た。
一瞬、母様がその光景に驚いた顔になったが、すぐにいつもの優しい笑顔になった。
「あらまぁ。精霊様達も、祝ってくれているのですね」
穏やかで、でも少し疲れている様な、優しい声。
父様がうむと頷き、外から赤ちゃんに視線を向けた。
「美しい月の日に産まれたこの子の名前は、セレーネ」
「セレーネ・・・とても、良い名前ですわね」
母様も皆も、とても嬉しそうだった。
それから、不思議なことが色々起こった。
まず、僕は精霊が見えるようになった。
普通は、体がある程度育った十歳を迎えてから魔力が発現し、精霊が見えるようになるみたい。
父様は、あの晩僕が精霊達の魔力にあてられて、普通よりも早く魔力が発現したのではないか、と言った。
そして、セレーネの側には、いつも何人かの精霊がいる。
やっと座れるようになったセレーネはすでに精霊が見えているのか、小さな精霊をむぎゅっと掴み、振り回している。
精霊が目を回していた。
でもセレーネが何をしても、精霊達は怒らない。
「セレーネは何をしてるの?」
僕より二歳年下の双子の妹達にはまだ精霊が見えてなく、何も持っていない手を振り回しているセレーネが不思議で仕方ないらしい。
それから、後ろに倒れそうになったセレーネを精霊がフワッと浮かせたのを見た、双子の妹・ルミユが、
「お父様ー!セレーネが浮いてますわ!!」
と、オロオロしたり。
セレーネがテーブルクロスを引っ張って、置いていた花瓶がセレーネの上に落ちてきた時、当たらないようにと精霊が浮かせた花瓶を見たもう一人の双子の妹・リルユが、
「ルーク、花瓶が浮いてますわ!!」
と、目をキラキラさせたり。
セレーネの一歳上の弟のサイフィスが、セレーネをパシンっと叩いた瞬間、怒った精霊がサイフィスの体を宙に浮かせ、それを見たメイド達が叫び、双子が嬉しそうにパチパチと手を叩き、叫び声に慌てて飛んできたルークが硬直したりと、我が家がカオスになったり。
ほんと、色々あった。
セレーネが産まれたあの夜。
父様は僕に、セレーネを抱っこさせてくれた。
そして、床に膝をつき僕と目を合わせて言った。
「セレーネは精霊に愛されし、不思議な・・・大切な子だ」
『大切な子』
それは、僕の妹っていうだけじゃない、大きな意味も含まれている、そんな気がした。
「私と共に力を合わせて、守ってくれるかい?」
父様が真剣な表情で、僕に聞いてきた。
「もちろんだよ!僕、セレーネを守ってみせる!」
そう答えた時の、父様の顔を僕はきっと忘れないと思う。
僕は、セレーネも、ルミナもリルユもサイフィスも、皆を守ってみせる!
皆を守るために、強くなる!そう誓った。