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私が消えた日。

以前の物語を、ガラッと変更いたしました。

目の前の空中に浮かんでいる大きな球体の水晶に、映し出される世界。

昼だというのに空には闇が覆い、海は大荒れ、大地は枯れ果てる寸前。

世界に呪いが蔓延していた。


『人間とは、愚かな生き物だな』

そう呆れながらものを言うのは、球体の映像を肩肘をつきながら眺める【大樹の王】。


『人間の争いに他の生き物の命をも巻き込む・・・害でしかないのう』

鋭い目付きで水晶を睨むのは、【深海の王】。


『我らの力を合わせれば、世界の滅びはまぬがれる』

そして、私、【天空の王】。



『妾達の力を合わせれば滅びはまぬがれるやもしれぬが、妾達が無事という保証はないぞ?愚かな人間達の代わりに、妾達が消えるやもしれぬ』

深い深海の様な青い長い髪の一房をいじりながら、ため息まじりに言う。


『人間が滅びれば、また再び創ればよい。だが、我らが消えることは許されぬ』

深い緑の色をした瞳が、私を強く睨む。


『だからと言って、このまま見過ごすのか?私達が力を合わせてやっと対処できるあの呪いを、人間一人(生け贄)では、受け止めきれないのは見てわかるだろう』


『だから、あの男の仲間を最初の精霊に変えてやったであろう。どこまでもつかは分からぬがのう。後は人間達の問題ぞ』


『空よ、君は人間に肩入れし過ぎだ。我らはこれ以上は手出しはせぬ。我らは、我らの役割を果たそう』



二人に諭されるように言われる。

水晶を見ると、一人の人間と六人のかつては人間であった精霊が、呪いを抑え込もうと、必死に対峙している。

残虐な人の王に全てを踏みにじられ奪われた、全てに絶望した哀れな乙女の呪い。


彼等が呪いに膝をついた時、ぼろぼろになった風の精霊が助けを求めて、私の前に現れた。




『空よ!行くでない!』

『待つのじゃ!!』




二人の制止を振り切って、私は彼等のもとへと飛び出していた。








------------




肌に纏わりつく、呪い。

呪いの元凶に近けぱ近く程に、乙女の想いが頭の中に響いてくる。


国を人質にとられ、婚約者から引き剥がされて、無理矢理嫁がされた姫の悲しい想い。


約束を破り、目の前で国を蹂躙し滅ぼされた、憎しみの想い。


姫を助け出そうとした婚約者である王子の国をも滅ぼしたことを知った、絶望の想い。


そして・・・

反逆者として濡れ衣を着せられ、変わり果てた自国の城の中で、埋葬されずに放置され腐り果てた、親の前で首を跳ねられた、怨みの想い。




そんな想いが呪いとなり、世界を覆っている。




荒れ果てた国の城の、かつては王座の間であったであろう場所で、彼を見つけた。

彼の前には、呪いの元凶の乙女が立っている。

呪いにより傷ついた彼を、精霊達が守りながら乙女と対峙していた。


弱りきっても、彼を守る為に戦う精霊達と乙女の間に、私は降り立った。



『乙女よ。そなたの想い、全て私にぶつけよ。全て受け止め包み込もう』



呪いの化身と化した乙女を、そっと両腕で包み込む。


〈あああ"あ"あ"あああ"あ"!!!〉


乙女の悲痛な叫び声が、辺りに響いた。

そのとたん、周りの全ての呪いが私の体の中に入ってきた。

身を切り裂く様な痛みに、絶望・恐怖・怒りに精神()が壊されそうになる。

集中して呪いを全て受け止めながら、悟る。

私の存在が消え去る事を。

消えることに恐怖も何もない。ただ、消えた後が心配なだけ。



『精霊達よ。私は貴方達の望みを叶えた・・・だから、私の頼みも叶えよ』


背中で、精霊達がいっせいに私を見た気配がした。


『私がいない間・・・空を治めよ』


『仰せのままに』


チラと後ろを見れば、六人の精霊達は皆私に向かって頭を下げていた。

そして、この場にいない空の眷属達に、頭の中で語りかける。


『私が再び戻るまで···精霊達とともに空を支えよ』


ただ事ではないと感じ取ったのか、眷属達が慌てている感じが伝わってくる。









あらかた呪いを受け入れれば、あんなに禍々しかった乙女の姿が、本来の美しい姫の姿へと戻っていた。

周りに放置されていた朽ち果てた遺体から、白く輝くモヤが空に立ち上り、消えていく。

そのモヤの中でうっすらと、優しく微笑む人々の顔が見えた気がした。


『貴方も、安らかに眠りにつけ』


だが、乙女は両手で顔を覆い、泣きながら頭を横にふる。

乙女の気が晴れるまで付き合う時間はないと、消えかけている右手を見ながら思う。

だから、乙女にある提案を伝えると、驚いた顔をした後、笑顔で消えていった。



そして、私は傷だらけの彼と向かい合った。

夜空の様な漆黒の髪。月を思わせる銀の瞳の青年。


思い出すのは、幽閉された塔の窓から寂しそうに空を見上げていた、愛に飢えていた少年の彼と出会った日。

彼と、彼を大切に想う六人の友と共に笑いあった日々。


彼の頬にそっと触れ、残りのわずかな力で傷を癒す。

彼は目を見開き、消えかけている私の手を掴み、何かを叫びながら涙を流した。





ああ・・・

私はもう、君の声さえ聞こえない・・・





最後の力で、彼の中から私を消そう。

彼が次に目覚めた時、悲しみで泣かないように。


眠りについた彼の額に、優しく唇を落とす。


『君に・・・空の・・・祝福・・・を』


最後の呟きと共に、私はこの世界から消えた。

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